04 ダリエル、才能があると言われる
マリーカさんのお父さんによる、オーラ講座。
まだ続いております。
俺のオーラ適性がスラッシュ(斬)、スティング(突)、ヒット(打)、ガード(守)。
どれに適しているかを調査中。
「二つ目のオーラ特性スティングに適した武器は弓矢だ。射程距離が長いぞ!」
これも見たことがある。
こっちが弓で、こっちが矢でしょう?
弓を引っ張って、矢をビューンと飛ばす。
「オーラでブーストさせた矢は、普通に射るより遥か遠くに飛んでいく。スティング(突)特性のオーラは命中精度も補正するから、適合者は隣村に置いたリンゴも射抜けるって話だ」
とにかく俺は、見様見真似で弓を引いてみた。
まったく素人の俺が一発で当てられるわけがないと思うが。
つがえた矢にオーラを通して、パッと放す。
あらかじめ用意された的に真っ直ぐ飛んでいき……。
貫通して……。
その後ろにあった木の幹すら貫通して……。
さらに後ろにある二本目の木に突き刺さってやっと止まった。
「「「…………!?」」」
俺も、マリーカさんも、そのお父さんも全員絶句した。
同時に寒気が襲ってきた。
「人が通りかかってなくてよかった……!?」
と。
偶然にも射線に人がいたら大惨事だよ!
「お父さん! 危ないわよ! なんでもっと頑丈な的を用意しておかなかったの!?」
「いや、まさか貫通するとは……!?」
ですよね……!
「外した時のことを考えて、的の後ろに人が入らないようにしていたが……。それなのに一発必中……!? 弓矢は扱ったことないんだろう? ならオーラの精度補正だけで命中させた……!?」
「これ、オーラの適性はどんな感じなんでしょう?」
「もちろん適正ありだ。大ありだ。オーラ適性をスティング(突)に全振りしてないとこんなの無理だろう……!?」
ええ……?
「でも俺、スラッシュ(斬)の方でも適正ありなんですよね?」
「得意特性が二つあるというのはない話ではないが……。け、結論は全部試してからにしよう……! 次はヒット(打)だ!」
俺が持たされた武器は、今度はハンマー。
「ヒット(打)は、打撃武器に適したオーラ特性。斬ったり刺したりじゃ傷つかない硬い敵を粉々に打ち砕く」
目の前に用意された石。
これをハンマーで叩いてみろ、ということか。
「そーれ」
割れたとか、砕けたとか、そんなチャチな結果ではなかった。
粉砕された。
破片が砂のように細かくなって周囲に飛び散った。
「ゲッホ!? ゲホゲホ……ッ!?」
思い切り吸い込んで咽てしまった。
それぐらい細かい破片。
「ゴホ……、あの、この適性は……!?」
「大あり」
またですか……?
これまでの三特性、全部適正ありなんですが……!?
「まだだ! 最後のガード(守)特性が残ってるからな!」
「えー?」
「ガード(守)は他三つとチョイ違う。変わり種でな。防御に特化したオーラ特性だ。得意武器は、盾!」
まあ、ガード(守)って名前からして、そうなんでしょうが。
「自分からの攻撃は不得意なんでクセはあるが、パーティを組む場合は仲間を守る壁役として人気が高い。引っ張りだこになるぞ!」
で、そんなガード(守)適性の計り方ですが……。
「やっぱりこうなるのか……!?」
俺は木製の軽い盾を持たされる。
目の前には、ハンマーを思い切り振り被るマリーカさんのお父さん。
「……一応確認しますけど、本気で殴ったりしませんよね?」
「もちろんだとも! あくまで試しだ試し! ケガなんかさせるものか!」
断言されるものの、なんか不安だ。
「死ねやあああああッ!!」
やっぱり本気だ!?
俺は、木盾を押し出して身がまえる。
せめて怪我せずに済みますようにと。
盾と鎚が接触する瞬間、バゴンと粉々になる衝撃が走った。
砕けたのは、お父さんがもつハンマーの方。
それこそ木っ端みじんに砕け散った。
「うわああああーーーーッ!?」
反動でお父さんも大きく吹っ飛ぶ。
俺の方が、傷一つつかなかった盾を投げ捨てて駆け寄らねばならなかった。
「だ、大丈夫ですか!? 怪我は……!?」
「ガ……」
「が?」
「ガード(守)の適性も、充分すぎるほどあり……!」
それだけ言ってお父さんは意識を失った。
「お父さあぁーーーーーーーーんッ!?」
◆
幸いマリーカさんのお父さんは目を回しただけで、頭から水をぶっかけるだけで意識を取り戻した。
……水をぶっかけたのは俺じゃないよ?
娘のマリーカさんだ。
「えー、結論から言うとー……」
ずぶ濡れになったお父さん、言う。
「ダリエルくんのオーラ適性は、スラッシュ(斬)、スティング(突)、ヒット(打)、ガード(守)。すべてにおいて最適合。全部が大得意で苦手がない!」
「……それって、凄いことなんですかね?」
「凄いなんてもんじゃないよ! こんな人材見たことない! 少なくともワシが現役冒険者だった頃は!!」
彼の興奮ぶりを見る限り、本当に凄いことなんだろう。
魔族の魔法は何一つできなかった俺が、人間族のオーラは一日のうちに達人クラスにまで上達した。
俺が元来人間族であったことを考えたら当たり前でしかないのだが……。
なんか複雑な気分だ。
「……それで、どうする?」
「へ?」
どうするとは?
「そりゃあ……、これだけ稀有な才能を持ってるとわかったんだ。こんな小村に留まるという手はないぞ? キミなら、もっと大きな街のギルドに行っても通用する。引く手あまただろう」
お父さんの話によれば、もっと大きな街に行けばちゃんとしたギルドがあって、そこにはベテラン冒険者がひしめき合っているという。
そんな中に放り込んでも輝ける逸材だと言ってくれているのだ。この俺を。
「キミが望むなら、ワシから紹介状を書いてあげてもいい。それを持ってとりあえず隣街のギルドに行ってみるといい。キミならすぐセンターギルドへの道が開けるだろう」
無言で視線を横に移す。
するとマリーカさんが不安げな表情で覗きこんでいるのがわかった。
「せっかくですが……」
俺は遠慮がちに、しかしハッキリ答えた。
「お世話になったこの村を、すぐさま去る気にはなりません。しばらくここにいさせてはもらえませんか?」
マリーカさんの表情が華やかになるのも見逃さなかった。
こうして俺は新しい居場所を手に入れたのだった。
俺の第二の人生、セカンドライフはここで営まれていく。