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44 ダリエル、元上司をボコボコにする

 このままでは埒が明かんので、力ずくで来てもらうことにした。

 家の中で暴れるわけにはいかんので外に出る。


「ぐふふ……! あの鬼お姉さんさえいなければこちらのものなのだわ……!」


 マリーカは家事やらグランの世話があるので家に残った。


 俺とリゼートだけでゼビアンテス様に挑む。


「だだだだだ、大丈夫なのかよ……!? よりにもよって四天王とガチ勝負だなんて……!?」


 ビビりだなあリゼートは。


「それでも四天王とバリバリにやり合う特務官かよ?」

「特務官はバリバリにやりあうのは職務上の意見対立なの! ガチの殴り合いになったら魔族最強の四天王に敵うか!」


 そうなの?

 そうだろうなあ。


「あのゼビアンテスだって、頭はパーでも四天王に抜擢された実力は本物だぞ? 現魔族で一番の風魔法使いだ……!」

「先代の風四天王を除けば、だろう?」


 彼女はもはや万全の戦闘態勢に入って、周囲に禍々しい気流を起こしていた。

 身の程知らずの最下級に、実力の差を教えてやろうという感じだろう。


 場所は、村の外れにある平原。ここなら村の者も滅多に通らないし思い切り暴れることができた。


「リゼートは下がっていろ。さすがに四天王と特務官がガチンコで戦うわけにはいかんだろう?」


 どうやらゼビアンテス様は、俺もリゼートとグルだと察し、俺にも脅しかければミスリルを献上するものだと思っているらしい。


 かつての俺ならばどうしただろうか?

 魔王軍に所属していた頃の暗黒兵士の俺なら。


 魔法が使えない魔族として、何一つ抵抗の手段を持たない。

『殺したければ殺せ。それでも俺の主張の正しさは変わらない』という捨て身の無抵抗主義しかなかった。


 しかし今は違う。

 懐から取り出したヘルメス刀を、早速長刀形態にする。


「……武器? どういうことなのだわ?」


 さすがにゼビアンテス様も……、いや、ゼビアンテスも異変に気づいたようだ。


 彼女の認識では、俺はまだ魔族のままだろう。

 魔族が人間族の武器を握る。

 おかしなことであるに違いない。


「まあ、いいのだわ! さっさと叩きのめしてビービー泣かせたあとに、ありったけのミスリルを献上させてやるのだわ!」


『華風』の称号を得る彼女の得意は、風魔法。

 大気の流れを自在に操作する。

 それによって実現される効果は多彩だ。


「安心なさい。ミスリルを差し出してもらうために殺すまではしないのだわ。でも一体どうしてやりましょう? 突風で吹き飛ばしてあげようか? 竜巻でもみくちゃにしてやろうか? それとも肺の中の空気を全部抜いてやるのもいいのだわ……!」


 残忍なメニューが彼女の頭に浮かんでいるようだ。


「わたくしに逆らった罪深さを実感させてあげる。じっくりいたぶってあげるのだわ……!」


 俺は……、ヘルメス刀にオーラを通して、その形を整える。

 変幻自在のヘルメス銀によって構成されるこの武器は、俺の意思に従って形どころか質感まで変えることができるのだ。


 ヘルメス刀は、先端鋭いエストックへと変わった。


 それを先に向けて、走る。


「なッ!?」


 瞬時のうちに懐に入り、ストックの先端をゼビアンテスの喉元に突きつける。


 さすがに刺したりはしないけど。

 その気になれば刺して、喉笛を貫通することもできた。


「……そんな!? 既に暴風結界を発動させていたのに……!? 近づくことさえできないはずだわ……!?」


 ゼビアンテスは『理解できない』と言ったような表情であったが、俺にとっては当然の帰結だった。


 風の結界を突破するには、鋭く細く、空気抵抗を最小限に抑える攻撃が適切。

 そして多少の風では吹き飛ばされない重量があればなおいい。


 そういう条件で、人間族の武器でもっとも風魔法に強いのは、スティング(突)特性に適した近接武器の槍なのだそうだ。


 俺はそれに倣ってストック形態にしたヘルメス刀で、突撃刺突攻撃を行った。


 見事暴風の障壁を突破できたというわけだ。


「……負けを認めてくれますか?」

「何を言っているのだわ!!」


 俺がストックを下ろすと、ゼビアンテスは弾かれたように飛びのいて距離を取る。


「今のは油断しただけなのだわ! 不意打ちでしかわたくしを倒せない卑劣なヤツ! わたくしを本気にさせたことを後悔するのだわ!!」


 ゼビアンテスは、浮遊魔法で上空に留まる。

 重力に逆らい空を舞うのは、風魔法独特の得意技の一つだ。


「お前の剣の間合いじゃ、この距離には届かないのだわ! さっきの不意打ちでわたくしを仕留められなかったのは致命的なのだわ!」


 さらにゼビアンテスは、かざした両手から魔力を発し、大仰な呪文を唱え始める。


「あれは……!」


 ゼビアンテスの周囲に竜巻が複数、発生して漂う。


「アレはゼビアンテス様の最強魔法『ジオストーム』の準備段階だ! マズいぞ!!」


 後方でリゼートが金切り声を上げた。


「……知ってるさ。これでも元四天王補佐だぜ」


『ジオストーム』は風属性の中でも最強クラスの威力を持つ魔法の一つ。


 まず、あえて小規模の竜巻を複数発生させ、それが充分勢力を増したあとに合体させ一つにする。

 そうすることで何十倍もの大竜巻に発展発生させるのだ。


 あの大魔法が完成すれば、周囲一帯どころかラクス村自体が更地となりかねない。


「あはははは! すべて吹き飛ぶがいいのだわ!」


 ちょっと追い詰められただけで見境がなくなるとは未熟だなあ。


 俺としても愛するラクス村が消えてなくなるのは断固阻止。


 なので『ジオストーム』を完成させるわけにはいかない。


「『凄皇裂空』」


 ヘルメス刀から放たれる巨大オーラ斬撃が、まだ小さな竜巻に命中する。


「なあッ!?」


 直撃を受けた竜巻は一瞬のうちに斬り裂かれ、霧散し消えるのだった。


「『凄皇裂空』『凄皇裂空』『凄皇裂空』『凄皇裂空』……!」


 竜巻の数はたくさんあるから、一つずつ消すために連発しないといけないから面倒くさいなあ。


「ひいいいいーッ!? 『ジオストーム』に融合発展するはずの竜巻が、一つ残らず消されてくのだわーッ!?」

「ゼビアンテス」

「ひぃッ!?」


 風の加護で空中浮遊する彼女に、地上から呼びかける俺。

 どうでもいいがパンツが丸見えだ。


「わかりますよね? 今の技をもってすればアナタは別に手の届かない存在じゃない。いつでも撃ち落とすことができる」

「あわわわわわわ……!?」

「『ジオストーム』を阻止するのだって、竜巻を一つ一つ消すよりも術者のアナタを殺す方がよっぽど楽だったんだ。でもしなかった。その意味がわかりますね?」


 涙目でブンブン頷く彼女。


「では地面に降りて、降参を宣言してくれますね?」



「うう……、まさか負けるなんて……!」


 ゼビアンテスは心も折れて、打ちひしがれていた。


「魔族が武器を使うなんて卑怯なのだわ! ズルして勝っても勝利じゃないのだわ!」


 と負け惜しみを言ってくるが、言いがかりでしかない。


「……いい加減別の可能性に気づきませんか?」


 俺が本当は人間族だったことに。

 だからオーラをまとわせた武器の扱いもできるし、魔法も使えない。


 何もかも腑に落ちるだろうが。


「やーなのー! ミスリル欲しい! ミスリル欲しいミスリル欲しいミスリル欲しいミスリル欲しいいいいーーーーーーーーーッ!?」

「我慢ならないのはそっちの方か……!」


 ゼビアンテスは駄々っ子になってしまった。


 そんなにもミスリルが欲しいか……!


「そんなに欲しいなら差し上げましょうか?」

「え?」


 地面でジタバタしていたゼビアンテス、ピタリと止まる。


「どういうことなの? 上げないんじゃなかったの?」

「タダでは上げられないと言ってるんですよ。こっちもビジネスですから」


 金さえ払ってくれれば、こちらとしては全然問題ない。


「本当!? お金で売ってくれるのだわ!?」

「魔族さん相手には相当割高になりますがね」

「わーい、やったのだわー!!」


 こうして話がまとまった。

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