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38 ダリエル、クズ即パンチする

『センターギルドから誰か来た』と聞いた時、俺はついに強制状関連の厄介ごとが本格始動したかと気合を入れて対応に出た。

 しかし思っていたのと違った。


 センターギルドからの使者は、俺になど脇目もふらず勇者の方に迫る。


 勇者はそれを見て目を白黒させていた。


 どうやら訪問者と面識があるようだが……。


「アナタは……、ノルティヤ!?」


 やっぱ知り合いらしい。

 なんだかよくわからんが、おかげで俺がすっかり話題の外に。


 喜んでいいのか憤慨していいのか。


「まさかアナタが、使者としてやってくるとは……」

「きったねえ田舎村だな。センターギルドの指示とは言え、このオレ様がこんな土民集落まで来なきゃならんとは」


 あ?


「それもこれも皆、お前に勇者の座を掠めとられたからだ。レーディ、自分が間違いで選ばれた勇者だって自覚できたか?」

「アナタとは勇者選抜会以来。あれから少しも変わっていませんね」


 面識どころか因縁があるようだあの二人?


 一体どんな関係なのだ?


「ノルティヤは、とっても嫌なヤツなんですよ……!」


 俺の隣に並んでいうのは……、勇者の仲間の一人ではないか。

 盾使いの、たしか名はサトメ?


「先代勇者様が引退された時、次の勇者を決める選抜会が行われました。そして選ばれたのがレーディ様だったんですが、そのレーディ様と競い合ったのが、あのノルティヤです!」


 ほほう。

 では、場合によってはあのノルティヤが勇者になっていたかもしれないと。


「そんなに強いのか? 彼?」

「強いは強いですが……。性格が最悪なんです! 結局勇者に選ばれなかったのも能力より人格に問題があったから……。人間族を代表する勇者は尊敬される人物でないといけないからって……!」


 なるほど。

 相当厄介な曲者であることはわかった。


 そんな厄介者が、何故このラクス村に来たのか。


「と、とにかくアナタがセンターギルドから派遣された使者であるというなら、私が申請した強制徴集状を持ってきてくれたということですね? 早く渡してください」

「いいや、持ってきてない」

「何ですって!?」

「必要ないからだ。センターギルドは、お前の要請を却下した」


 そしたら俺は助かるが、勇者は大困りじゃない?

 ギルドは勇者を助けるべきだろうに、なんで意地悪なマネを?


「レーディ。お前の印象は悪くなっているぞ。勇者のくせにちゃんと働いていないとな」

「……どういう意味です? 私は日夜勇者としての務めを果たしている!」

「最初こそはな。まずは水の四天王、次に風の四天王と撃退し、破竹の勢いで勝ち進んでいった。しかし肝心のラスパーダ要塞で進撃は止り、以降は遅々として攻めあぐねている」

「だ、だからこそ戦力強化に血道を上げているのです。この村に来たのも強力なミスリル武器を得るため。そして幸運にもこの地で出会った最後の仲間を迎えるためにギルドの協力を仰いだというのに……!」


 それが有難迷惑なんだがなあ。

 しかしあらゆるすべてが勇者の思い通りにはいかないらしく雲行きが怪しくなっている。


「だからだ。ただでさえ失点の多いお前が、こんな田舎村の冒険者を仲間に加えるなんて世迷言を言えば、ギルド役員会が困惑するのも仕方ないだろう」

「そんな……!」


 ノルティヤとかいう巨漢は、首を回し、ねちっこい視線をこちらに向けてきた。

 いや、視線の先は俺じゃないな。

 俺の隣に並んでいるサトメとセッシャ。勇者の仲間たちだ。


「あの二人をパーティに加える時だって、相当揉めたんだろう? ギルドはもっと有名で頼りになる冒険者をつけたかったのに、お前の我がままで勝手に決めるから……?」

「サトメもセッシャさんも、心から信頼できる仲間です! パーティを組むのに、信頼より重要な要素はありません!!」

「信じあえるメンバーでぶつかってもラスパーダ要塞は落とせなかった。お前の目に狂いがあったと言うことじゃねえか?」

「それは……!?」

「間違いがあった以上、こっちの意見にも素直に耳を傾けねえとな。センターギルド役員会は、苦戦する勇者のために援助を送った。つまりこのオレ様だ!!」

「!?」


 益々雲行きが怪しくなってきた。


「つまり、いまだ三人で不完全な勇者パーティに、このオレ様が加わってやろうと言うことよ! お前たちの最後の仲間としてな!」

「バカなッ!?」

「感謝しろよレーディ。このオレ様が加われば、お前の貧弱パーティも最強に早変わりだぜ?」


 どうやら彼が、勇者の仲間に加わってくれるらしい。

 さすれば俺はお払い箱と言うことで万々歳だが、しかしモヤモヤとした感じがする。


「待ちなさい!」


 そこへ火が付くように割って入ったのはサトメだった。

 本当に燃え上がるような激しい拒絶ぶり。


「誰がアンタみたいなヤツの加入を認めるのよ! アンタのようなジコチューオレ様野郎が入ったらパーティがガタガタになるわ!!」

「うるせえぞ無能小娘。オレ様がパーティに入ったからには、指揮はオレ様がとる。いわゆる、勇者を支える副将ポジションってところだな」

「ふざけるな!」

「文句があるならセンターギルドに言えよ。オレ様はヤツらのお墨付きで入ってやってるんだからな。あんまり文句言うなら、センターギルドの権限でお前をクビにしてやるぜ」


 高圧的な宣言に、サトメは気圧される。


「ちょうどお前より優秀な盾使いに心当たりがあるからな。勇者のお友だち枠でパーティ入りできたコネ女が偉ぶるな」

「こ、この……!?」

「そっちの槍使いも、これからはオレ様の言うことに従うんだぜ。オレ様が死ねと言ったら死ぬんだ。それがこのパーティのルールだ。嫌だと言うならセンターギルドの権限で容赦なく抜けてもらう」


 センターギルドとかいう権力を笠に、自分の主張を押し通す。

 また厄介な仲間が現れたものだ。


 こんなヤツが加入したら、勇者パーティは瓦解してしまうだろう。


「で? おーおー、コイツが勇者パーティに入りそびれたオッサンかい?」


 そして闖入者の視線はさらに俺へと移った。


「悪いねえ? 夢見させちまったかい? しかし選ばれた席には選ばれし者が座るべきなんだ。お前みたいな田舎の田吾作じゃあ資格がなさすぎだよ」

「……」

「でもまあ、そういやここミスリル武器を作ってる村なんだって? ちょうどいいオレ様にも一つ武器を作ってくれよ。最高の素材最高の職人をつけて。他の仕事は全部キャンセルしろ。オレ様の武器作りが最優先だ」


 勝手なことを言う。


「こんな価値のないカス村が、オレ様の役に立てて嬉しいだろう? 生涯の栄誉になるから心して働けよ。そうだ、武器ができるまでの暇潰しに女でもあてがってもらおうか? この村最高の美人を二、三人な? オッサン、何だったらお前のカミさんでも……、ぶぎゅるおえばッ!?」


 頬を殴りつけられた最強メンバーが、勢いよく転がっていった。


「この程度のヘロヘロパンチもよけきれないとは。とんだ最強メンバーだな」


 ううむ弱った。

 勇者パーティに入るつもりなどサラサラないが、いくらなんでもあのギルド推薦メンバーは酷すぎる。


 こんなクズに勇者たちが悩まされるのを放置する。

 さすがに良心が痛むな。


「デスクワーク組が現場をかき乱す。俺が前に働いていたところでもよくあった」


 戦いを知らないセンターギルド役員会とやらは、このクズの真価を見抜けなかったようだな。


「俺はそもそも勇者パーティじゃない。だからセンターギルドとやらの権力も効かない。色々としがらみのある勇者たちに代わって、お前を排除してやろう」


 勇者を支える人間族としての務めってヤツかな?


「テメエ、死んだぞ……!?」


 何だっけ名前?

 そうノルティヤとかいうヤツは、俺に殴られた頬を真っ赤に腫らしていた。

 瞳に怒りの炎をメラメラ燃やす。


「勇者であるオレ様に無礼を働くとは。お前は殺す! お前の悪行の責任を、この村全体に取らせてやる! 村の子どもを皆殺しにして女を全員犯してやる!」

「いつからお前が勇者になった? 勇者はそっちにいる可愛いお嬢さんだろ?」

「バカが知ったかぶるな! 本物の勇者はオレ様だ! 本来ならオレ様が勇者になるべきだったんだ!!」


 そういえば言っていたなあ。

 この男、先代引退に伴う新勇者の選抜会に出ていたと。

 こんな性格なら落とされて当然か。


 どんな場所にも賢い者とバカがいる。

 賢い者がこの男を勇者の選考から落とし、バカがここへ送り込んできたというところか。


「バカの後始末を押し付けられて迷惑千万なことだ。二度と迷惑を掛けられないように徹底的に叩き潰してやるとしよう」


 なんかそう言うことになった。

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