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49 銀翼、羽ばたく

「どうです!? 凄いでしょう、美しいでしょう!?」


 サカイくんが、まだ徹夜開けのテンションを維持していた。


「ミスリルで作られた金属製の翼! このアイデアを聞いた時、さすがに『何の意味があるの?』と呆れたものですが、話を聞くほど凄いとわかる! 実際に作ってみたら本当に凄いとわかる!」


 完徹者に同調するのはしんどい。


「ふっふっふ……! この最新魔導具の使い心地を、勇者相手に試すことになるとは思いもしなかったのだわ……! 僥倖というヤツなのだわ」

「ちょっと待ってよー」


 俺、さすがに傍観できずに物言いに入る。


「ゼビアンテス、アンタ自分の魔導具は着飾るためのものだって言ったじゃないか? 打倒勇者のためのものじゃないって言ってただろう?」


 それを結局勇者との戦いに使っちゃうの?

 言を左右にしてない。


「何も変わってないのだわ。わたくしの魔導具は、わたくしの美しさを引き立てるためのものなのだわ」


 そこまできっぱり言うのも何だか……。


「その前では勇者ですらどうでもいい。ただ、我が魔導具の試運転をしたい時に、たまたま目につくところにいた実験台が勇者だっただけなのだわ」

「そういう言い方もできますか!」


 対する勇者レーディは……。


「はあ、何を持ち出そうが受けて立つまでですが……!」


 なんか不機嫌そう。


「私用の武器制作を頼んだのけっこう前ですよね? それなのに一向完成の報告を聞かないんですけど、なんでコイツの方が先に出来上がってるんです?」


 抗議。


 そもそも彼女がラクス村にやって来た理由が、ミスリル武器を制作することだからなあ。

 自分より敵の道具を優先されたら不機嫌だろう。


「あー、大丈夫ですよー。勇者様の武器も作りましたからー」

「え?」


 マジですかサカイくん。


「ゼビ様の翼と同様、試作品ですけどねー。この勝負で使い心地を確かめてみてください」

「お、おう……?」

「なかなかインスピレーションが湧かなかったんですけど、ゼビ様の注文を進めているうちにピカーンとアイデアが降ってきましてね。これも一晩で仕上げました」


 どんな仕事量だよ。


 レーディは鞘ぐるみで新剣を受け取り、腰に下げる。


「何やら妙な話の流れになってますが、やることは一つ。魔王軍四天王は、今日ここで数を一つ減らすのです」

「吠え面をかくのはアナタなのだわ。わたくしの新しい翼を前に翻弄されるがいいのだわ」


 そして、ついに本当に戦いが始まった。


 ギュンと風を斬り裂く音が合図の代わりとなった。


 それは、ゼビアンテスが風魔法で飛翔する音だった。


「速い……!?」


 先日俺と戦った時もゼビアンテスは風による飛行魔法を使ったが……。

 飛行速度が比じゃないぞ!?


「いいぞ……! 翼の効果が早速出ている!」

「え!?」


 そりゃあ翼ってのは空を飛ぶためにあるものだ。

 だから鳥は翼を持っている。


 ミスリルで模造された翼はそのためのもの……!?


「スミス師匠が遺してくれた調合表を使って、ミスリルの特性を失わないまま限界まで軽い合金を使ってあります。あの翼を背負って飛ぶ限り、ゼビ様は空の女王です!」


 速いだけじゃない。

 翼を得たゼビアンテスは、空中で軌道を変え、直角に曲がる。

 しかも何度も。


「羽ばたいている……!?」


 ミスリルの翼がひとりでに。

 命なき金属の模造品が、まるで本物の生命溢れる鷲の翼であるかのようだった。


「そうか、ミスリルの特質……!?」


 俺のヘルメス刀も、オーラに反応して独りでに自在に形を変える。


 それを応用して、あのミスリル翼もゼビアンテスの魔力で本物の翼のような動きができるように作ってあるのか。


「でも、ぶっつけ本番であそこまで使いこなせるなんて信じられませんよ……! まるで生まれた時から背に翼を備えていたようだ……!」

「時々忘れがちになるけど、アイツは四天王に抜擢されるぐらい有能な風使いだからなあ」


 初めて使う道具を即座にマスターする俊敏な感性を備えているということか。


 翼は、風を受けて雄大に飛ぶ。


 風を支配して空を行く風魔法使い。

 あの翼は、よりたしかに風を掴み、空気の流れを支配するためのものだったのか。


 翼を得たゼビアンテスはまさに空の女王。


「あの翼の真価は、その程度じゃありませんよ……!」


 サカイくんは不敵に言った。


「飛行補助だけじゃ、あの翼はただのミスリル製の道具です。魔導具としての性能は見せていない。……ああ、早くしてくれないかなあ! 計算通りに出来上がっているか不安で仕方がない!」


 サカイくんの気持ちを汲み取るかのように、縦横無尽の飛行を切り上げ、ゼビアンテスは上空の一点にとどまった。


「強いものは美しい。私を彩る魔導具も、強さを備えて完璧な美しさを得るのだわ。その証明を今、試してやるのだわ」


 対する敵。

 レーディは剣をかまえる。


 ヒュウウウ。

 ヒュウウウウウ。


 細くて甲高い音が聞こえる。


「なんだ……!?」


 次の瞬間だった。

 レーディが何もないところへ剣を振り落とした。


 同時にカキンという鋭い金属音。


「よく反応したのだわ。お前じゃなければ気づくこともなく頭を半分抉り取れていたのに……」


 キン、カキン、キキキキキン。


 無数の金属音がレーディの刀身から鳴る。

 何かをぶつけられているのか。


「ほらほら、もっと速く動くのだわ。でないと防ぎきれないのだわ」


 ゼビアンテスが何かしている?

 何かを飛ばしている!?


「呪文を唱えている様子もないのに……!?」

「成功だ! 成功です!!」


 サカイくんが興奮気味に言った。


「秘密は、ミスリルの翼の、羽にある!」


 羽?


 金属の模造品だというのに、やたら本物そっくりに細かく作り込んである。

 翼全体を構成している羽の一枚一枚がミスリル製なのだ。


 あの重ねられた羽と羽の間は、さぞ複雑に入り組んでいるのだろう。


「まさか……!?」

「そうです! 羽と羽の間を空気が通り過ぎ、細く鋭い流れになる。ミスリル羽の浸透している魔力を流れに移せば、呪文を唱えることなく鋭利な風斬刃になる!」


 ミスリル翼から放たれる空気の刃。

 無数でしかも詠唱なし。


 これは、さすがの勇者も堪ったものではない。


「くうううううッ!?」


 レーディは剣の嶺で受け、風刃を叩き落とすがあまりにも数が多いので今にも押し切られそうだ。


「流麗にして狂暴。これこそ『華風』たるわたくしに相応しい翼なのだわ。サカイくんは注文以上の仕上がりにしてくれたのだわ」


 高きに君臨するゼビアンテスは、まさに無慈悲なる空の女王。

 美しさと残忍さで天空を支配する。


 このままではレーディは本当に押し負けてしまう?


「…………おかしい」


 と言ったのは、俺の隣で観戦するサトメだった。


「あんなに激しい攻勢をまだ防ぎ切れてるなんて。いくらオーラを込めた刀身でも、ガード(守)特性でもないのに折れもしない……!?」


 剣に込めるオーラ性質と言えばスラッシュ(斬)。


 レーディが強いられている防戦には不向きの特性だ。

 それでここまで長く凌げているなんて、たしかにサトメの指摘は正しい。


 何かが起こっている。

 俺たちの推測の及ばないことが。

 何が起こっている?


「これが、あの新作剣の効果ですよ」


 サカイくんが言う。

 彼、この戦いの間中ずっとドヤ顔だ。


「オレの新アイデアが詰め込まれた剣……! こっちも大成功です!」

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