52 勇者、根本的なことを聞かれる
問題が起こった。
ゼビアンテスが居着いた。
帰ろうとしない。
「帰れよ」
もう元上司の関係性など忘れ敬語なしで呼びかけるも、反応は悪い。
「嫌なのだわ。完全版ミスリル翼が完成するまでここにいるのだわ」
我が家で食っちゃ寝くつろいでやがる。
ちなみに滞在費は余分なまでに貰っているので、そっちの方面からの説得は難しい。
ホントに上級魔族は財力あるなクソ。
先日、勇者レーディとの決闘(?)で猛威を振るったミスリル製の翼。
しかしあれは試作品で完全ではなく、試用によって浮き彫りになった問題点を解決して完成度を高めていく段階。
一夜漬けの試作品と違って、今度は相応に時間がかかるらしい。
「その間ずっと村に居座る気か……!?」
「ダメなのだわ?」
「ダメに決まってるじゃねーか! 四天王の仕事はどうするんだ!?」
大きな責任を伴う役職に就いていることを、いい加減そろそろ自覚してほしい。
「はぁー? アナタこそ何もわかってないのだわ。そんなんだから補佐をクビになるのだわ」
「あぁ?」
「いいのだわ? 四天王のもっとも重要な役割と言えば何なのだわ? 魔王様に害をなす勇者を食い止めることなのだわ」
「まったくその通りだが……!?」
ゼビアンテスから正論吐かれると違和感が半端ないのだが。
「その勇者が目の前にいるのだわ」
またしても、その通りだった。
現勇者であるレーディは、俺たちのすぐ横で修業の素振りに精を出している。
「アイツがここにいる限り魔王領への侵攻はないし、気楽に構えてていいのだわ。平和が一番なのだわ」
「…………」
その通りすぎて反論できないのが物凄く悔しい。
「むしろ今この時も勇者が来るかと警戒しまくってるドロイエがアホっぽくて愉快痛快なのだわ。マジメ女のマヌケっぷりを想像するだけでザマァだわ」
「俺は泣きそうになるよ」
現役四天王唯一の良心が、不真面目代表に嘲笑われとる。
この現状は耐えきれないものがある。
前線で頑張ってる当人が何も知らないのが唯一の救い。
「そういえばー」
退屈まぎれの他愛のない話題……、いかにもそういう風にゼビアンテスが喋り出した。
「ねえねえレーちゃん」
「何ですゼビちゃん?」
あだ名で呼び合うな。
「前々から疑問があったのだわ、いい機会だから尋ねるのだわ」
「? どうぞ?」
少しは躊躇してください。相手、敵。
「どうして勇者は、魔王様を倒そうとするんだわ?」
「…………」
…………。
…………………………ッ!?
「そういえば!?」
人間族と魔族はずっと争ってきた。
主に魔王を倒さんとする勇者と、魔王を守らんとする四天王を先頭に。
「なんで人間どもは魔王様を倒そうとしに来るのだわ!? 迷惑この上ないのだわ!!」
「そっちこそ、何故そんなに魔王を守ろうとするんです!?」
互いにその理由を知らない。
基本対立する種族同士なので没交渉で、情報が入ってこないからだ。
それでも、多少長生きしてる俺は世間の事情もわかっている。
基本、魔族と人間族との間で争ってるのは勇者と魔王軍だけだ。
勇者は、魔王を倒すために冒険者から選りすぐられた精鋭であり、魔王軍は魔王を守るために作られた組織だ。
その他、人間側の一般冒険者が魔王軍と小競り合うこともあるが、それ以外の一般庶民が争ったり殺しあったりすることはまずない。
互いの領域を守って、静かに暮らすだけだ。
その他にもモンスターへの対処、犯罪者の取り締まりを冒険者魔王軍の末端がそれぞれ担うのだが……。
「それでも一番厄介なのが勇者の対処だよね」
魔王軍側にとっては。
さすがの俺も、まだ人間族の風習には詳しくないので……。
「なんで勇者は魔王を倒そうとするの!?」
「するのだわ!?」
俺もぶっちゃけて聞いてみることにした。
「そ、そんなこと言われても……!?」
答えてくれるだろう。だってレーディは魔王様を付け狙う勇者本人なのだから。
「魔王は邪悪な存在です! 世界を救うために倒さなければいけないのです!」
え?
それだけ?
「もっと他に理由はないの? 具体的なヤツ?」
親の仇だとか、賞金が出るとか。
「い、いいえ……! 魔王は邪悪なので倒さなければならないとしか……!」
「それだけなのだわ?」
たったそれだけの動機で滅し去ろうとか、そっちの方が悪役ではないですか。
「いいえ待ってください! 詳しいところは、まだ私が新人の勇者なので知らないだけかも」
いや知っとけよ。
新人もベテランも関係ない一番根っこのところじゃないの、そこ?
「きっと、もっと実績を積んだ玄人の方なら知っているに違いありません! 深淵なる戦いの理由を!」
何から何まで胡散臭い物言いだが……!
「実績を積んだ玄人って、誰?」
「そうですね。例えば……!」
レーディ、沈思すること数秒。
「先代勇者アランツィル様!」
すんげー名前が出た。
その人なら知っている。というか実際見たことがある。
何せ俺は四天王補佐として、ヤツと戦う先代四天王の方々をバックアップしていたのだから。
「先代勇者って強いの?」
腑抜けた現役四天王が素朴な疑問みたいに言う。
「グランバーザ様や、他の先代四天王様と互角に渡り合ったって言えば凄さが伝わるかな?」
「バケモノなのだわ」
よかった。
さすがに自陣側の伝説的存在まで凄さを実感できてなかったらどうしようかと思った。
「しかし先代勇者なんて、ここに呼んで講演してもらうわけにもいかんだろう。それともこっちから聞きに行く?」
なんで勇者は魔王を殺そうとするんですか? って。
「そんな命知らずなマネできません」
だよねー。
結局、この疑問は解消されないまま時は過ぎ去っていった。
俺としては、世界の深遠にある疑問より、今日のラクス村を繁栄させることの方が大事なので村の仕事に打ち込む。
そして二、三日過ぎた日のこと……。
◆
「ただいま」
「ああ、お帰りなさい」
勇者パーティのセッシャさんがクエストから帰還された。
「あのー、あそこでくつろいでる女性は魔王四天王のゼビアンテスでは……!?」
「無害な小動物程度に思ってください。それよりクエストでは何か変わったことありました?」
村長として、村の冒険者に異常がないかケアも欠かさない俺。
「クエスト自体は特に何の問題もござらん。ですが、終了後にとんでもないことがありましてな」
「終了後?」
とんでもないこと?
「凄まじい人にお会いしたのでござる。こちらに用があるというので、ちょうどいいのでお連れし申した」
「え? 誰?」
「先代勇者であらせられるアランツィル様でござる」
え?






