27 究極武器、完成する
「それで挑戦を受けたというんか?」
スミスじいさんが呆れ口調で言ってきた。
まあ村長やマリーカに相談もなく受諾したのは悪いと思ったが、事後で話を通したらあっさり過ぎるぐらい承認してくれた。
『ダリエルくんに任せておけば問題ない』
『ダリエルさんに任せておけば安心です』
と。
あの家族の俺に寄せる信頼の大きさが押し潰さんばかりなのが苦しい。
「どっちにしろ、一回完膚なきまでに叩き潰した方がよいと思いまして」
「それでワシを訪ねたわけか!? これを貰うために!?」
スミスじいさんは嬉しそうだ。
「いいぞ! ちょうど出来上がった! 我が生涯最高傑作じゃ! 受け取れ!」
と武器を差し出してきた。
「まさか完成してすぐ試し切りの機会が来るとはの! お前さんはまさしく至れり尽くせりの使い手じゃあ!」
それはいいんですけど……。
あの、このスミスじいさんから手渡してもらった武器……。
本当にアナタの最高傑作でいいんですか?
って言うぐらい、ちょっと、あの、変……!?
◆
そして決闘の場にやって来た。
決闘相手のフィットビタンだけでなく、彼が引き連れているキャンベル街勢。ラクス村関係者のマリーカや村長など多くの人が集っていた。
「よくぞ来た。負ける覚悟はできたようだな」
冒険者フィットビタンは傲然と待ち受けてた。
「自信たっぷりだな」
「当たり前だ。B級冒険者である私がD級ごときに遅れをとるなど万が一にもありえない」
絶対負けないという確信の下に、賭け試合を強いてきたというのか。
相変わらず姑息なことだ。
「ギルドの冒険者等級……。それがアンタの自信の根拠か?」
「それだけではないぞ! 我らキャンベル勢は、ついに独力でのミスリル武器開発に成功した。武器の性能でも、もはやキミには負けない!」
フィットビタンが突きつける剣。
銀よりも白く輝く鋼。それがミスリルの特徴だ。
刀身の放つ輝きはたしかにミスリルのようだが……。
「輝きが鈍いな……?」
くすみが酷く、あれでは通常の鋼鉄とちょっと違うかというぐらいだ。
「どうです……? あれ?」
「まあ形だけは整いましたってレベルだな。ミスリルの持ち味を全然活かせていない」
俺の隣に並ぶスミスじいさんが言う。
「だがミスリルはただの鋼材としても鉄や銅より優れている。軽いし頑丈だから性能は上がってるだろう」
「わかりました」
「我が最高傑作の性能検分には、まあそれなりの相手だ。軽く捻ってやれ」
軽く言ってくれるなあ。
軽く捻り潰せるかはともかく、慎重に対するのが相手への礼儀だろう。
この新しい武器に対しても。
「やはりキミもミスリル製の武器を用意してきたか。いいだろう。それを叩き壊せば鍛冶師の腕前もキャンベル勢が上ということになり影響力も増す!」
フィットビタンは剣の他に、小型の盾も用意していた。
右手に剣、左手に盾。
というスタイル。
「スラッシュ(斬)とガード(守)に両適性のあるゼネラリストタイプのスタイルだな」
スミスじいさんが解説する。
「片手剣にバックラー。見た目通りに攻守のバランスが取れた戦い方だ。一番安定していてサシでやると厄介だぞ?」
「厄介な方が、新武器の実験には好都合でしょう?」
俺もまた武器を取り出してかまえた。
鍛冶師スミスの最高傑作。ここにお披露目の時が来た。
「……は?」
フィットビタンは、敵たる俺の得物を見て訝る。
眉間に皺を寄せて目を細め、俺の手にある武器をしっかり確認すると、今度は笑った。
「なんだなんだ? なんだそれは?」
フィットビタンの表情は完全に安堵の色となり、さらに侮蔑するかのようだった。
それだけ俺の持つ武器に落胆したのだろう。
俺が持つのはナイフだった。
しかも極端に刃渡りが短い。
このナイフこそ刀匠スミスが生涯最高傑作と誇る新武器だった。
「ははははははは!! はははは! 面白い!」
フィットビタンが完全に勝った気分になっている。
「偉そうなジジイが何を作ったかと思ったら、そんな粗末なナイフ一振りだとはな! 警戒したのもまったくの取り越し苦労だ! すっかり騙されたよ!」
「……」
「いいや、騙された被害者はキミもだなダリエルくん!? 泣きたいんじゃないのか? そんなオモチャで決闘に臨む自分の哀れさにな! 何ならもっとまともな武器に持ち替えてもいいんだぞ!?」
双方の刃渡りの差を見せつけるように、剣の切っ先をチラつかせる。
「これはもう私の勝ちだな。哀れな田舎者どもが最初から協力を願い出ていれば多少のおこぼれには与れたろうに……! ミスリル鉱山の利益は、我らキャンベル街が独占する!!」
「騙されるのは……」
俺は言う。
手にあるナイフをかまえ、敵へ向けて狙い定める。
「……これからだ。お前は騙されて、驚かされるんだ。一生分な」
「何をバカな? 私はキミに呆れるばかりだよ、田舎者の愚かさに」
ヒュン、と。
空気を斬る音が鳴った。
俺がナイフを振り抜いた音だった。
フィットビタンは何も反応しなかった。
当然だろう。互いの間合いは遠く、俺のナイフどころか相手の片手剣も全然届かない距離だったのだから。
そんな距離で振り抜いても『何を無駄な動作を?』と首を捻るしかない。
実際フィットビタンはそうした。
「何をバカな……!? 戦い方すらわからなくなったか……!?」
「斬ったぞ」
「は?」
「お前の盾を」
指摘と同時に、フィットビタンのかまえる盾が真っ二つになって地に落ちた。
彼の腕から離れて。
フィットビタンは目を剥いて驚く。
「何いいいいいッ!? 何故ッ!? 盾がッ!? いつ斬られた!?」
ヤツは自分の防具が斬壊されたことを、結果が表れるまで気づけなかった。
「一応その盾もミスリル製だろう? それを両断できるってことは威力も申し分ないってことだな」
「まさか……ッ!? キミが斬ったというのか!? そんな短いナイフで!? 距離がまったく足りないじゃないか!?」
俺とフィットビタンの間にある距離は、それこそ槍で突いたとしても届くか微妙なところだろう。
その距離をナイフが飛び越える。
困惑するのも仕方がない。
「ほら騙されている。何が起こっているかさっぱりわからないだろう?」
「黙れえええええッ!?」
フィットビタンは、残った片手剣のみで斬りかかってきた。
敵のやり口がわからない以上、後手に回るのは愚策と判断したのだろう。攻めに徹することで主導権を握り続ける。
その方針は正しい。
正しければ勝てるかどうかは別問題だが。
「うぎゃああああッ!?」
切っ先がこちらに届くかどうかの距離より手前で、フィットビタンは崩れ倒れた。
何かに勢いよく躓いたかのように。
「痛い!? 痛いいいいいッ!? なんだ一体……ッ!?」
フィットビタンの右太ももに穴が穿たれていた。
まるで鋭利な刃物で突きさされたかのように。
「こんな傷……!? 一体いつの間に……!? お前か!? お前の仕業か!?」
痛みで余裕がなくなったのか、悪鬼のような形相でこちらを睨む。
「それがお前の本性か」
慇懃な紳士ぶりを糊塗しながら、その内にはあらゆる者を見下す醜い本性。
俺は、ナイフの切っ先を突きつける。
狙いを定めるように、フィットビタンへ向けて。
瞬間、ナイフが伸びた。
ナイフの刃が、元の長さの何十倍にも伸びる。しかも物凄い速さで。
伸びたナイフの切っ先は相手の体、左肩の部分に突き刺さる。
「ヒィッ!?」
そして伸びた時と変わらぬ凄まじい速さで元に戻る。
また伸ばす、相手の体に突き刺さる、戻る。また伸ばす、刺さる、戻る。
その繰り返し。
「あぎゃあああああッ!?」
フィットビタンは次々自分の体に空く穴に絶叫した。
「安心しろ。ちょっと針でつつく程度にしか刺してない」
最初の一刺しは、この武器の動きに慣れなくて深く刺しちゃったけど。
これが、この武器の秘密。
使い手のオーラに反応して、伸びたり縮んだりする。
名工スミスじいさんの技と研究によって実現したビックリ武器だ。






