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283 ミスリル鉱山、望まぬ来訪を受ける(人間族side)

 ミスリル鉱山は、ちょうど人間領と魔族領の境界線上に位置している。


 それもまた、かの地が長い争奪戦に晒された理由の一つであるのかもしれない。


 だがそれ以上に大きいのは、世界最優良の金属ミスリルを産出するのが世界中探してもここだけという唯一無二の付加価値があるからだ。


 数百年に及ぶ魔族と人間族の戦いの歴史の中で、ミスリル鉱山は何度所有者を変えたことだろうか。

 すべてはミスリルが武器や魔導具の材質としてあまりにも優秀すぎるからであった。


 今現在、ミスリル鉱山は人間族に属し、冒険者ギルドが厳重な管理下に置いている。

 使い道を誤れば重大な脅威となるミスリルを、不用意に流出させないためでもあった。


 それゆえに無関係者が鉱山に近づくのを一切禁止している。

 鉱山から搬出されるミスリルが最初に通過するラクス村と提携し、ラクス村から鉱山へと続く輸送路を進入禁止にして関係者しか通過させないほどだった。


 そんな出入りが現住管理されたミスリル鉱山に見知らぬ客がやってきたのだから、ちょっとした騒ぎになった。



「総督、総督」

「ん?」


 ミスリル鉱山の最高責任者ベストフレッドは、現場では総督と呼ばれていた。

 かつてはセンターギルド理事という要職に在りながら、その座から退いて、このような僻地に赴任してきた。

 変わり者と呼ぶには充分であろう。


「どうした? ノッカーたちに配る三時のおやつが足りなくなったか?」

「そ、そこは抜かりありませんけど……!? 見回りの冒険者から報告で、西方面から何者かの気配がすると」

「気配? そんなバカな……!?」


 ただでさえ人の出入りを厳しく管理されたミスリル鉱山。

 予定外の来訪があるはずもなく、誰かが来るなら必ずラクス村より村長お墨付きの事前報告があるはずだった。


 さらには西方面という特異性。

 ミスリル鉱山の西側には何もないはずで、ラクス村からの輸送隊も来るときはいつも東側からだった。


「……山賊か何かかもしれん。冒険者たちを警戒態勢に」

「わかりました」

「ノッカーたちを不安がらせないよう静かにな。……あと、もしよからぬヤツらなら陽動という可能性もゼロじゃない。騒がしいところばかり気を引かれるなと伝えておけ」

「了解です!」


 テキパキと指示を出してベストフレッド自身は問題となる西側へ向かう。


 ミスリル鉱山には、採掘されたミスリルの計測、管理を行うための事務要員の他、警護を役目とするD級~B級の冒険者が五十人ほど詰めている。


 かつて炎の魔獣の攻勢を受けて崩壊寸前まで追い込まれたミスリル鉱山は、それを教訓にしっかりと防衛体制を整えてきた。


 ベストフレッドはその陣頭に立つ者であった。

 年齢はもはや六十に届くほどであったが、走る足取りはしっかりとしていて、すぐさま鉱山西方面へ到達できた。


 既に数名の警護冒険者が集まって警戒態勢をとっている。


「どうなっている?」


 気心の知れたもので、短い問いかけでも冒険者は意を得て的確にこたえる。


「やはり侵入者のようです。しかも集団でいます」

「集団……!?」

「探らせたところ百人単位の大集団です。真っ直ぐこっちに向かっていると……!」

「バカな! 鉱山の西は何もない未開地だぞ!? 山と森ばかりで人なんかまともに歩くこともできないはずだ!?」


 それを大集団で押し寄せるなど、ありえる話ではなかった。


 そこへ新たに冒険者が駆け寄ってくる。

 方向からして斥候が、役割を果たして戻ってきたのだろう。


「リーダー! リーダー大変です!」

「報告は総督へ直接しろ」


 今までベストフレッドと言葉を交わしていた冒険者は、警備をまとめる年長者でもあった。

 思慮深い眼差しを受けて、ベストフレッドは頷く。


「頼む……!」

「それでは……! オレはリーダーから言われて謎の集団の侵入経路を探るようにと言われて走りました。集団をグルリと迂回し、後ろへ気づかれず出るように」


 そこで彼は見たという。


「何もないはずの山ン中に、大きな道が出来ていました!」

「道!? ……道路ということか!?」

「へ? 道と道路って違うんすか?」


 細かい違いを正していたら一向に進まないので、無視する。


「木とか伐り倒されて、地面もしっかり均してあって、明らかに人の手が加わった道でした! ヤツらはそこを通ってきたのかと……!」


 山中を集団が通ってきたというなら、それ以外に説明のしようがない。

 ベストフレッドは戸惑いながらも考えをまとめようと顎を撫でる。


「そうだ……! 今はどうやって来たかよりも相手が何者なのか、何が目的かを知る方が先決だ……!」

「道があるというんなら、その先を辿れば相手がどこから来たかわかるでしょう。何者かもおのずとわかるはずです」


 リーダー冒険者の言はもっともだが、斥候から帰ってきた若い冒険者はかぶりを振って……。


「ダメです、オレもそう思って道を辿ろうとしたんですが、あまりも長くてすぐには行き着けそうになくて……。諦めて戻ってきました。相手が到着する前に報告できなきゃ意味ねーだろと思って……!」


 それは斥候のよい判断だった。


 謎の集団が山森を切り拓いて道路を作り、その上を悠々歩いてきているということがわかっただけでも収穫はある。


「道路開通といえば大工事だ。それを行える財力と組織力を持っているということになる……!?」

「それだけでなく新しい道を作るということは公な許可も必要でしょう? 各集落の安全に関わってきます。ここミスリル鉱山周辺ともなればなおさらです」


 リーダー冒険者の言う通りだった。

 けもの道に毛が生えた程度ならともかく、百人単位が列をなして通れるならそれはもう街道と言っていいほど。


 そんなたしかな道を山賊程度が作れるとしたら大問題であった。


 そうでないとしたら、今こちらに接近している数百人は何かしらの公に属する者になる。


「まさか魔王軍!? いや、それも方角が違う……!?」


 ベストフレッドが考えを巡らすうちに、一つの可能性に思い至った。

 懇意にしているダリエル村長からも注意を受けていたこと。


「ええと……!!」


 ベストフレッドが足元をキョロキョロ見回す。

 何かを探している風だったが、偶然転がっていた木の枝を拾うと、その先で地面をガリガリ掘り出した。


 一体何事かと周囲の冒険者たちも訝ったが……。


「……このマークだ」


 ベストフレッドが地面に枝で描いたのは、珍妙な幾何学模様が重なった紋章のようなものだった。


「今こちらに向かっている集団に、これと似たようなマークはなかったか!? 旗とか幟とかで!」

「わかるのは一つ……!」

「総督、絵心ないっすねえ……!」


 そこは触れなくていいとベストフレッドは思った。

 彼の描写力の評価はどうでもよく、問題なのは集団がこのマークを背負っているかどうかだ。


「そう言われても、手本のこの絵がぐんにゃりしすぎて照合が難しいですよ。却ってわかりにくくしてるんじゃないすかあ?」

「なら率直に、相手が商会かどうかを知りたいんだよ! もしそうなら商会のマークを背負ってるはずだろうどこかしらに!?」

「これ商会のマークだったんですか? 似ても似つきませんよ?」


 ボロクソに言われる。


「……あッ!? たしかになんかマークの付いた旗を上げていました!?」


 偵察を務めた冒険者の幾人かが口々に言う。


「どこかで見たマークと思ったら商会のマークだったんだ!? たしかにどっかの街で見たのと一緒ですよ!!」

「どうしてそれを最初に気づかんかなあ!?」


 商会は、人間領の主立った街の数々に支部を置いて、そのマークもよく目につくはずなのだが。

 冒険者たちには直接関係がないので記憶が薄れがちなのだろうか。


「しかし商会が来おったか……!?」


 ダリエル村長からあらかじめ注意は受けている。

『商会がミスリルを狙っている』と。

 最近とみにその動きが目立ってきたため、本陣であるミスリル鉱山も用心するように呼びかけられていた。


 ラクス村のダリエル村長は、柔剛取り揃った強力な才覚人。そのことは、ここ五年余りの付き合いで充分に知れている。

 そのダリエルが『注意しろ』ということは、真実注意すべきことでもあった。


「しかし、まさかこんな方法で迫ってくるとは……!?」


 ミスリル鉱山に到達するために、まったく新しい道路を開通させる。

 強大な資本力を持つ商会ならではだとも思ったが、今は感心している場合ではない。


 そうこうしている間にも、相手は目の前まで迫っていたのだから。


「やあやあ、出迎えいただいて恐縮ですなあ」


 百人単位の集団は、馬が引く荷車と、その御者。護衛と思しき武装集団。それに加えて一層奇異に映る、綺麗な身なりをした一握りの一団がいた。


「商会長リトゲスと申します。これよりミスリル鉱山を共同管理する者として仲よくしていこうではありませんか」

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― 新着の感想 ―
[一言] 商会長リトゲスと申します。これよりミスリル鉱山を共同管理する者として仲よくしていこうではありませんか」 って普通に村長に問い合わせたら詐欺で訴えられるじゃん
[一言] ひぐらしのなく頃ではみんなみてても知らん振り
[一言] ぶっちゃけてここで斬り殺しても問題なくね?
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