エピローグ
で。
俺は死んだ。
今の状況を分析するにどうやらそうらしかった。
ダリエル享年七十八歳。
我が生涯を懸けた構想、ラクス王国の建国を見届けた直後に死ぬとは。
息子たちに余計な迷惑をかけてしまった。
建国というめでたき日の翌日に、国父の葬儀とか。
なんか出鼻を挫かせてしまって申し訳ない。
それで……、なんだ?
グランツィルは死んだ俺に王号を諡してくれるって?
国父ダリエルを、ラクス王国の初代国王に定め、みずからは二代目国王として政を行う。
そうすることで生前の俺の功績をまるっと引き継ぎ、国家統率の材料にしていこうという魂胆か。
グランもだいぶ考え深くなったものよのう。
昔はただ本能で動くだけの子だったくせに……。
……七十八歳か。
まあ長く生きた方だな。
様々なことがあって実り多い人生だった。
それより先に逝ってしまったグランバーザ様やアランツィルさん、お義父さんにもこっちで会えるのだろうか?
ベゼリアやリゼートも割と早めに逝ってしまったしなあ。
マリーカはもう少し留まってほしいものだが……。
まあかねてから予想していた通りになったな。
俺たち夫婦に関しては、絶対俺の方が先に死ぬだろうなと思っていたし。
彼女に看取られて死んだことが我が人生最大の幸福であったのかもしれない。
こんなにも未練なくいくことができたんだし、あとは安らかに入滅すればいいかなと思っていたところに……。
『よう』
『うっわッ!?』
懐かしい顔に出会った。
先に旅立っていったグランバーザ様やアランツィルさんとの再会なら嬉しかったんだが。
死んで早々の再会は、そんな嬉しいものではなく。
『魔王様!?』
『ノンノンノン、その役割は地上から離れると同時にポイしたさ。ここにいるぼくちんは正真正銘の神。この世界を見守る者でしかないよ』
そうなんですか……!?
うわー、何十年ぶりだ? この方自身が地上を離れて以来か。
もう生きて再会することはないと思っていたのに……、いや、問題ないか。
俺もう既に死んでいるんだから!!
死んでから再会したんなら、生きてるうちの範囲外!
……というか、俺が死んで魔王様と再び鉢合わせたってことは、ここはやはり死後の世界ってヤツなのか?
案外と生前と同じように益体のないことを思いめぐらせられるものなんだな、死後って。
『変なのまで住み着いてるし……』
『変なのって何だい? 人が生きてたどり着けないところから見守るってのは、まさに神様らしい振舞いだろう? これがキミたちの、ぼくちんに求めた役割ってもんじゃない?』
はい。
まったく仰る通りです。
人間のために一歩引き、みずからの領分を敷いてくれた神様本当にありがとうございます。
『魔王……、いや神様はいつもこうやって死んだ人間を出迎えているんですか?』
『まさかー、一日何千って人間が死に絶えてると思ってるの? 自然死だって相当のものだよ。とても手が回らないって』
『そういうもんですか……!?』
それでも全知全能の神なら、時間的制限も突破して何とかしちゃいそうな気もするけどなあ。
しかし、そんな中わざわざ俺の魂に会いに来てくれたのは、生前の誓いを確認するためだろう。
『……神よ、御照覧いただけたでしょうか?』
『まあね』
『俺たちは、俺たちの手で切り拓く世界をきっちり作り上げられたでしょうか?』
この御方が地上から去ったきっかけは、俺たちが俺たち自身の力で進むと決めたから。
世界に神の介在は必要ないと人間が決めたから、神は地上から去ったのだ。
ならばそのあとに築き上げた世界は、神の眼鏡に適うものでなければならない。
『まあ、いいんじゃない? 人が人を治めるための社会としては及第点だよ』
『それでは……!?』
『見事だねダリエル。キミはたしかに、この神を超えた。神が想像もしない方法で。この世界の新たなる段階を切り拓いたんだ』
そう言われたのは素直に嬉しいことだ。
俺はラクス王国の建国に生涯を捧げてきたし、そのことが全世界の人々の幸福に繋がると信じていたから。
神なる者から認められ、再び報われたという感覚を得ることができた。
『ありがとうございます。これで俺も心置きなく、先人たちの下へ向かうことができます』
グランバーザ様も、アランツィルさんも、よもやこんな場所に留まっていることはあるまい。
ヴァルハラとか、地獄とか。
そんな魂の仮初の
魂の真の向かうべきところへ行くために、この世界では何もかも残さず完全に消滅したはず。
俺もまた、そこへ行くために入滅し……。
『そのことなんだけどさ』
『はい?』
入滅に向けて遠のきかけていた意識が、神によって引き戻される。
『実は完全に滅しちゃう前に、キミに提案したいことがあってね。それでわざわざ会いに来たってわけ』
『俺に何を提案しようっていうんです?』
『それはねダリエルくん……』
神は、それまでと同じようないたずらっぽい笑みを浮かべて……。
『キミも神様やってみない?』






