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35 ダリエル、勇者を圧倒する

「アナタが?」


 それに反応したのは、勇者たちだった。


「アナタも冒険者なんですか?」

「以前は、村長就任と同時に引退しましたけれど」


 さすがに兼任するわけにはいかないからな。

 今では責任ある立場として、村と家族に尽くす毎日ですよ。


「アニキこそラクス村最強の冒険者だぜ!!  村長に就任するまでは、オレと二人だけの冒険者だったんだけど、ブレイズデスサイズを一人で倒しちまうほどアニキは凄かったんだぜ!?」


 ガシタがいらんこと言う。


「ガシタさんよく言いますよね、それ?」

「でもさすがにブレイズデスサイズをソロ討伐って盛りすぎじゃないですか?」


 倒された他のラクス村ギルド冒険者たちがボツボツ起き上がってくる。


「ほらもう! アニキの現役を知らない新人どもが疑ってかかってるんですよ! 久々にアニキの凄さを見せてやってくださいよ!!」

「嫌だよ」


 もう妻も子もある身なのだ。

 養うべき家族のために危ないことは極力したくないんだよ。


「いや、是非とも手合わせいただきたい」


 そう言って進み出たのは、勇者パーティの槍使いだった。


「セッシャさん?」

「村長殿の佇まい、一目見た時よりただ者ではないと感じておった。その力量を実検するためにも是非一戦……!」


 槍をかまえる勇者の仲間。

 ……。


「仕方ないな」


 俺は懐に収めておいたヘルメス刀を取り出した。

 冒険者を引退しても、いついかなる危機が村を襲うかわからない。

 だからこそ戦いの準備を怠ったことはなかった。


「……よろしいので? そんな護身用の得物ではなく、ちゃんとしたものを用意すべきでは?」


 基底状態のヘルメス刀は、小さなナイフのような形状を取っているので護身用と取られても仕方がない。


「気遣い無用、かかってきなさい」

「では……!」


 ちょっと偉そうな物言いになってしまったかな?

 槍使いの体表から闘気が発する。


「参る!」


 閃光のような鋭さが、俺の頬を掠めていった。


「これが槍の突きか……!」


 スラッシュ(斬)とスティング(突)のオーラ性質を併用する武器。

 猛然たる突きのラッシュが息つく暇も与えない。


 突き出したと思った時には既に引き、引いたと思った時には次を突き出す。

 それが、相手の体に突き刺さるまで続くのだ。


「なんという身のこなし!? 拙者の刺突をここまでかわし続けるとは……!」


 ラッシュのスピードを緩めることなく、相手は言う。


「しかし、そんな短い得物では反撃も叶わぬ! 間合いの広さが違い過ぎるのでござる!」


 たしかにナイフで反撃しようと思ったら槍をかわし懐に潜り込まないといけない。

 それを許してくれるほど拙い相手でもない。


 突きの速さ、正確さが、常に敵をけん制して切っ先より内側に踏み込ませない。

 それだけの技術と気迫を持った相手だ。


 これを攻略するに、もっとも効率的な方法は相手の間合いの外から攻撃することだろう。

 槍という、それこそ数ある武器の中でもっとも丈の長い武器を相手に。


 俺の手にあるのは短いナイフ。

 それこそ外側から突かれるなど夢にも思っていない、……こともないだろう。


 俺の手から放たれる白銀の閃光。


「やはり投げたな!?」


 槍使い、叫ぶ。


「投擲! その小さなナイフで拙者を仕留めるには他に手がない!」


 読んでいたぞと言わんばかりに身を捩じり、刺突の射線を避ける。


「貴殿の得意は投げナイフであったか! なるほど射程が広く手強い武器だが、回避してしまえばそれまでよ! さすれば丸腰の貴殿に勝ち目は……!? ッ!?」

「そのまま動かないで」


 俺の手から伸びるヘルメス刀の刃は、槍使いの頭部を掠めて、その横を通り過ぎていた。

 刀身は既に槍の総身以上の長さまで伸びている。


 柄はしっかり俺の手に。


「わかるね? 俺がこの剣を横に動かすだけで、アンタの頭はレモンのように輪切りになる」

「刀身が伸びる……!? 一体この武器は……!?」


 こっちが武器を投げてくるという予測は見事だった。

 普通に考えればそれがもっとも警戒すべきこと。対処も完璧。まことプロらしき所作だった。


 ただしこのヘルメス刀の機能だけがプロの予想を完璧に超えた。

 思考の外と言ってよかったろう。


「これはある物好きの遺作でね。ミスリルに色々混ぜた合金が、オーラに反応して形を変える。ナイフが、一瞬にして物干し竿ぐらいに伸びることも」


 槍使いの体は完全に伸びきっていて、咄嗟の動きもできそうにない。

 対して俺は、相手の頭のすぐ横を通過する刃を、いつでも振り薙ぐことができる。


「……参った」


 潔い。

 そこもプロの判断力だな。


「さあ、お気が済んだら戻りましょう。鍛冶師たちが武器を仕上げてくれるまでゆっくりとくつろいでください」

「まだです」


 えー?

 今度は勇者さんが進み出てくる。


「今の勝負、勝因はその不思議な武器にあるもので、まだ村長さんの実力を見せてもらっていません。もう一勝負していただきます」

「誰と?」

「もちろん、この私と」


 勇者さんは剣を抜いてやる気モードだ。


「セッシャさんの敗北は敗北。物言いと取られては彼のプライドを傷つけます。なので今度は私が。勇者レーディ、お相手を務めさせていただきます」

「俺の意思は?」


 と言いつつ身がまえる俺。

 こっちが拒否しても斬りかかってきそうな相手の気迫だから。


「その不思議な武器の特性は熟知しました。セッシャさんがタネを明かしてくれた以上、私が引っ掛かることは絶対にありません」

「コイツをただの騙し武器だと思ってほしくないな」


 それでは制作者が可哀相だ。


「このヘルメス刀の制作意図は、四つのオーラ特性のうちスラッシュ(斬)、スティング(突)、ヒット(打)の三特性をこれ一つで最大限発揮すること。オーラに反応して形を変える合金だからこそ可能な特徴だ」

「なるほど、しかしそれは聞くだけで欠陥品だとわかりますね」

「なに?」


 瞬時にして間合いを詰め、勇者が斬りかかる。

 俺はヘルメス刀をソード形態にして受け止める。


「オーラの適性は人それぞれ。得手もあれば不得手もある。だからそれぞれに適した武器を握る!」


 さすがに速いな。

 目まぐるしく襲いくる斬撃の連続に、俺も斬撃で対応する。


「勇者様の得意はスラッシュ(斬)か……」

「そう! 冒険者はそれぞれの適性に合った武器を握ればいい! 全部の特性に対応する武器などいらない! それはただの器用貧乏です!」


 前にも同じことを言ったヤツがいたな。

 だが……。



 勝負が始まってしばらく。

 俺の前には息を乱す勇者がいた。


「……はあ、はあ……」

「どうした? ヘルメス刀の鞭形態はもう満足したか?」


 蛇のように波打つ金属の鞭をしならせる。


「まさか……、斬突打の三特性すべてを充分に使いこなすとは……!?」

「コイツの作者も、それに目をつけて俺にコイツを授けてくれた。だから俺は、この武器を裏切るわけにはいかない」


 本当に厄介な形見を遺してくれたものだ。

 この名品に恥じない主であることを、俺は常に証明しないといけないんだから。


「武器に対する誠心ですか……。見事ですね」


 勇者は気が済んだのか、かまえていた剣を下げる。


「心根も晴れやか。強さは言うまでもない。……ついに、ついに見つけました」

「?」

「お願いです! どうか私の仲間になって魔王討伐の旅に同行してください!!」

「嫌です」


 そういや、そういう話だった。

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