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42 ダリエル、旧友に息子を見せびらかす

 友だちのリゼートが遊びに来た。


「おはー」


 魔王軍時代の同期であるリゼートは、俺がクビになったあとも魔王軍に残り、相応のポストについている。


 ……いや、出世したんだっけ?

 まあいいや。


 とにかくまずは俺の家に訪れて、俺の宝物に挨拶する。


「あわわわわ~……! グランくん可愛いなあ、ホントに可愛いなあ! 赤ちゃん可愛い!」

「…………」


 俺の息子が可愛いのは真実なので仕方ないが、それでも三十過ぎの男が可愛い連呼するのは異様であった。


「リゼートがそんなに子ども好きとは知らなかった……!」

「ねえ抱き上げていい? そして頬ずりしていい?」

「抱き上げるのはいいけど頬ずりはするな。加齢臭が移る」


 同年代に容赦ない言葉。

 グランを抱っこする妻マリーカから、リゼートの腕へ。


「うふふふ……、アナタのお友だちって愉快な方ねえ」


 マリーカは、夫の元同僚というこの男を好意的に捉えていた。

 母親になってから、さらに落ち着きが出たように思える。


「ああ、直に触れてなおさら可愛い……! やっぱり子どもは宝物だなあ~……!」

「そんなに子どもが好きなら、自前で拵えればいいじゃないか」


 リゼートは俺と同年代なので、年齢も同じくらい。

 妻子がいてもまったくおかしくない年頃だ。

 むしろ適齢期を過ぎてるくらい?


 それなのにコイツは子どもどころか、まだ妻すら迎えていなかったはず。


 俺と違って魔法の才に長け、魔王軍でも相応のポストに就いているのだから結婚相手に困ることはないだろうに。


「いやまあ、結婚は無理だろう。何せ特務官に就いちまったから」

「そういえば出世したんだよね?」


 だったら益々わからない。

 普通なら出世して社会地位が上がれば、さらに結婚のチャンスは増えるべきだが。


「特務官だもんねえ……」

「そう、特務官だからだよ」


 魔王軍特務官。

 その名の通り特別な役職だ。


 職務は、四天王が本来遂行すべき職務を代行すること。

 四天王のお助け役だ。

 そう言うと、俺が昔就いていた四天王補佐と同じような役職に聞こえるが、実際ちょっと違う。


 一番の違いは、役職に伴う権力の大きさ。

 四天王補佐はあくまで四天王の下にいて、命令を受ける義務があるのに対し、特務官の地位は四天王と同等。

 四天王からの命令に従う義務はないし、その任免権は四天王にはない。


 特務官を任命するのは魔王であり、魔王のみが特務官に命令できる。


 つまりどういうことかというと。

『四天王が無能だと判断された時、それを補う緊急措置のために置かれる役職』

 それが特務官なのだ。


 よって常設の役職ではない。

 四天王が有能で、しっかり機能している時にはいらないポスト。

 実際先代グランバーザ様就任中、特務官はいなかった。


 四天王にしてみれば特務官が置かれるとは無能の烙印を押されるのと同義であり、滅茶苦茶不愉快なことだ。

『お前じゃ頼りにならんから他のヤツに任すわ』と言われているも同じ。

 しかも魔王様から直々に。

 特務官の任免権を持つのは魔王様だけなのだから。


 よって特務官と四天王は必然的に対立関係となる。


 そして当代、特務官を拝命した我が友リゼート。

 現在の彼の立場は非常に複雑だった。


「無能とされても四天王が持つ権力は絶大だ。それと好んで敵対関係になりたいヤツがどこにいる?」


 それでも立場上敵対しないわけにはいかないリゼートの下に、嫁の来手などないと言うことだった。

 親類縁者として、同じく四天王の敵側に立つわけにはいかないと。


「もし既に結婚してたら、これを理由に離婚を迫られるレベルだよ。むしろ独身でよかったってぐらい……」

「宮仕えも大変だなあ」


 というわけでリゼートは子どもを持つどころか、その前段階である結婚すら不可能状態だった。


「実力もあって性格もいいのに……! 哀れなヤツ……!」


 リゼートは例のミスリル鉱山騒動で実績を上げ、その報奨で特務官の座についた。

 その発端を作ったのは俺だから、俺にも責任があると言えなくもないが……。


「俺の子どもに触りすぎだ。そろそろ返せ」

「ああッ!? オレの数少ない憩いがッ!?」


 友への義理より、我が子が大事。


「まったくお前は子煩悩だなあ。大恩人の名前を無許可で貰っちゃうだけあって」

「あ、やっぱわかっちゃう?」

「わかるよ。グランくんのグランはグランバーザ様のアレだろ? 気持ちはわかるけど、どんな英雄豪傑に育て上げる気だ?」


 ワンパクでもいいから逞しく育ってほしい。


「他意はない」

「ホントかぁ? でもいいよなダリエルは。綺麗な嫁さんもらって子宝にも恵まれて。オレも早めに魔王軍除隊しておけばよかったかなあ」


 恐ろしいことを言うな。

 お前が今の魔王軍を内から支えているんだろう?


 お前がいなくなったらそれこそ魔王軍瓦解ではないか。


「今のところ、ドロイエ様とベゼリア様が勇者を防ぎ、オレが特務官として内政を受け持っている。不思議と綺麗に役割分担ができている」

「……バシュバーザ様は?」

「あのバカ息子は相変わらずさ。部屋に閉じこもって出てこねえ。時おりドアを叩いてはいるが、意味のわからねえうわ言が戸板越しに聞こえてくるだけでよ」


 ……彼はそこまで追い詰められているのか?


 恩人の息子であるからには、そんな近況には胸が痛む。

 とはいえ今の立場もあるし、また俺を追放した張本人でもあるしそう簡単に助けてはやれないしなあ。


「もういっそ早くに今の四天王解散させたいぜ……! そうすればオレも特務官をお役御免になって結婚できるだろうに……!」


 三十路を過ぎたリゼートが激しく結婚に焦がれていた。


「ああ……! 結婚したい結婚したい。というか家庭が欲しい。『ただいま』と言ったら『おかえり』と迎えてくれる家族! 温かい食事! 賑やかな居間! 子どもたちの声が絶えない家庭! ……もう明かりのついてない家に帰りたくない!! 帰りたくない!!」

「しっかりして! 我が友しっかりして!!」


 寂しさに押し潰されんとするリゼートを必死に励ます。


「えー?」


 一時別室へ行っていた妻マリーカが戻ってきて一言。


「リゼートさん結婚してなかったんですか?」

「マリーカ! 何故とどめ刺そうとするの!?」


 そんな事実を突きつけるようなことを言ったらリゼートの生命力が尽きるじゃないか。


「え? いや違うのよ? そう言うことじゃなくて……!」


 マリーカが告げることは、俺とリゼートを混乱に突き落とした。


「リゼートさんの奥さんがいらっしゃってるわよ?」

「「は?」」


 虚を突かれた。

 ありえないものがあると言われた時、誰もがこんな空虚な心境になるのだろうか。


「おいリゼート? リゼートくん? キミいつの間に結婚してたの? 今の独身寂しいアピールはブラフだったのか? 同情して損した!!」

「知らないよ!! 少なくともオレ自身は自分のことを哀れな独身魔族だと認識しているよ! 同情するなら嫁をくれ!!」


 何か話が噛み合わない。

 一体どう言う!?


 というかまずリゼートの嫁とやらを目撃したマリーカに詳しく事情を聴くべきだ。

 一体何と見間違えた!?


「ええッ!? 違うの!? リゼートさんとまったく同じタイミングで来られたからてっきり奥さんとばかり……!?」

「ええッ!?」

「凄いお綺麗で若々しいけど、今考えたらリゼートさんの奥さんにしては若すぎるかも? 犯罪?」


 マリーカよ。

 俺とキミも十歳以上離れた歳の差カップルであることを忘れないでね!


「と、とにかくこの目で確かめるぞ! 誰だあ!? オレの愛妻を名乗る極悪人は!? オレのナイーブな心を弄んで楽しいかあ!?」


 そこまで!?

 マリーカが言うに、リゼートの奥さんを騙る何者かは、リビングでお茶を飲んでいるらしい。


 即座に乗り込んで確認してみると……。



「はあ……、お茶が美味しいのだわ」

「「!?」」

「こうした素朴な味もたまには趣があっていいのだわ」


 我が家のリビングでお茶していたのは、俺の見知った顔だった。

 リゼートも知っているだろう。

 何しろ彼女は、俺たちと同じ魔王軍に所属するものなのだから。


 魔王軍四天王の一人『華風』のゼビアンテス……。


 ……様が何故俺の家に!?

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