319 建国史、綴る
それから先のことを掻い摘んで語っていこう。
新王国の設立を企図した俺は、とりあえず集められるだけの各勢力の実力者を集めて思惑を語ることにした。
そして賛同を得ようとした。
魔族領からは暗黒将軍としてリゼート。ベゼリアもまだ完治しない怪我をおして出席してくれた。
他にも若い四天王たちも意外と全員出席。
人間族からは、姻戚でもあるセンターギルド理事長や、その人に絶賛しごかれ中の義兄スタンビル。
ベストフレッドさんもセンターギルドの実力者として出席。
さらに建設途中のラスパーダ要塞からグランバーザ様アランツィルさんの二人も駆け付けてくれた。
先日の激戦に参加できなかったことを悔しがる二人だったが、さすがにもう御歳なので無茶はしてほしくない。
そうして、これからの展望を語るには充分な顔ぶれとなった。
そこで語られる魔王様の消失、さらに魔王と呼ばれていた御方の正体を明かす。
人間族側にも大きな衝撃的事実であったが、ここで驚くばかりでなく魔王様が去ったあとのこの世界の在り方を、残された者たちで語り合わなければならなかった。
俺はかねてより温めていた新王国建設の構想を皆に披露した。
多くの者が驚き、戸惑ったが最後には賛同してくれた。
これまで魔王様を中心に回り続けてきた、この社会。
魔王様が抜けてしまった以上、世界を回すために新たな中心が必要になる。
魔王様に代わって新たに人間から王を選び出す。
適任といえば、既に大きな功績を打ち立てたグランバーザ様かアランツィルさん。
あるいは若くとも現役勇者で、かつオーラ魔法両方の因子を併せ持つレーディ。
「新しい王は、このいずれかから……」
「「「「「ダリエルで決定」」」」」
ん?
何故かよくわからんうちに俺が王様に推戴された。
俺はただ提案しただけで、自分自身はなると言った覚えはなかったんだが。
とにかく魔王様が去ったことによって、世界全体は否応もなく混乱に突き進む。
魔王様を守ることを使命とした魔王軍も。
魔王様を倒すことを目標とするセンターギルドも。
存在理由を失い、大きな混乱をしているうちに俺たちは、ラクス村を一つの自治区として独立を宣言。
魔族領はもちろん、人間領にも属さない勢力として名乗りを上げた。
ウチの村には、これまでミスリルの取引で得た財産が唸るほどにあり、その豊かさの下に集まった住民。
そして徹底して鍛え上げられた冒険者たちがいた。
さらにリゼートら魔王軍の大半が合流して身を寄せ、人類史上初めての人魔が共同した集団が出来上がる。
自治集団として成り立つだけの規模、富、そして戦力が揃い、俺たちは自分らの存在を周囲に充分に認めさせることができた。
もちろん認めない者たちもいたが……。
その代表が旧勢力たち。
人間領や魔族領でこれまで権勢を振るってきた者たちが、自分たちの栄華を守るため新勢力の台頭を断固許さない。
それでも俺たちはギガントマキアを囲い込むことで依然としてミスリル供給を確保できていたし、それらの加工技術は俺たちは独占していた。
それらの強みもあって旧権力は容易に手出しすることができず、逆に周囲の村落は俺たちの庇護を求めて所属してくるようになる。
人魔の戦いは終わっても、いまだモンスターはびこるこの世界で自衛は必須であり、安全のためにより大きな勢力に頼ることは必要なことだった。
権力に溺れたセンターギルドには、そうした実務能力が失せかけており、その中でも真面目に職務を遂行していたセンターギルド理事長がそうそうに脱退して親族の俺についてくれたことで、センターギルドの瓦解は加速した。
魔族側も、実働隊である魔王軍が丸ごとラクス村に身を寄せる。
上層部である四天王やリゼートが丸ごと俺に同意してくれたがゆえの結果だが、魔族側にも権力を貪ろうとする層はいて、そんな連中にとってみずから手足を動かす人員の欠如は致命的な問題となった。
そうこうしているうちに数年と流れ、俺たちの真似をして独立する勢力も現れる。
センターギルドの統率力は完全に崩壊し、そこから群雄割拠の混迷時代に突入していく。
それでも俺たちラクス村の……、いや、その時には既にラクス独立自治区と呼ばれるようになった俺たちの勢力は、ミスリル製品の独占と、人魔双方の能力を併せ持った自衛戦力によって、常に頭一つ飛び抜けた地位にあった。
それらは統一的な平和を求めての過程だったが、悲しいことにその道を突き進むためには時に戦わなければならないこともあった。
俺たちに追随して独立した勢力は、拡大するために他者を襲い併呑する。
覇権主義に囚われた連中から自分たちを守るために、時に激しい集団戦を繰り広げなければならない時もあった。
それでも俺たちは常に例外なく勝ち続けた。
人のオーラと、魔族の魔法。
それぞれ違った特製の能力で補い合い、さらに最高級ミスリルで装備を固められたラクス村の軍は、始まる前から他の勢力を圧倒していたのだから。
幾たびにもわたって塗り替えられる勢力図の横で、過去の栄華を保とうとすることしか考えなかったセンターギルドはゆっくりと衰退し、誰にも気づかれないままひっそりと消え去った。
それはもう一方の旧勢力も同様で、魔族領にて旧勢を誇ったのはアカデミーと呼ばれる魔法研究機関だったが、やはり時代の移り変わりについていけず時と共にドンドン縮小していった。
無論すべてが順調だったわけではない。
連戦連勝敵なしと思われたラクス独立自治区も、存亡の危機に見舞われたことが何度かあった。
その中でもっとも激しい戦いだったのが、水魔獣ハイドラの襲撃。
四魔獣の中で最後まで出会う機会のなかった魔獣が突如襲来し、大洪水で居住区丸ごと飲み込もうとしてきたのだ。
魔導士総出でなんとか水流を堰き止め、冒険者たちの集団戦でなんとか撃退することに成功。
のちに判明したことでは、水魔獣が俺たちを敵視するようになったのは、魔族領のアカデミーがウソを吹聴したためということが発覚。
水魔獣との誤解を解くと同時に、最後にかろうじて残っていたアカデミーの拠点を潰し、魔族の旧勢力は一欠けらも残さず消滅した。
また、新たに発展したこともあった。
魔王様が支配していた別世界。そのうちの一つ畜生道エデンから訪れたデカリオンとピラーの夫婦は、それぞれが人間族と魔族でありながら、種族の違いを超えて愛し合い夫婦となった。
それがために魔王様によって誅殺され、魂を異界に封じ込められた者たちだった。
彼ら夫婦は、互いに愛し合うことでそれぞれの魔力とオーラの因子を融合させる法。
……つまりドリスメギアンと同じものを目指していた。
畜生の夫婦は、地獄の主ドリスメギアンに遅れながら自分たちの真理を完成させ、それを地上に提供しに来た。
これを持って以降、かつて魔族人間族と呼ばれていた男女の間に授かる子どもたちは、魔力因子とオーラ因子の双方を最初から生まれ持つようになる。
かつて一つの人類だったものが、神の都合により二つに分かれ、そして再び一つになった。
十世代と隔たれば人間族と魔族の血は完全に混ざり合い、区別がつかなくなるだろうとのことだった。
自分たちが異界に封じられた根源的目的である魔王様の打倒には役立たなかったが、新世界に貢献できたことにそれ以上の満足を覚えて、夫婦は世界の外へと去っていった。
そして極致。
同じく魔王様が遺した異世界の一つであるヴァルハラから、数万を超える過去の強者エインヘリヤルが襲来する。
神を倒すために鍛え上げたのに、神が去ってしまったことで目的を失った彼ら。
そんな彼らが力を振るうために新たに見定めた標的が地上だった。
のちに『ラグナロク』と呼ばれるようになる戦闘亡霊たちとの戦争は、混沌たる群雄割拠の締め括りとなる最終戦争になった。
その頃には既に旧魔族、旧人間族の垣根を超えて結ばれた新夫婦の子どもたちが現役の世代になっていて……。
魔力オーラの融合発動の前には、エインヘリヤル数千年の鍛錬にも充分対抗可能だった。
長く続いた戦乱の果てに意を交わすようになった四魔獣も戦線に加わり……。
戦うことに囚われた亡霊たちは全員、消滅するまで戦い続けるというみずからの本懐を遂げることができた。
そしてその戦いは、人類存亡の危機として現存勢力を結びつける効果ももたらした。
『ラグナロク』へ対抗するために人類は一丸となってまとまるしかなく、その中心になるのはもっとも大きな勢力であったラクス独立自治区。
あの最終戦争を乗り越えることで、全人類はラクス自治区の下にまとまり、ここに全世界は結集し、ラクス王国が創設されることになった。
その時にはもう俺は年老い、先頭に立って皆を導くことはもうできなくなっていた。
体のあちこちがギシギシ言い始めていたし、気力も衰えてきた。
そんな俺に代わってラクス王国初代国王として即位したのが……。
我が長男グランだった。
成人して名を改め、もう一人の祖父から名の一部をいただきグランツィルと名乗るようになった息子は、正真正銘新世代の旗手となった。
俺の息子としてオーラ能力のみを継承したグランツィルだがそれでも実力は世界随一。
自治区時代のあらゆる戦闘に参加しては最大限の戦果を挙げて、仲間たちの信頼を集めるようになる。
魔族出身の女性と結婚し、みずからも家庭を営み、俺に孫の顔まで見せてくれるほどにまでなった。
子どもの頃によく見せた危なっかしさも、初陣を飾ってからはなりを潜め、正真正銘人類の導き手として大成した。
そのグランツィルが、魔王消失より四十年を経て、ラクス王国の建国と、その国王としてみずからの即位を宣言する。
俺はその様を、満足と共に見届けた。
多くの国民と一緒に。
俺の仕事はつつがなく息子たちに引き継がれ、これからも進められていくことだろう。
俺の役目は果たされた。
やるべきことをやり、やり残したことはすべてあとの者たちが引き継いでくれる。
人の終わりに際して、ここまで満足できる結果があるだろうか。
俺の仕事は俺の手を離れ、ここから歴史となる。
本日もう一話更新しております。
エピローグです。ご覧ください。






