313 戦線、拡大す
『真空断空』
レーディが放った必殺技だ。
恐らくスラッシュ(斬)特性のオーラ技『断空』に風の魔力を合わせ、真空の力で切断力をさらに強化。
そして一度切断した面を真空効果で再生不可能とする凶悪技と見た。
純粋な切断力なら俺の『凄皇裂空』をも上回るだろう。
やはり魔力とオーラの複合技は恐ろしい威力に成り果てるのか。
「以前はわたくしと一緒じゃないと撃てなかったのに、レーディちゃん単独で出せるようになって寂しいのだわー」
ゼビアンテスが空中を漂いながら言う。
「セルニーヤとかいうオッサンの魔力を引き継いだせいだって言うけど。レーディちゃんずっとあのオッサンのことリスペクトしてムカつくのだわ、あのオッサン。レーディちゃんのメモリアルにはわたくしこそが最強の風使いにしておきたいのだわ。あのオッサンめ!」
「オッサンオッサン言うな!」
最後まで会ったこともない人だが、オッサン扱いが不服なのは俺自身の感覚でもわかる。
『偶然にも彼女は、お前同様オーラと魔力を併用できる「地獄の継承者」になった』
ギガントマキアも言う。
『いや、困難に立ち向かう勇気と、困難を乗り越えた勝利が引き寄せた偶然ともいえる。それゆえに創造主様は彼女を餓鬼界に送り、拘束されたフェンリルを修行相手にすることを許された。これはヴァルハラのエインヘリヤルなんぞよりも遥かに高い待遇だ』
特別扱いには理由があったということか。
レーディ。
消息不明の間にも俺たちの想像も及ばない境遇にあって、飛躍的に成長していたんだな。
やっぱり彼女こそ勇者だ。
「それでも餓鬼界で戦っていたあの子は全身拘束されてほとんど動けていなかった。だから私でも食い殺されずに今日まで生き残ってこれたんです」
レーディが、いったん後退しながら言う。
「でも今はグレイプニルも外れ、完全な自由。あの子の実力は今まで一緒に修行してきた私が一番よくわかっています。長くは抑えきれないでしょう」
「心配するな。そのために俺たちがいるんだ」
あの大狼を『是空』で斬るためには、もっとヤツを理解してヤツの天命を探らなければならない。
そして『凄皇裂空』が通じないのは実証済み。
さらに一段階上の必殺技である『絶皇裂空』でも決め手にはならないだろう。
ならば……、後輩に倣うのも時にはいいか。
『是空』は俺が辿りついた『天』の力に、ドリスメギアンから発した『地獄』の力をも取り込んだ極致。
そこにあえて『地獄』力のみに頼り、オーラと魔力を複合させ……。
「グランバーザ様の『阿鼻叫喚焦熱無間炎獄』とアランツィルさんの『凄皇裂空』を合わせて……」
ヘルメス刀を振り下ろすと……。
……出た。
黒炎をまとった巨大オーラ斬刃が。
それは過たずフェンリルの巨体に命中し、炎は広がってヤツの毛皮を焼く。
『凄皇裂空』の斬性をも残って、巨大狼の表面を焼きながら斬り刻み続ける。
「あのしつっこさは『阿鼻叫喚焦熱無間炎獄』の効能だな。相手が死ぬまで何年かけても焼き続けるのがあの最強魔法の恐ろしいところだし」
……この技、『業火裂空』とでも名付けよう。
往年の最強ライバルが操った最強技の複合など夢みたいな技だ。
しかしこれであらためて証明された。
魔力とオーラを複合させた『地獄』の力なら、あの狼にもダメージを与えられる。
この場合、魔王様が唯一認めた極魔獣にさえ傷を負わせるということで、ドリスメギアンの執念が実を結んだ形となったか。
……なんだか嫌な話だ。
「この力は、セルニーヤさんの遺志が実を結んだもの! あの人とは敵でしたが、あの人の希望は私の中で息づいています!」
……。
同じ事象のはずなんだが、俺とレーディで受け止め方がまったく違う。
これが勇者ということか…………!?
一方、初めてダメージらしいダメージを追った狼、グルルと唸り声を上げつつじりじりと後ろへ下がる。
「怖気づいたのか? 図体の割に臆病なヤツだな?」
『獣とはそういうものだ。特にフェンリルは、傷を負うなど滅多にないから戸惑いが大きいのだろう』
そういうものか。
しかし相手が怯んだのなら一気に畳みかけるチャンス。
このまま主導権をこちらに握り続ける。
……かと思ったが……。
なんだ? フェンリルの様子が変だぞ?
ヤツの毛皮がモゾモゾ動いたと思ったら……?
「!? なんだ!?」
ヤツの体から放たれる大量の何か!?
一つならず無数で、イナゴの群れのごとく飛び出してくる!
最初何かと戸惑ったが、よく確認してわかった。
狼だ!
小型サイズ……、とは言ってもまだ本物の狼より二回り程度は大きいが。要するに小型フェンリル!?
「大型が、無数に小型を生み出した!?」
『みずからの複製……、簡易化した!? まるで私の能力ではないか!?』
驚く土巨人。
たしかにあれは、土くれから無数に自分を生み出す地魔獣の能力に似ている。
『まさか……、食らった私の霊体から、私の能力をコピーしたというのか!?』
分析けっこうだが、悠長にかまえている場合じゃないぞ!?
本体から分離した小型フェンリルは数百体に及ぶ。
手数で圧倒的に勝られたら捌ききれなくなるぞ!
この周囲にはまだ居合わせた魔王軍の兵士や、人間族の冒険者がいるんだ!
彼らに襲い掛かられでもしたら。
「ゼビアンテス! こんな時こそお前の風魔法の出番だろう! まとめて吹き飛ばせ!」
「いくら何でも数が多すぎるのだわああああッ! うひいいいいいッ!?」
彼女も既に竜巻を発生させて殲滅行動に出ていたが、いかんせん多勢に無勢で間に合わない。
俺たちも駆除に加わるべきか?
しかし今本体を叩かないとイタチごっこに……!?
「何をしているダリエル!」
叱咤の声と共に、巻き起こる水流が小型フェンリルを飲み込み、押し流す。
「あの水魔法は……!?」
「ここは私が引き受ける! あのバケモノ狼も小型に落ちれば魔法は通じるようだ!」
そう言ったのはリゼートだった。
得意の水魔法で、襲い掛かる小型フェンリルを次々薙ぎ倒していく。
「体は大丈夫なのか? ついさっき俺からボコボコにのされたばかりだろう!?」
「言うなよ、そのことを!?」
しかし無理を押して戦うのは……!?
「ベゼリアに比べれば傷は浅い。こんな緊急事態に多少の怪我で休んでいられるか!」
先の戦いで見せつけた『流水円環法』が再び炸裂。
小型フェンリルどもは獣の愚かさで考えもなく突進していくから、あっけなく流水に囚われもみくちゃにされていく。
「……これは、世界の命運を懸けた戦いなんだろう」
「はあ、まあ……!?」
色んな意味でな。
「ならば所属、種族を超えて一緒に戦う理由にもなる。ダリエルここは任せろ。私の実力でも露払いぐらいはできる」
「リゼート……!」
「もう二度とお前と一緒に戦えないと思っていたばかりだ。この機会を生かさせてくれ」
二十年ほど前までは、それこそコイツと一緒に視線を潜るのが当たり前だったんだがな。
若い頃を思い出して、フレッシュな気分になる。
「後ろは任せた親友」
「ああ、任せろ」
「ゼビアンテスもいるから連携して小型どもを駆逐してくれ。その方が効率いいからな」
「任せろ……?」
古き友情が復活しても、ゼビアンテスのお守りを任せるのはしんどいらしい。
「はー!? 何わたくしを厄介者みてーな扱いにしているのだわ!? わたくしが百人力だって言うことを見せてやるのだわ!」
「アンタは戦い方が雑だから討ち漏らしがあるんだよ! ほら今も二匹逃げた! 全部倒さないと意味ない戦いだと気づけ!」
「だったらテメーがカバーするといいんだわ! 四天王のサポートが魔王軍の仕事でしょうが!」
「もう四天王じゃないだろお前!」
ゴメン、リゼート。一番しんどいところをお前に担当させてしまったかもしれない。
しかし、往年の友が協力してくれたことで、いきなり増えた小フェンリルに煩わされず本体に集中できる!!
「ダリエルさん、私たちは大きい方のフェンリルちゃんを!」
「うむ!」
俺だけでなく俺たち全員で、この世界の危機に立ち向かう。






