66 凶報、来たる
ミスリル鉱山からの連絡は、矢文によってもたらされたそうだ。
「それはたしかに急報だな……!?」
冒険者の中にはスティング(突)のオーラによって弓矢を強化し、より遠くの狙った場所へ矢を飛ばせる者もいる。
C級以上の手錬に限られるが、上手く風を掴めばミスリル鉱山からここまで一発で矢を飛ばすことも可能だ。
ただそれも、正確性がいまいちだったり万が一にも人に当たる危険性もあったりで、余程急いでいなければとらない連絡法だった。
つまり向こうで、そこまで急ぐべき緊急事態が起こったということだった。
「…………」
俺は、矢に結び付けてあったという紙を開き、中に書いてある文を読む。
「これは……ッ!?」
想像を超える大変な事態が書いてあった。
「お義父さん……、もといギルドマスターを呼んでくれ! 待機している冒険者もいるだけ緊急招集!!」
俺の切羽詰まった声に、周囲の珍客たちも異常に気づく。
「ダリエル……? 一体どうしたのだ?」
「そんな切迫した声を上げて……、トラブルか?」
心配そうに寄ってくる人々。
一瞬言おうかどうか迷ったが、隠してもしょうがないので包み隠さず話すことにした。
「……ミスリル鉱山が、襲撃を受けたそうです」
「襲撃!?」
「巨大なモンスターに」
ミスリル鉱山は、このラクス村の近くにある重要拠点。
世界一の鉱物ミスリルを産出する鉱山は、巨万の富の源泉だ。
あまりに重要なため魔族と人間族の間で何百年にも渡って奪い合いが続いているとまで言われている。
我がラクス村も、近くにミスリル鉱山があるため賑わっている面もあって……。
……とにかく重要拠点なのだ。
そこが襲撃されていると聞いて、黙って傍観しているわけにはいかない。
「ラクス村からも急ぎ救援隊を派遣します」
矢文の内容もつまるところは救援要請だったので。
「俺みずから率いていきます。なので、すみませんが失礼させていただきます」
「待ってください」
急ぎ退室しようとする俺を引き留める。
それは勇者のレーディであった。
「私も行きます。救援部隊に加えてください」
「ええ……!? でも……!?」
「人間族を災いから守るのが勇者本来の務め。だからこそ目に見える範囲にある災いを見過ごすことはできません。それに今は私もラクス村のお世話になっている身です。恩返しの機会はしっかり押さえておかないと」
「…………」
俺は最初どうしようか迷ったが、レーディは勇者だけあって間違いなく頼りになる。
どの程度の災害が現地で起こっているか窺い知れない今、用意できる最大の戦力を確保しておきたい……!?
「……わかった、お願いする」
結局は、安全の確実性をとってレーディの好意を受けることにした。
「勇者様、村の安全を守るためにご協力いただき感謝いたします」
「や、やだ。そんな改まってお礼なんて言わないでくださいよ……!?」
レーディは顔を真っ赤にして照れるが、これが村長としての責務だからな。
では早速出撃しようとしたところ……。
「待つのだわ」
まだなんかあるんかい?
「わたくしも行くのだわ」
そう言い出したのはゼビアンテスだった。
「なんでお前まで!? お前はさすがに関係ないでしょう!? 人間族のトラブルなんだから!?」
どう考えても魔族側の四天王が出張る案件ではない。
「そうもいかないのだわ。襲われているのはミスリル鉱山なのでしょう? もしトラブルでミスリル採掘量が落ちたら困るのだわ」
「そっかー」
コイツがラクス村に入り浸るようになったきっかけは、それだったもんな。
「わたくしの身を飾るために、これからもたくさんのミスリルが必要なのだわ! だからミスリル採掘作業を邪魔する者は月に代わってお仕置きが必要なのだわ!」
「何故月に代行して……!?」
いやでも……!?
さすがに魔族の、それも最高位の四天王の力を借りたら後々面倒くさいことになりそうな……!?
なるよね。きっと必ず。
「わたくしにまかせれば、救援隊を風に乗せて送ってやるのだわ」
「ぬぐッ!? それは……!?」
「風魔法は、ただ身を隠すだけが得意の魔法ではないのだわ。全属性中最速が風魔法なのだわ。わたくしの風で送ってあげれば、走っていくより何倍も早く着くのだわ」
その提案は……、正直有り難い。
報せが届いたこの瞬間にも、現地ミスリル鉱山は襲撃戦の真っただ中にいるはず。
一秒でも早い救援が必要なのだ!
「……わかりました、お願いします」
「任せるのだわーッ!!」
この時既に俺の脳内にはセンターギルドへ向けた言い訳&誤魔化しの文言が十ほど浮かんでいたが、それでも不安と面倒くささを拭いきることはできなかった。
「そういうことなら……」
「……私たちも動かぬわけにもいかんな」
グランバーザ様とアランツィルさんまで!?
ちょっと待ってください! 何処のオールスターチームですか!?
一国にケンカ売りに行ける戦力になるじゃないですか!?
「見縊るな。引退したとはいえ、まだまだ動けるぞ。そんじょそこらのモンスターなど一掃してくれるわ」
「戦場に、この老いぼれの知恵が役立つこともあろう。引退しても勇者の責務は消えぬ。役立たせてほしい」
そうは言いますが……!
ああもう! 説得している時間も惜しい!
とにかくみんなまとめて出発だ!!
「ここにいる人員で先発隊を組織し急行する!!」
ヤケ気味に、報告で来た村人に指示を告げる。
「ガシタに後続隊を編成し、率いてくるように伝えてくれ! 急ぎつつ、準備をしっかりとな!!」
「は、はい……!」
こうしてグランを抱えたマリーカに見送られて俺たちは出発した。
ミスリル鉱山へ一直線に。
ゼビアンテスの起こす風に乗って。
◆
途中、勇者パーティであるサトメとセッシャさんも加わり、先発隊の陣容は益々強力に。
「うおおおおおおッ!?」
「飛んでるッ!? 空飛んでるッ!? しかもすごく速いッ!?」
風魔法使いの起こす飛翔風に乗るのが初めての人間チーム。驚き戸惑うのも無理がなかろう。
「にゃはははははは! 驚くがいいのだわ! これで目的地へ一ッ飛びなのだわーッ!?」
そしてここぞとばかりに得意満面のゼビアンテス。
浮かれるのはいいから前見て飛んでほしい。
「……魔族の使う魔法は、戦闘以外にも広く応用が可能。それが人間族のオーラ能力との最大の違いだ」
同じく風に乗るアランツィルさんが言う。
「魔族は、本当に様々なことができる。我々の想像も及ばないほどにな……」
「何か言いたいことでもあるのか?」
グランバーザ様が、元宿敵の含みに反応した。
「ミスリル鉱山を襲っているのは、巨大なモンスターだそうだな」
「……まさかッ!? この期に及んで貴様、まだそんな俗説を信じているというのか!?」
歴戦の猛者グランバーザ様は、相手の言わんとすることを明敏に察した。
俺も察した。
「モンスター……、魔物は、魔族が操っている。それは人間側の完全な誤解ですよ」
人間側には、そんな噂が蔓延っている。
動物とも違う、異様にして邪悪な怪物……。
魔物。
それは魔王様が生み出したものであり、その命令に従って人間族を襲っているのだと。
『魔王を倒せば世界が平和になる』という主張も、その俗説が根拠の一つとなっているのだろう。
魔王様さえ倒せば魔物も滅ぶと。
「しかし事実は違う。魔物は魔族にとっても脅威なのだ。人間にとってと同様に」
魔族なら魔物を制御、使役することができる。
人間族はそう思っているらしいが、そんなのは根拠のないデタラメだ。
魔物……、モンスターは魔族も人間族も区別なく襲っている。
「魔族の弱き民をモンスターから守る。それもまた魔王軍の重要な任務の一つなのだ」
「今、ミスリル鉱山を襲っているという巨大モンスターも、偶然現れたもので魔王軍とは関係ないと?」
「無論だ!!」
アランツィルさんのかける疑いに、グランバーザ様は即座に否定するのだった。
やはりウチのグランくんを主軸に和解が成ったものの、数十年と戦い続けてきた二人の確執がそう簡単に完全消滅するわけがない。
ちょっとした疑いも発生するだろう。
それらの疑いは時間を掛けて払拭していけばいいのだが、そのためにもまずは……。
今、現実の危機として迫っているミスリル鉱山の巨大モンスターとやらを倒さねば。






