36 ダリエル、勧誘される
俺、勇者パーティに勧誘される。
当然断った。
「何故です!?」
それでも食い下がってくる勇者さん。
面倒なことこの上ない。
「勇者パーティに加わることは、冒険者にとって最高の栄誉! それを断るなんて!?」
「俺もう冒険者じゃないですし」
ラクス村で村長をやっていくために引退しましたからね。
「アナタは、いまだにオーラを使って戦っています。それは冒険者ギルドを脱退していない何よりの証拠では!?」
……。
……まあね。
このオーラの力は、冒険者ギルドに登録した際に授かった力。
ギルドの登録を抹消したら同時に消え去るものらしい。
だが俺は村長として、村に何かあったら先頭に立って戦う覚悟。
その時に必要な力としてのオーラ、冒険者ギルドへの登録を継続してもらっている。
そういう元冒険者を『予備役冒険者』といって、ある程度功績を上げた者にはよくあることだと聞いたぞ?
「よ、予備役でも冒険者は冒険者……! 勇者の求めに応じるべきではないでしょうか?」
「俺にとっては、この村の方が大事だ」
きっぱり言った。
元々行く当てのない俺を迎え、第二の故郷になってくれたラクス村。
俺の第二の人生はラクス村のためにあって、俺が村を裏切ることはないだろう。
「…………」
勇者は、さらに何か言おうとして言うことが浮かばないモゴモゴした感じになっていた。
それでもやがて言うべきことをまとめて、言う。
「私たちは今、ラスパーダ要塞を攻略しています」
「ああ、あの……!」
勇者側が魔王城に攻め入るために絶対手に入れておかなければいけない拠点。
魔族領の奥深くにある魔王城へ到達するには、当然ながら魔族領を進まねばならず、その間態勢を整える休憩場所などあるはずない。
だからこそ敵地に入った勇者を支援する拠点が必要で、それがラスパーダ要塞だった。
要塞は過去人間族が築き上げたものを先代グランバーザ様が奪い取り、逆に勇者を跳ね返すための防壁にした。
魔族の手にラスパーダ要塞ある限り、勇者は魔族領の土を踏めない。
それが魔王軍の共通認識だった。
「ですが、私たちは要塞攻略に何度も失敗しています。四天王の一人『沃地』のドロイエが、要塞を堅守してまったく動かないからです」
「ほう」
「もはや私たちの独力ではどうにもならないと悟り、新しい戦力を必要としているんです。新しい武器。新しい仲間。すべてそのためです……!」
ドロイエ様か……。
また懐かしい名前が出てきたものだ。
先代四天王が一斉引退し、代わりに入ったフレッシュな面々の中で、ドロイエ様が一番真面目だったように記憶している。
俺が補佐時代、新四天王の方々に必死にレクチャーした項目の中に、ラスパーダ要塞の重要性も入っていたが。
あれをしっかり覚えて戦略に組み込んでいるんだな。
「……しかし敵の四天王は一人なんでしょう? 三人がかりで倒せないのは情けなくありませんか?」
「まともに戦えば勝てるよ!」
プライドを傷つけられたのか、勇者の脇に控えていた仲間の一人が叫ぶ。
「でもあの四天王は、全然ちゃんと戦おうとしない! 防御に徹して守ってばかり!」
「魔族が使う魔法の中でも、土属性はもっとも防御に秀でた属性と言われてござる。それが防御に専念されては、こちらも決め手に欠け……!」
ああ。
そりゃ土魔法使いに防御に専念されたら、これほど嫌なことはないな。
まして賢明なドロイエ様は、ラスパーダ要塞の防御施設も巧みに織り込んでくることだろう。
イライラする戦いなんだろうなあ、と容易に察せられた。
「それだけでなくこちらも、土属性に有利なヒット(打)適性を持つ仲間を欠いてござる。勝てない原因はこちらにもあるのでござる」
「そのうち敵方には水の四天王まで加わって、益々難攻不落になるし! もうワタシたちの力だけじゃどうにもなんないんですよーッ!!」
勇者の仲間たちも、相当カリカリきていた。
そちらの大変な事情はわかったが……。
「それでもアナタたちには同行できません」
「何故です!? 何故そこまで頑ななのですか!?」
それはむしろこっちが聞きたい。
「魔王討伐は、人間族にとって数百年越しの悲願です! アナタの協力があれば必ず達成できると私は信じています!」
「……」
「アナタはオーラの全特性に通じ、それを十二分に活かせる特別な武器まで持っている。打倒ドロイエどころか、アナタがいてくれれば他の四天王にも負けません!」
とんでもない。
そんなことはできない。
追放されたとはいえ、魔王軍は俺が前半生を過ごした古巣。
そこへ弓引くことなどできようか。
鉱山の時のように成り行きで、ノッカーたちのような守るべき対象がいたのならともかく。
ただ攻め落とすために魔王軍と敵対するのは恩知らずだ。
それに。
「俺の守るべきものはここにあるんですよ」
「……!?」
「我が故郷。我が仲間。そして何より我が家族。俺の息子はまだ生まれてから一年も経っていません。まだ俺の顔も覚えてないでしょう」
そんな小さい子どもから。
「父親を奪うのですか?」
俺が勇者の旅に同行すれば、少なくとも数年は村を離れることになる。場合によっては二度と帰ってくれなくなるかもしれない。
「あの子がもっとも多感に過ごす、これからの時期を、俺に立ち会うなというんですか? 俺は御免だ」
俺の守るべきものはここにある。
「俺はアナタたちとは行けません」
アナタたちの武器が出来上がったら、早々に立ち去られるがよろしかろう。
◆
夜。
ベッドの中ですやすやと眠る我が子を見下ろす。
しかし大人しいのはほんの一時の間で、しばらくすれば夜泣きが始まるだろう。
今夜も夜通しの戦いになるに違いない。
「アナタ……」
俺の妻となったマリーカが寄り添う。
その表情には憂いがあった。
「本当に大丈夫なのかしら?」
勇者とのやりとりを、彼女も伝え聞いているのだろう。
心配せずにはいられないという感じだ。
「勇者様からの要請を拒み続けることなんてできるのかしら? アナタが村から出て行ってしまったら……!」
「大丈夫。そんなことは絶対にない」
俺の故郷はここであり、俺が守るべき場所もここなのだ。
俺からこの場所を奪おうとする者は、誰であっても必ず後悔するだろう。
「俺はラクス村を愛している。キミやグランのことも。この子が一人前に育つまで、この村を去ってたまるか」
「アナタ……!」
みずから身を寄せてくるマリーカを抱きとめ、唇を重ねる。
そう言えばここしばらく夫婦の営みがなかった。
二人目が欲しいとも散々言われているし。
彼女の服に手を掛け、肩口から胸の肌までが露わになろうとした、その瞬間。
「ホギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
ヤツの夜泣きが始まった。
今夜も戦いが始まる。
「おおー、よしよしよしよし……!」
「まったくいつでも元気なんだから……!」
解きかけていた衣服を整え直し、父母で息子に駆け付ける。
最近マリーカとイチャつけない理由はそれこそ息子にあって、俺の時間もマリーカの時間も今はほとんどコイツのものだった。
だがそれが親として当然なのだろう。
本来息子のものである俺の時間を。
勇者や世界のために割いてやることはできないな。






