46 ダリエル、トラブルを避けるために奔走する
勇者レーディ。
ラクス村にいる。
『どうしてそんなことになったのか?』と俺も首を捻るばかりだが、とにかくいる。
これは由々しきことだ。
今我がラクス村には、四天王のゼビアンテスまでいるのだから。
勇者と魔王軍四天王。
言うまでもなく宿敵同士。
この二者が同じ村に滞在しているなんて、一つの檻の中に蛇とマングースを入れるようなものではないか。
聞くところによるとゼビアンテスは既に勇者パーティに挑んで激戦を繰り広げたというので、間違いなく双方面が割れている。
間違いなく戦いが起きる。
遭遇した瞬間に即、死闘。
俺の愛する村が戦いに巻き込まれるのは非常に困る……!
「ここは何とか、両者を遭遇させないままことを治めなければ!」
幸い、ゼビアンテスは魔導具作りに没頭して鍛冶場から出てくる気配がない。
勇者レーディはそちらへ滅多に寄り付かないのが救いだ。
このままエンカウントなしで無事終わってくれたらいいのだが。
◆
それでも気になって仕方がなかったのでレーディの様子を見に行った。
リゼートのヤツが無責任にもそそくさ帰りやがったので俺一人で。
「ダリエルさん! お疲れ様です!!」
元気元気。
ハキハキした挨拶がオッサンの耳に突き刺さる。
……若さが眩しいなあ。
「レーディは修行中かい?」
「はい! それが私の滞在する意義ですから!」
彼女は、抜身の剣を持って素振りをしていた。
相当続けているらしく、全身から玉の汗が浮かび、瑞々しい肌に弾かれる。
「ダリエルさん、村長の仕事でお忙しいのはわかりますが、私の修行も見てくれますか?」
「ああ、はい……!」
レーディは非常に真面目な子で、ラクス村での修行生活に打ち込むとメキメキ実力を上げていく。
これまで勇者としての責務で疎かになっていた基礎力を、集中的に鍛え直す感じだ。
これ別に俺が指導しなくても、そのうち四天王を蹴散らせる実力になるんじゃないかなあ? と思ったり……。
「そう言えばダリエルさん。村の近くで竜巻が発生したそうですね?」
「ああ……、そうね……」
「修行に集中してまったく気づきませんでした!」
「まあ、あれだよ。村に近づく前に消えたから……」
正確には『消したから』だけど……。
「魔族も怖いですが、やはり自然災害も怖いですね……! もし人手が必要になったら、私も手助けさせていただきますので遠慮なく仰ってください!」
「ああ、ありがと……!」
「私も滞在中の今は村の一員ですので、何でも力になります!」
いい子だなあ。
その協力的態度で『四天王と遭遇しても戦いません!』と宣言してくれたらなおいいんだが。
「じゃあ、ここで修業の続きだけど……」
「はい! どんなメニューをこなしましょうか!?」
「引き続き剣の素振り十万本ね」
「じゅうまん!?」
これだけ無茶振りすれば、終日ここを動けまい。
彼女を釘付けにしている間にゼビアンテスが用事を済ませて帰ってくれたら御の字だ。
◆
あと気を付けることがあるとしたら、他の勇者パーティのメンバーだな。
勇者一行はレーディ一人だけではない。
彼女を中核として、共に冒険をする仲間たちがいる。
槍使いのセッシャ。
盾使いのサトメ。
ラクス村での修行を決めた勇者に付き合い、二人もなし崩し的に滞在が決まった。
二人がどこで何をしているかというと……。
「セッシャさん」
セッシャさんは冒険者として村のギルドに登録、発注されるクエストを請け負ってくれている。
せっかく栄光の勇者パーティに加入できたというのに申し訳ない感じで一杯だ。
「お気遣いなく。拙者、冒険者が本職ゆえ。こうしてギルドのクエストを請け負って働く方が性に合っています」
「今回のクエストは?」
「ミスリル武器を乗せた荷駄を、街まで護衛するのでござる。数日は不在となるので、その間勇者様のことをよろしくお頼み申す」
そんなに!?
「いいんですか勇者パーティの一員なのに、そんなに勇者と離れて……!?」
「問題ござらん。どうせ勇者様は長くこちらへ滞在する腹積もり。拙者も腰を据えまする」
セッシャさんのようなA級冒険者が運送の護衛をしてくれれば無事目的地にたどり着けるのは確実。
俺も村長として安心できる。
それでも「本当にこれでいいのかなあ?」と思う。
「……拙者は、勇者様のパーティに参加したのは最近で、それほど深い付き合いではありませぬ」
「はあ……?」
「それでもわかるのでござる」
わかる?
何を?
「この村に落ち着く勇者様は、安らいでおいででござる。勇者としての旅を続けている頃は緊張感で今にも破裂してしまいそうでござった」
たしかに……。
ラクス村に来てすぐの頃と今とでは表情の硬さに随分違いがある。
村を訪問してからの彼女しか知らない俺ですら気づくぐらいだ。
「あの年ごろの乙女にとっては、今の方が自然でござろう。どうか、あの方の今を大切にしてあげてくだされ」
そう言い残して、セッシャさんはクエストに出かけて行った。
図らずも、それを見送る形となった俺。
「……人格者?」
武人だなあ、とセッシャさんを見て素直に思うのだった。
ああいう人物をメンバーに加えること自体、勇者レーディがその称号に相応しい証と言えよう。
「……でも、改めて考えると、この状況は美味しいよな?」
セッシャさん村を留守にするならゼビアンテスとの遭遇の可能性は限りなくゼロ。
じゃあセッシャさんに関しては安心安全ということで、次のチェックを……。
◆
もう一人の勇者パーティメンバー、盾使いのサトメは、なんと我が家にいた。
村長邸。
しかもそのキッチンに。
「すみませんねえ、お客様だというのに手伝いさせてしまって……」
「何日もお世話になるんじゃ、さすがにお客様気分じゃいられませんよー。大丈夫です。家の手伝いは子どもの頃からよくしてたんで!」
愛妻マリーカの夕食の準備を手伝っていた。
こっちもいい子だ。
「マリーカさんは赤ちゃんのお世話もあるんですから、ワタシがいる間はジャンジャン頼ってください!」
「本当に助かるわ。あの子まだまだ手のかかる時期だから……!」
……。
俺も村長の仕事にばかりかまけてないで育児に協力しよう。
サトメは勇者レーディと幼馴染で、その縁でパーティに加わったという。
実力よりも、土壇場でも揺るぎない信頼を重視した結果であろう。その判断は正しいと思う。
「アナター、もうすぐ夕飯ができるから座っててねー」
「はいはい」
ウチでは食事は皆でとることがルール。
一日に数度、必ず顔を合わせることが一家団結に欠かせないのだという義父さんのポリシーだ。
俺も大いに賛成するので、夕食までには必ず帰るようにしている。
「今日は椅子を多めに出してあるから、間違えて座らないようにしてねー」
「え?」
「だって今日はお客さんがいっぱいいるんだものー」
「え!?」
食卓へ行くと、既に見知った女性二人が向かい合うように座っていた。
勇者レーディ。
四天王『華風』ゼビアンテス。
……の二人が。
なんで彼女らがウチの団欒に集結している!?
「ごはんは皆で食べるのが、我が家のルールでしょう?」
「マリーカ!? キミの仕業か!?」






