317 神、去る(主神side)
戦いの経緯を、魔王こと主神オージンは最後まで見守っていた。
そしてすべてを見届けたあとに言った。
「ずるいなあダリエルくんは……」
フェンリルの天命すら解きほぐし、望む生を与え直してしまった。
「これが『天』の力。生きたいように生きることを肯定する力。この力をぼくちんにも使ってくれればね」
神と言えども天命から逃れることはできない。
そして主神オージンは、数万年と存在し続けてなお自分の天命が何かハッキリとわかっていない。
自分の世界の中で自分を超える者を作り出す。
その目的を追い求めてきた神ではあるが、それが今になって、果たして正しいことであるのかわからなくなってきた。
ダリエルを始めとする、彼自身の想定を超えたものが現れることで。
神を超える者とは、神を殺す者と同義だと思っていた。
しかし神を超える方法は他にいくらでもあるのではないか。
今まさにダリエルが示したように。
「神を超えるということは、神がこれまで想像もしたことのないような世界を、人自身の手で切り拓くことでもあるのか?」
少なくとも今、神みずから化した試練をダリエルは難なく退けてみせた。
最後の頼りとするはずだった破滅装置、極魔獣フェンリルすら無効化されたのなら、神にとってこれ以上の嫌がらせはみずから人類の敵に回るしかない。
「それはちょっと違うよねえ」
神は世界を滅ぼしたいのではない。
滅ぼされたいのだ。
みずからを殺し、滅ぼし去った先にこそ創造主の意図を超えた世界が始まると信じていたから。
しかしついに現れた、その実行者たりえるダリエルは、まるで神など最初からいないとでも言うかのように神の存在にかまわず、新しい世界の形を具現化しようとしている。
絶対不可避だと思われた新世紀創造の儀式は、当たり前のようにすっ飛ばされた。
あるいはそれこそが『神を超える』ということなのか。
「ぼくちんは、本当に用がなくなったのかもしれないね……」
ダリエルがこれから作ろうとする世界は、神を必要としない世界。
ならば地上に神が留まるのも、人にとって害にしかならぬのではあるまいか。
「神のために人があるのか? 人のために神があるのか? ……答えが出ちゃったかな」
どちらにしろ、神を必要とせずに回り始めた世界に、神の存在は邪魔者でしかなかった。
役割の終わった役者は、速やかに舞台から去るのみ。
魔王と呼ばれた存在の、体が少しずつ透明になっていき……。
……やがて完全に消え去った。
その瞬間を見届けた者は誰もいない。
これからもう二度と『魔王の間』と呼ばれることのないその場所は、ただひたすらに何もなき無音に包まれていた。
以降、この世界に……。
魔王と呼ばれるものも、神と呼ばれるものも……。
……現れることは二度となかった。
これより話の締めに入ります。
本日はもう一話更新しますので続けてご覧ください。






