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43 四天王ゼビアンテス、何故かいる

 魔王軍にて現役の四天王に就く方のお一人。


『華風』ゼビアンテス。


 現四天王は、四人中二人が女性メンバーだが、ゼビアンテス様はより派手な方の女四天王。

 今もまた派手な金髪を派手に巻いたり、服装も胸元が大きく開いたりして派手だ。


 そんな派手派手の御方が、何故ここにいる!?


「あの方、リゼートさんの奥さまじゃないんですか?」

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッッ!!」


 全力をさらに超えた全力で否定するリゼート。


 だよなあ。

 俺でもこんな誤解受けたら全力で否定する。


 どんなに美しくても、こんな派手でアホっぽい人が結婚相手なんて思われたくない!!


「あれ、どこかで見た顔があるのだわ」


 そして当人がついにこちらへ注意を向ける。


 ゼビアンテス様が特に興味を示したのは俺に対してだった。


「あーあー、思い出した。いつぞやクビにした無能者なのだわ。こんなところにいるとは知らなかった!」


 やっぱり俺に対してはそういう認識なんだ。


 相変わらず酷い物言いだが、この口振りからすると目的は俺ではないということか?

 まあんなわけないよな。

 今さら四天王が俺を求めているなど思い上がりもいいところか。


「みすぼらしい格好なのだわー。無能の甲斐性なしには相応しい境遇なのだわー」


 俺を指さしケラケラ笑う美女。

 魔王軍にいた頃は慣れたものだったが久々だとけっこうムカつくな……。


 どう返答したものかと迷っていたら、俺より先に行動に出た者が。


 バゴンと。


 ゼビアンテス様の頭部をトレイがぶん殴る。


「「ひいぃッ!?」」


 それを傍から見るだけで肝を潰す俺とリゼート。

 殴ったのはウチの妻マリーカだった。


「お前今なんつった?」


 そのままゼビアンテス様の襟首掴んで締め上げる。


「あばばばばばばば……!?」

「ヒトの夫を無能呼ばわりとか戦争する覚悟できてるんですか? お? アンタどこ村だ? ちょっと挨拶代わりに蔵打ち壊してやろうか?」

「ごっ、ごめんなさい……! ごめんなさいなのだわ……!!」

「もう二度とふざけたこと言いませんか?」

「はい! はい!!」

「……じゃあいいです。叩いちゃってごめんなさいねー」


 お茶のお代わり持ってきますねー、とマリーカはキッチンの方へ行った。


 ……。

 怒気で四天王を圧倒する我が妻マリーカ怖い。


「……怖かったのだわ。もう二度と迂闊なことは口走らないのだわ……!」


 そして心底ビビっているゼビアンテス様。

 アンタ本当に何しに来たんだ?


「ゼビアンテス様? 何故ここにいるんです? オレの嫁だとかウソまでついて?」


 リゼートも気にしないわけにもいかず追及する。

 が。


「はあ? わたくしがアンタごときの嫁なんて気持ち悪すぎてありえないのだわ」

「ぐはああッ!?」


 あまりに率直な一言にリゼートが憤死した。

 ゼビアンテス様、迂闊なことは言わないとたった今誓ったばかりじゃないですか!!


「勝手に勘違いされただけで、わたくしの知ったことではないのだわ。ただ尾行してきただけのことだわ」

「尾行!?」


 ますます不穏なんですけど!

 魔王軍特務官でもあるリゼートを四天王みずから尾行なんて、暗闘の匂いしかしない!


「い、一体何が目的で……!」


 心無い言葉で充分瀕死のリゼート、さらなる警戒に強張る。


「まさか暗殺? 暗殺ですか!? 特務官であるオレを目障りに思って、人知れない場所で亡き者にしようと……!?」

「なんでそんなことしないといけないのだわ?」


 やっぱり違うらしい。


「わたくしは四天王とか興味ないし、クビにしたければ勝手にすればいいのだわ。ベゼリアみたいに立場が危うくなってから慌てて真面目に働くなんてカッコ悪いのだわ」

「アナタも真面目に働いてください……!」


 じゃあなおさら、なんでここに?


「ふっふっふ……! 知りたい? わたくしの華麗にして壮大な目的を……!?」


 もったいつけるなあ。


「わたくしの目的はただ一つ……」


 溜めてー……。


「ミスリルなのだわ!」

「「な、なんだってーッ!?」」


 ゼビアンテス様はミスリルを求めてラクス村へ来たというのか!?


 世界にたった一つのミスリル鉱山より産出されるミスリルは、超貴重品。


 今では鉱山の所有権が人間族に渡ったため、魔族側のミスリルは欠乏している。唯一リゼートが、俺の友だちというコネを使ってミスリルの取引ルートを確保するのみ。


 そういう現状だから、ただでさえ細くなった供給ルートから少しでも多くのミスリルを確保しようという魔族が出てくるのは、想像の範囲内。


 四天王ゼビアンテス様もその一人?


「ミスリルの出どころと言えばコイツなのだわ。何しろミスリルの取引ルートをかろうじて確保した功績で特務官に任命されたんだから」


 とリゼートを指さす。


「はい、そうです……!」

「でも具体的な取引は秘密だと言って明かさない。だから調査することにしたのだわ」


 リゼートがどこでミスリルを調達しているか。

 それで今日、どこぞへと出かけていくヤツのあとをつけたとのこと。彼女みずから。


「お前ぇ?」


 リゼートを睨む。

 特務官になった以上は当然のように用心深くならなければならないのに迂闊過ぎやしないか?


「勘弁してくれよう……! 風使いに本気で尾行されたら察知しようがないよう……!」


 たしかに。

 風魔法なら空気を操り、足音を消したり匂いを断ったりなど自在にできる。

 上級者なら空気の密度を変えて光を屈折し、姿を隠すことすらできるという。


 四天王にまで抜擢された大魔法使いならそれら全部朝飯前だろう。


「……そんなことまでして、えっと? ミスリルが欲しかったと?」

「もちろんだわ!」


 ゼビアンテス様は猛然と言った。


「魔法を強化する魔導具。その魔導具の中でもっとも優れたものはミスリルから作られるのだわ! わたくしに相応しい一品なのだわ!」


 そうですか。


「ここにミスリルがあることはわかっているのだわ! この『華風』ゼビアンテスが四天王の名において命じるのだわ! このわたくしのために、ありったけのミスリルを差し出しなさい!」

「嫌ですが」

「あれーッ!?」


 たしかにミスリルはここにある。

 秘密にしていたのは、さすがに魔族が人間族と取引するのを大っぴらにはしにくいからだ。


 それを突き止めて乗り込んできたゼビアンテス様の行動力はさすが四天王と賞賛していい。

 が、だからと言ってクリア特典とばかりにミスリルをハイ上げますとはいかない。


 理由はちゃんとある。


「ミスリルは今、人間族の手にあるんですよ。それをリゼートにだけ特別に売ってやろうという形で取引が成立している」


 それを気軽にアナタにもやるわけにはいかん。

 しかも、この方、言うに事欠いて『差し出せ』とか言いやがったからな。


『売れ』ではなく『差し出せ』と。


 益々承服しかねる。


「おおお、お前……! 生意気なのだわ……! クビになった無能補佐の分際で……!」


 俺の拒絶に、当然ながらゼビアンテス様は怒り心頭のようだ。


「わかったのだわ! ならば思い知らせてあげる! お前が、この四天王ゼビアンテスの命令には何でも従わなければいけないクズ虫だってことを! わたくしが死ねと命じれば死に、靴を舐めろと命じれば舐めなければいけない矮小な存在だと思い出させてあげるのだわ!!」


 怒りと共に噴出する魔力が、暴風の形をとって渦巻く。

 これは、ここからバトル展開かなー、と思ったら……。


 バゴンッ、とゼビアンテス様の頭を打つトレイ。


「アンタねえ、懲りずにウチの旦那様に悪口雑言……!」

「ひぃー! ゴメンナサイなのだわー!」


 ウチの嫁さんの怒気にビビりまくる四天王だった。


 マリーカが真の最強かも知らんね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実はマリーカさんも何処ぞの由緒ある血筋の方だったり? [一言] またしてもクズ登場かと思ったらポンコツの方だった(笑)
[一言] 最強(の妻)伝説の始まりだ。
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