47 ダリエルの苦労、無駄になる
勇者と四天王。
相反する二者。
その二者の遭遇が導き出す結果は、戦い。
それは火を見るより明らかだった。
「お前は!? 四天王のゼビアンテス!? 何故ここに!?」
勇者レーディは当然のごとく状況を飲み込み、激しく反応した。
対してゼビアンテスの方は……。
「あ~……?」
何か、記憶の引っ掛かりを探り出そうとするようなむず痒げな表情をして……。
「……」
……?
「おくさーん、早くごはんちょうだいなのだわー」
「思い出すことを諦めるなッ!?」
というか何故覚えていない!?
「勇者だろう! アナタたち四天王が最優先に抹殺すべき勇者だろう!? その顔を何故忘れる!?」
あまりに悲しすぎるので俺の方から指摘してしまったよ!
本当は隠し通すべきなのに。
「あーあー、勇者なのだわ! にっくき勇者! すっかり忘れてしまっていたのだわ!!」
それでやっと面と向かう相手が確認できて……。
「じゃあ、ごはんにしましょうだわー」
「それで済ますのかあああああああッ!?」
使命が! 魔王軍四天王としての使命が!!
彼女の中ではこんなに軽いのか!?
「ダリエルさん……!? 何故四天王とそんなに親し気に……!? 一体ヤツとアナタはどういう関係で……!?」
「親しそうに見えますかこれが!?」
そして、勇者レーディからも一連のやり取りを目撃されて思い切り疑わしい目で見られていた。
色々マズい。
「積もる話は色々あるでしょうけれど……」
そこへ降臨するうちのカミさん。
今日のメニューであるシチューを鍋ごとドンと卓に置く。
「家の中でのケンカはご法度ですから。ちゃんとルールを守りましょうね?」
「「はいッ!!」」
ゼビアンテスどころかレーディまでブルッて絶対服従していた。
マリーカ本当に強いなあ。
◆
「かいつまんで説明すると……」
これ以上隠し通すわけにも行かなくなったので素直にすべてを説明する。
俺という男がたどった数奇な運命を。
世界のもっとも輝かしい領域に立つ勇者とか四天王に。
「魔族の中で生まれ育った人間……!?」
真面目なレーディは予想通りのリアクションというか、深い衝撃を受けていた。
「そんな、途中で気づくことはなかったんですか……!?」
「幸か不幸か、まったく。違和感と言えば魔法が使えないことぐらいだったけど、それも無能ってことで片付けられたし……!」
自分が本当は人間族だというのに気づいたのは、ラクス村にたどり着いてからだからな。
「そんな、そんな数奇な運命を持った人間がいるなんて……! あまりにも、あまりにも……!」
レーディは我がことのように困惑し、打ちひしがれている様子だった。
……でも。
俺自身が事実を知った時以上にショックを受けられると俺も困っちゃうんだけど。
「マリーカさんは知ってらっしゃったんですか?」
「ええ、結婚した時に『家族で隠し事はなしにしたい』と言って全部話してくれたわよ」
食卓を囲んでマリーカとサトメの二人が話している。
彼女の言う通り、既に家族となったマリーカと義父さん義母さんには既に俺の生い立ちを話してある。
理由は既に言われた通り、家族の間で隠し事をしたくないから。
大事なことを言わずに築ける絆はない。
逆に隠していた事実が発覚することで崩れる絆もあるけれども、マリーカ一家は依然とかまわず元魔王軍の俺を受け入れてくれた。
俺は本当に良い家族に出会うことができた。
「シチュー美味しいのだわ。おかわりだわ」
「お前もなんかコメントしろよ!!」
そしてゼビアンテス。
彼女は俺の半生に感想を持つどころか聞く耳すら持っていなかった。
ただひたすらマリーカの作ったシチューを絶賛している。
そうだろう。
ウチのカミさんの作ったシチューは絶品だろう。
でも今は俺の話を聞け!!
ちなみに食卓には舅姑であるマリーカの両親も同席しているがコメントできずに苦笑するのみだった。
息子グランは、さっき自分専用のごはん(おっぱい)をたらふく飲んでスヤスヤ。
「少しは思うところがないのか? 俺をクビにしたのは他でもないアンタらだろう?」
魔王軍の四天王補佐だった俺を解雇する権限は、四天王にしかない。
過ぎたことではあるが、いい機会なので思い切ってぶっちゃけてみることにした。
「何故俺を解雇した!?」
「知らないのだわ」
「コノヤローーーーーッ!?」
あまりに投げやりな回答だったため、周囲も揃ってドン引きした。
「だって仕方がないのだわ。お前を率先してクビにしたがったのはバシュバーザなのだわ」
半ば予想できた答えだったが、改めて告げられると刺さるんですが。
胸にグサリと。
「いやホント、マジでドン引きするぐらいの勢いだったのだわ。お前をクビにできないなら四天王解散させるぐらいの勢いだったのだわ」
「そこまで!?」
「最初はドロイエのヤツが理性的に反対してたけど、ベゼリアがバシュバーザに加担すると弱くなってしまったのだわ。それで押し切られてしまったのだわ」
俺をクビにするのに四天王内でそんな攻防があったのか……!?
何やってるんですか?
魔王軍のトップがもっと喧々諤々と議論をぶつけ合う題材がもっとあるだろうに。
「ところで、その議論模様に一切登場しないアナタ自身はどうしてたんです?」
「興味がないので静観していたのだわ」
「コイツ!!」
「シチュー美味しいお替わりなのだわー」
そんなに興味ないのに、俺をクビにしたその時には、あそこまで罵ってくれたのか!?
そしてシチュー何杯おかわりする気か!?
「……だったら、魔王軍に戻ってくるのだわ?」
「え?」
いきなり予想外のことを言われる。
「あれから事情も変わって来たのだわ。失敗続きでバシュバーザは立場を失い、発言力も弱まっているのだわ。代わりにドロイエが台頭しているのだわ」
はー、そんな勢力図の変遷が……。
「ドロイエは、お前を呼び戻すべきだって言ってるのだわ。探したりもしているらしいのだわ。お前さえよければ渡りをつけてやってもいいけれど……?」
それは意外な申し出だった。
もう一度魔王軍に戻れる。四天王補佐の座に。
かつては天職だと思い、一生この仕事を続けていくのだと信じて疑わなかったのだが……。
「けっこうです」
俺は即答した。
「一年前の俺なら喜んで受けただろうが。今の俺には俺なりに築き上げてきたものがある。それを放り出して過去に戻ることはできない」
ラクス村に根付いた立場と、得た家族。
それを今さら捨てることなどどうしてできようか。
「アナタ!」
それを聞いてマリーカが抱きついてきた。
「アナタならそう言ってくれると思っていた! 愛してる大好きだわ! 三人目を作りましょう!!」
「まだ二人目も作ってないのに!?」
食事の場で暴れるのはマナー違反だしやめとこうか。
皆の目もあるしね!
「見事な答えなのだわ!」
提案を蹴られたのにゼビアンテスから賞賛された。
「散々コケにしてきた相手が『事情が変わったから仲直りしよう』なんて舐め腐るにもほどがあるのだわ! お前なら公然とはねつけると信じていたのだわ!!」
仮にそうだとしても、お前だけには言われたくない。
「そういうわけで……!」
俺の視線は、レーディに移った。
俺をパーティに加えたいという彼女。
「キミの申し出も受け入れることはできない。確執はあるとしても、俺は魔族たちの仲間だった時期があるんだ」
種族が違ったとあとでわかっても、あっさり敵対することなどできない。
すべてを明かした分、自分の気持ちを素直に吐き出すことができた。
これで彼女を万全に納得させることができよう。
「……わかりました」
期待通りレーディは引き下がってくれた。
「ダリエルさんのあまりにも複雑な事情。私などにはとても斟酌できません。それを押しのけダリエルさんに決断を迫ることはできません。この件は棚上げしましょう」
そんな一時保留みたいな言い方じゃなくスッパリ諦めてくれていいんだよ?
「代わりに、もう一方の問題に対処します?」
「もう一方?」
そう言ってレーディが睨んだ相手は、ゼビアンテス。
「魔族の四天王を目の前にして、何もしないわけにはいきません。彼女には正々堂々たる戦いを申し込みます」






