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03 ダリエル、人間だった

 俺の話をしよう。

 俺――、元暗黒兵士ダリエルの、ちょっと昔の話だ。


 そもそも俺は、両親の顔を知らない。

 物心ついた時には、先代四天王『業火』のグランバーザ様の下で兵士見習いをしていた。


 グランバーザ様が言うには、戦場に取り残された赤ん坊を見つけ、憐れんで拾い、養育したという。


 そのまま訓練を受けて魔王軍に入った。

 四天王グランバーザ様から直接指導を受けて。

 それは紛れもないエリート養成と言ってよかったが、それなのに一つの魔法も覚えられなかったので絶望したものだ。


 それでもグランバーザ様は、俺を手元に置いて他の様々な仕事を任せてくださった。

 まあ、必然的に雑用ばっかりだったけど。

 それでも俺は堅実にこなし、グランバーザ様のお役に立ってきたつもりだ。

 お陰で四天王補佐という重大な役割に就けた。


 時が移り変わり、グランバーザ様の代から息子バシュバーザ様の代に四天王が交代しても、俺は補佐の座に居続けた。


 他でもない、グランバーザ様から頼まれたからだ。

『息子を頼む、助けてやってくれ』と。

 当の御子息様からは気に入られずクビになってしまったけれど。


 ……。


 俺を戦場で拾ったというグランバーザ様の証言から推測するに、俺の出生は明らかになっていない。


 魔族の親から生まれてきたのか。

 人間族の親から生まれてきたのか。


 俺は、魔族の中で育ってきたから当たり前のように自分が魔族だと思ってきたけど……。

 実は違った?


 魔族と人間族に、見た目の違いはほとんどない。


 魔法が使えれば魔族で、ギルドに登録できれば人間族である。


 俺は、魔族の中では魔法が使えないと蔑まれ、人間族の村にやってきてギルドに登録できた。


 つまり俺は……。

 自分が何族なのかずっと勘違いしてきたってことか!?



 衝撃とか戸惑いとか色々あるけれども。


 俺は一人の人間族として、この村に居着くことになった。

 さらに言えば一人の冒険者として。


「冒険者の心得を教えてやるとしよう」


 そして今、マリーカさんのお父さんから冒険者のレクチャーを受けていた。

 外に出て、なんかいかにも『これから暴れますよ』って雰囲気。


「気をつけてくださいねー。お父さんは若い頃、冒険者だったんですからー」


 横で見守るマリーカさんが気楽そうに言った。


 わかる。

 このお父さん、久々に一番暴れてた頃を思い出してウキウキの表情をしている。


 付き合うの疲れそう……。


「冒険者の基本のキ! 大事なのは、武器の扱いだ!」


 知ってる。

 いや、冒険者としてでなく、その冒険者に苦しめられてきた敵としてね。


 俺がまだ魔王軍にいた時、強力無比な武具を携えた人間族には手を焼いたものだった。


 人間族は、魔法が使えない虚弱な生き物。


 それが魔族からの認識だが、武器を持った人間族は少なくとも虚弱ではない。


 武器を手に取った人間は、魔法を使う魔族と互角の戦いができる。

 それもまた、人間族が築き上げたギルドシステムの恩恵によって。


「剣、弓矢、ハンマー、盾。武具には様々なものがある」


 目の前には、武器がいくつもズラリと並べてあった。

 どれも村の備品らしく、相応に安っぽく古ぼけていた。


「ギルドに所属する者には、人間族の守護者、闘神の加護が与えられ、生命力オーラを操ることができる。それを武器にまとわせて戦うのじゃ」


 オーラをまとった武具は、魔族の放つ魔法と真っ向からぶつかり合える。

 どちらが勝つかは個々の実力次第。

 そのルールに従って過去何万という人間族と魔族が戦い、勝ったり負けたりしてきた。


「ダリエルくん、どれでもいいからテキトーに持ってみたまえ」

「はい」


 言われて俺、とりあえず一番手近にあった剣を持ってみる。


「…………」


 古ぼけてはいるが、金属のズシリとした重み。


 かつて敵から突きつけられて脅威の意味しかなかった剣が、今自分の手にあるというのが不思議だった。


 魔族は武器を持たない。

 敵を殺したかったら攻撃魔法があるから。

 武器に頼らないと戦闘もできないと言って、むしろ魔族は人間族を見下している。


「呼吸を整えて、オーラを意識してみなさい」

「…………」


 言われた通りにしてみた。

 目を閉じ、呼吸を整えて、皮膚を覆う空気の感触をイメージする。


 おお……!


 感じる。

 体の表面をジリジリと焼く、光のような空気のようなものを。


 かつて魔王軍で、魔力を制御するために行った基礎訓練。

 目に見えない魔力を意識するイメージトレーニング。

 魔法を使うため最初の一歩の訓練だったが、魔力を少しも感じ取れなくて挫折した。

 でも、あの時の感覚を思い出して、オーラを瞬時に把握することができた。


「凄いな……! ほぼ一瞬でオーラを制御できたじゃないか」

「何というか……! 無駄な努力が無駄じゃなかったんで、その……!」


 胸にこみ上げてくるものがあるな。


「次は、体を覆うオーラを武器に移していく。最初だからゆっくり、丁寧に……!」

「はっ」

「即座に!?」


 オーラが、剣に宿ったのがわかる。

 これで魔族の攻撃魔法を打ち払ったり、魔法結界を破壊したりするんだな。


「……ダリエルくん。キミひょっとして天才か?」

「いやいや」


 俺は無能の落ちこぼれですよ。

 魔王軍ではいつもそう言われていた。


「ま、まあでは次のステップだ。オーラの性質には得手不得手がある」


 ほう。

 それは初耳だ。

 敵側からは覗けない、より内情的な話かな?


「オーラは武器にまとわせて初めて攻撃手段に使えるわけだが。どんな武器と相性がいいかは人それぞれ異なる。ギルドでは、そうしたオーラの性質を大きく四種類に分けている」


 そしてマリーカのお父さんは、その四つのオーラ性質を唱え上げる。


 スラッシュ(斬る)。

 スティング(突く)。

 ヒット(打つ)。

 ガード(守る)。


「どの性質が得意かは人それぞれだ。今からダリエルくん、キミがどの性質に合っているか見ていこう」

「わかりました」

「ちょうど剣を持っているし、まずはスラッシュ(斬)の特性からな。ここに用意した丸太を斬り払ってみなさい」


 ホントに丸太が用意してあった。


「スラッシュ(斬)は斬ることに特化したオーラ性質だ。もっとも基本的で適応力がある。相性のいい武器は剣。キミが今まさに持っているものだ」


 とは言っても俺、剣なんて生まれて初めて持ったんで、こんなぶっとい丸太を輪切りにする自信なんて……。


「断ち斬る必要はない。どれほど深く刃が食い込んだかでオーラ適性を見るんだ。そのオンボロ剣なら半分食い込めば充分適正ありと言えるだろう」


 ザンッ!


 丸太は見事に斬れた。

 上半分と下半分が綺麗に分れ、上の方は重力に従って地に落ちる。

 ドスンと。


「……ッ!? ……ッ!?」


 お父さんは目玉が飛び出そうに目蓋を広げ、丸太の断面を凝視した。


「……ま、まあ。これだけ斬れたってことは、ダリエルくんのオーラ適性はスラッシュ(斬)だな」

「すごーい。半分でも斬れれば合格なんでしょう?」


 傍で見学していたマリーカさんも驚いている。


「そうだな……! ダリエルくんは凄い! では次の特性を見てみよう」

「え?」


 俺の得意はスラッシュ(斬)で確定したんでは?


「当たりがわかったらこれ以上続ける必要は……?」

「オーラ特性は、得意が一つだけハッキリ決まるわけではない。大抵は一番得意なもの、そこそこ得意なもの、苦手なもの、全然ダメなものと分布するものだ」

「ほうほう」

「苦手はないが得意もない器用貧乏もいたりな。そういうのを見極めるために、一通り試してみるべきだろう」


 わかりました。

 こちらは教わっている身だし、素直に従うとしよう。


「次はスティング(突)。突いたり刺したりだ。これに相性のいい武器は弓矢だな」


 冒険者講座は続いていく。

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