表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/322

05 ダリエル、村の一員となる

「えー、というわけで……」


 なんか村の皆さんに紹介されることになった。

 俺が。


 いきなり村人全員を集めて。


「このラクス村に新しく住むことになったダリエルくんだ」


 マリーカさんのお父さんが、俺の肩をバンバン叩いた。

「コイツだよ?」と示すように。

 お父さん自身が何か自慢げなのが謎。


「ど、どもー……?」


 俺は精一杯愛想よくしてみたが、村人たちの視線はどう解釈しても『珍獣』に向けられるものだった。


「彼には冒険者として働いてもらう。依頼はいつものようにワシが一括して受け付けるので、困ったことがあれば村長であるワシのところに言いに来てくれ」

「え?」


 それにもっとも反応したのが俺だった。

 マリーカさんのお父さんに対して。


「村長だったんですかアナタ!?」

「おう、言ってなかったか? ワシが村長だ! ギルドマスターでもあるがな」


 どういうことですか?


「小さな村なんでな。村長がギルドマスターを兼ねておるのよ」


 小さな村とはいうが、こうして村の全住人を目の前にすると、大袈裟な表現でなかったことがわかる。


 せいぜい三十人程度しかいない。

 これが村の総人口というわけか。


 ギルドも正式な支部を持たず、村長がギルドマスターを兼任するだけで機能できてしまう規模……、というのが納得できてしまう。


 ……ところで。

 するとマリーカさんは村長の娘さん?


「……ご紹介に預かりましたダリエルです」


 とりあえず自分からも自己紹介。


「これから村の一員となるべく頑張っていく所存です。仲良くしていただければ幸いです」


 できるだけ物腰柔らかく当たっていく。

「舐められないように」とか考えてもロクなことにならない。


「礼儀正しいねえ……」

「外から来た人だと聞いて最初は心配したが……」

「しかも案外男前じゃない……?」


 村人たちから好印象を得たようだ。

 滑り出しとしては悪くない……。


「へッ、気に入らねえなあ」


 ……というわけでもなかった。

 一人、俺への敵意を剥き出しにしている。


「冒険者だと? なんでラクス村に冒険者が二人もいるんだよ?」

「?」


 若い男だった。

 見た目からして二十歳前後。


 体つきもしっかりしていて、よく動けそうだが、顔つきは生意気盛りで十代の幼さをまだまだ残していた。


「……キミは?」

「気安く話かけんじゃねえよオッサン!」


 反応が幼い。

 まあ、たしかに俺はオッサンだけど。

 三十歳はけっこう前に過ぎ去ったけど……!


「……彼は?」


 仕方ないので村長さんに振る。

 マリーカさんのお父さん改め村長さんだ。


「……ガシタと言ってな。今や我が村では貴重な若者じゃい」


 村長さんも少しげんなりした表情になる。


「冒険者をやっとる」

「彼も」

「というか我が村でたった一人の冒険者だ。他にはなり手がおらんでな」


 聞きしに勝る過疎ぶりだな。

 冒険者がたった一人の村とは。


「だからキミが来てくれて助かったんだ。キミが加入してラクス村の冒険者は一人から二人になった。これで村人からの依頼もスムーズにさばける」


 やっぱり一人じゃ回しきれないんですか。


「煩せえよ! この村の冒険者はオレ一人だけで充分だ!!」


 それに食って掛かるのがガシタとかいう若者だった。


「大体、こんなオッサンが冒険者として通用するのかよ? 冒険者は厳しい仕事なんだぜ? バカや弱虫には務まらねえぜ?」


 あからさまに挑戦的な口調を向けてくる。


「こんなくたびれたオッサンによ。森の中を駆け回る体力はあるのかよ? モンスターと戦えるのかよ?」

「体力だけは自信あるつもりだよ」

「……何級だよ?」

「え?」

「冒険者の等級だよ! そんなこともわからねえのか素人が!!」


 そう言われても、俺もつい最近冒険者になった紛うことなき素人だからなあ。


「……ダリエルくん、手の甲を見てみなさい」


 見かねた村長が助け舟を出してくれた。


「手の甲?」

「そこに紋章が浮かんでいるだろう。ギルド登録者に刻まれる紋章だ」


 言われてみれば。

 登録の儀式をした時に浮かんだな?


「これはE級冒険者の紋章だ。冒険者にはE~Aまでの等級がある」

「E級!? 最下級じゃねえか、オッサンのクセに情けねえ!」


 ガシタは嘲りの表情を隠そうともしなかった。


「ちなみにキミは?」

「D級よ!」


 一個上か。


「そういうわけで、格上のオレを敬うんだなオッサン! 現場で会っても邪魔をするんじゃねえぜ!?」


 そう言い捨てると、肩を揺らして去っていってしまった。

 なんなんだ彼は?


「等級で勝っているとわかって、ひとまず安心したんだろう。本当に小さいことに拘るヤツだ。だからいつまでも器が広がらない」


 村長がどっぷり深いため息をついた。


「この村にとって貴重な若者なのはたしかだ。だがあれではどうもいかん。住んでる世界が狭すぎて増長しておる」


 村長としてか、ギルドマスターとしてか、より単純に村の年長者としてか。

 厳しい評価を不満と共に吐き出す。


「アイツは村唯一の冒険者として、特別な仕事をしていると有頂天になっておるのよ。実際にはそんなことない。D級冒険者など、少し大きなギルドに行けば掃いて捨てるほどいる」


 冒険者の業界では、E級とはそれこそ駆け出しのド新人。

 例外なく全員が一つ二つのクエストをこなしてD級に上がるのだと言う。


「冒険者にとってE級など仮免のようなもの。D級こそ真の最下級といえる。そのD級であることをあそこまで誇らしげに見せつけるとは。情けないやら恥ずかしいやら……!」


 村長さんは頭を抱えてしまった。


「ダリエルくん。キミが冒険者として働いてくれれば、アイツも比較する対象ができて、自分がどれほど未熟か悟ることができるだろう。そういう点でもキミを頼らせてもらえまいか?」

「俺は彼より下のE級ですがね」

「誰でも最初はE級から始まるものよ。キミの才覚ならA級になるのも夢ではあるまい!」


 そんなおだてないでくださいよ。

 俺が増長しちゃいますよ。


「じゃあ、早速お仕事を下さいませんか?」

「早速か、助かる。とはいえこんな小さな村だ。依頼なんぞ森の中での薬草摘みか、モンスター駆除ぐらいのものだが」


 他にどんな依頼があるんだろう? と思ったが、話が逸れそうなので聞かなかった。


「特に薬草集めの方がな。ガシタのバカ者が『D級冒険者のオレがやる仕事じゃねえ』と受け付けないから困っておったんだ。ダリエルくんに引き受けてもらえると非常に助かる」

「やりましょう」


 ただ草を摘んでくるだけの簡単な仕事だが、森の中には危険がいっぱい。

 用心して冒険者に頼むのがセオリーなんだそうだ。


「ウチのマリーカが森に入って危険な目に遭ったばかりだ。ガシタが生意気言わずに薬草取りクエストも引き受けてくれたら、そんなことも起こらなかったろうに……!」


 俺が彼女と出会った時のことか。

 か弱い女性が森の中にいたのは、そんな理由が。


 しかしそのおかげで俺とマリーカさんが出会えたんだから、複雑な気分だなあ。


「ダリエルくんも森に入る時は充分気をつけてくれ。今はエテモーンが出没しているから」

「エテモーン?」

「この辺特有の猿のモンスターだ。狂暴なヤツで、コイツの目撃情報が出ると村人は森に入れなくなる」


 と言って村長は一枚の絵を見せてくれた。

 エテモーンとやらのスケッチらしい。


「ん?」


 この猿の絵に見覚えが……!?


「ガシタが討伐クエストを受けているが、あのボンクラ半月かけてもまだ倒せずにいる。エテモーンを倒せん限り、ちょっとした薪拾いにも行かれんし、本当に困ったもの……!」

「あら、これ……?」


 マリーカさんがスケッチを覗きこんで言った。


「この絵の猿、ダリエルさんが倒したヤツじゃない?」

「え?」


 俺も思った。

 森の中で、マリーカさんに襲い掛かろうとしていた猿。


 その猿の外見は、スケッチの中にいるエテモーンの姿と瓜二つだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
jkx3dry29a17mb92cm376w8hjgzt_o9w_15y_1no_117yg.jpg.580.jpg
コミック版8巻発売中! 累計120万部突破!!

iz1zid9qhcdhjdah77316pc7ltxi_687_p0_b4_7
コミカライズ版がニコニコ漫画様で好評連載中です!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「仮免」って、なのん免許がこの世界にあるのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ