34 勇者、試すと称して滅茶苦茶する
我が息子に一しきりおっぱいを揉まれまくってから、勇者さんは本題に乗り出した。
彼女が求めるのはミスリル製の武器。
より強力な武器で戦力アップを図るため、彼女らはこんな片田舎までやって来たのだ。
「ここがミスリル武器を製造している鍛冶場になります」
「おおー」
鍛冶場は今日も忙しく、そこかしこから鎚を打つ音が鳴り響いて賑やかだ。
「こうやって武器を作りだしてるんですね……!」
「今まで何気なく使ってきた武具が作られる場面なんて初めて見た……。なんか不思議~」
と勇者御一行は何やら社会見学の気分。
「ミスリルは、硬度や軽さの面で他鉱物より遥かに優れている上に、オーラを吸収するという性質を持っています。そのことからオーラを利用する戦法によく合うんです」
「オーラを吸収する!?」
俺の説明に、勇者さん驚く。
「それはどういうことなんでしょう? 普通の材質の武器とはやっぱり違うんですか?」
「それは全然違いますよ。オーラが表面にまとわせるだけじゃなく、芯まで染み渡りますからね。強化具合が段違いです」
生まれてこの方ミスリルに触れたことがない若者たちは、鍛冶場見学に興味津々だった。
「倉庫には完成品が数多く保管されています。その中から持っていかれる武器を選びますか?」
勇者からは、武器の代金を取る必要はないと既に申し付かっている。
センターギルドが立て替えてくれるそうだ。
さすが勇者は恵まれてるなあ。
「いいえ、できれば一から新しいものを作ってください」
さらに勇者さんは言ってきた。
「私たちのために作られた、私たち専用の武器を。無理を言っていることはわかりますが、魔王を倒すにはすべてにおいて最高のことをしないとダメです。だから武器も最高のものを使いたいんです」
「そんなことしても魔王様は倒せませんよ」
「え!?」
「何でもないです」
いかん思わず事実を指摘してしまった。
まあいいか。
料金は全部センターギルドが持ってくれるんだし。
「わかりました、ウチからも最高の職人を紹介させていただきましょう。お~い! サカイくん!!」
「はーい」
工房の奥からやってくる若い男性。
鍛冶仕事で暑かったのか体中に玉の汗を浮かべていた。
「彼はサカイくんと言って、この鍛冶場の棟梁です。鍛冶の腕もトップクラスですよ」
今は亡きスミスじいさんの弟子でもあった。
じいさんに遅れてアタノール炉を引きずりながら村へやって来た一人でもあったが、今は亡師に代わって鍛冶師を率い、ミスリル加工の極意を究めんとしている。
「サカイくん。この人たちの武器作ってー?」
「どえええええッ!? その人たち勇者パーティじゃないんですか!? 恐れ多いですよ僕なんかが!?」
一般的な人間族だとこういうリアクションになっちゃうのか。
「そうは言っても今ウチの工房で一番腕のある鍛冶師はキミだよ? それはつまり、キミ以上にミスリルの扱いに長けた鍛冶師はこの世にはいないってことじゃない」
「うう……、師匠が生きてればなあ……!」
「残念ながら、あの世まで発注はできないんだよ」
スミスじいさんが生きていたら当然彼に頼んだけれども。
ヤツがいたら、どう反応したかな?
やはり勇者の得物を鍛えられると大喜びしただろうか?
「わかりました! 師匠に代わって大役を務めさせていただきます!!」
「ん、それでこそ男だ」
サカイくんを勇者一行に引き合わせ、早速武器作りを始める。
「では、手を見せてください!」
「はあ?」
言われるままに利き手を差し出す勇者。
サカイくんは、その手を念入りに握ったり、擦ったりしている。
「あの……!? これは……!?」
さすがに戸惑う勇者一行。
見かねて俺が解説を加える。
「気にしないでください。これが彼らのやり方なんで」
「僕の師匠が、よくこうやって客の手を見てました。冒険者の手にはすべてが宿っている。それを読み取って客に一番合った武器を作れと言っていました」
サカイくんは、亡き師の立っていた領域にどこまで迫れるのか?
彼の真価を問うには、勇者の武器作りは格好の題材と言えよう。
「…………ッ!?」
そして勇者さんは、異性に手を遠慮なしに触られて顔を真っ赤にしていた。
ついさっきはウチの息子に胸を触られて、今は手を触られて。
よく触られる日なんだろうな。
「お尋ね申す」
勇者パーティの男性メンバーが聞いてきた。
「武器を作っていただけるのは有り難いとして、完成までにいかほどの月日がかかるでござろうか?」
「そりゃ一日二日じゃ無理でしょうけど。……どうだいサカイくん?」
それは作業する当人に聞くのが一番いいだろう。
「ご希望ならば急ぐこともできますが……。どの程度の期間を頂けます?」
「好きなだけ時間を掛けてもらって結構です」
答えたのは勇者の方だった。
「どうせ当面の攻略には行き詰っています。製作期間を聞いたのは、その間にやりたいことがあるからです」
やりたいこと?
「私たちには武器の他にも求めているものがあります。仲間です」
「仲間……」
「本来冒険者のパーティは四人一組。私たちのパーティにはあと一人分の空きがあります」
三人パーティですもんね、アナタ方。
勇者たちは、魔王討伐の目標に突き進むため、何とか四人目のメンバーを迎えてパーティを完璧にしたいらしい。
「これまで各地を回ってきましたが、これはと思う人には出会えませんでした。なので仲間探しは今も続行中です」
「はあ……?」
「新しい街や村に着いたら、必ず冒険者ギルドを訪ねるようにしています。そこにいる冒険者さんたちと一人一人顔合わせするために」
そして、自分たちの仲間に相応しいか審査していると?
「武器が完成するまでの間、ラクス村の冒険者ギルドを拝見させてくれませんか? そこにいる冒険者さんたちと手合わせしたいんです」
そうは言っても、こんな田舎のギルドに勇者様のお眼鏡に適う冒険者がいるとも思えないがなあ。
一年が経って、我が村の冒険者ギルドも大きくなった。
当初は俺とガシタしかいなかった我が村の冒険者も、ミスリル取引が行われるようになって発注されるクエストも増えた。
仕事を求める冒険者が外から流入し、今では二十人ほどの冒険者がギルドに登録している。
ギルドマスター専任になった義父さんが取りまとめている。
勇者からの要望なので無下にはできず、とりあえずギルド支部に待機している冒険者だけでも集めて紹介してみた。
勇者たちの、冒険者の実力を測る方法は明快だった。
ガチンコ勝負である。
◆
「いったー……」
我が村の冒険者たち、全滅。
無惨なまでに散らばる屍(死んでないけど)の群れの中心に立つ三人。
「ここもダメでござったな勇者様」
「さすがにこんな田舎ギルドじゃ望み薄ですよー」
お供の二人も強い。
我が村所属の冒険者たちも、『勇者の仲間になれるチャンス!』と挑みかかっていったが、まったく勝負にならなかった。
ほぼ全員が瞬殺。
「念のためと思って試してみたんだけど……。やっぱり無駄だった」
つまらなそうに溜め息をつく勇者。
「すみません、お騒がせして……」
「いいえー」
「本当はわかっていたんです、こうなるだろうって。もっと大きな街で試した時も大体こうだったので」
それでもダメ元で試したくなったのは、それだけ仲間探しに焦っていたからとのこと。
「納得いかねえええッ!?」
と立ち上がったのはラクス村所属の冒険者の一人ガシタ。
村が復興する前からの冒険者で、この一年でD級からB級にランクアップした。
今では頼りになる代表格だが、今の勝負では他大勢共々勇者パーティに瞬殺され撃沈。
「まだだ、まだ負けてねえ! ラクス村の冒険者は負けてねえ!」
「負けてるじゃん。ウチに所属する冒険者は皆勇者さんの足元に転がってるよ!」
「何言ってるんすかアニキ!? ウチにはまだ最強冒険者が残っているじゃないですか!!」
と言って、俺の方を指さすガシタの野郎。






