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275 ダリエル、天の力も得る

「えー?」


 なんだよこの人?


 俺がオーラだけでなく魔法まで使えるようになり、双方を併せた最強の力が使えるようになったからこそ自分を倒せるのだと言いに来たんじゃないのか。


「ぼくちんはまだ言いたいことの半分しか言ってないからね」

「なんと?」

「図らずもバシュバーザくんの魔力因子を受け取ったキミは、正しくドリスメギアンくんが目指した最終形に至った。キミは彼の理想そのものだ。でも、ぼくちんを倒すまでには至らない」

「えー?」


 それはつまりドリスメギアンは計画段階でダメダメだったということ?

 なんだよ。

 いいとこなんもなしじゃんアイツ?


「彼もまた道半ばということだったんだね。実際には充分満足いく形でぼくちんに挑んで、すぐさま敗けて。それを糧にさらなる高みに進んでほしかったんだけどキミが彼ごと消滅させちゃったからね」

「もしかして根に持ってます?」

「そんなことないよー。だってドリスメギアンくんの目標はキミという形で実現してるんだもん。きっと彼も満足したことだと思うよー?」


 いやだから……。

 俺はヤツの夢を継承する気など少しも……。


「それにキミは、彼の期待よりさらに先へ行っているからね」

「はい?」

「ドリスメギアンくんの想いを受け継ぐ気はなくても、他に受け継ぎたい想いはあるんじゃないの?」


 そう指摘されて思い浮かぶ、二つの面影。


「…………キミが地獄を消し去った技、『是空』」


 インフェルノことドリスメギアンとの最終決戦で、俺はヤツの巣食う地獄そのものを剣技にて消し去った。


 今思うと飛んでもないことをしたものだが、最初からやろうと思ってしたわけでもない。

 気づいたらできていた。

 そんな感じだった。


 俺の中に息づくグランバーザ様の教え。

 俺の中に流れるアランツィルさんの血脈。


 その二つが結び合い、俺の中で新たに開花した技が『是空』だった。

 放たれるまで、できるなどとは少しも思わなかった。

 あんなに自然な気持ちで完成した技はかつてない。


「わかっていると思うが、あの奥義はドリスメギアンくんの理屈とはまったく別のところから生まれた技だ」

「わかります」


 あれこそ我が父たちの刻苦葛藤が乗り移って昇華した結実だ。

 あんな腐れ野郎の何がしかでも関わってると思いたくない。


「グランバーザくんも、アランツィルくんも、ドリスメギアンくんとはまた別の意味での絶人だ。違うアプローチによってぼくちんを倒しうる力に至った」

「魔王様を倒しうる力……」


 つまり魔法でもオーラでもない、第三の力。


「迷い、泣き、怒号し、その果てに静まった無の心は、最初から無であることとまったく違う。力ある『無』だ。あの二人はその境地に至り、それぞれの最強奥義に至った」


 グランバーザ様の『慈光兜率天』。

 アランツィルさんの『静応裂空』。


 どちらも地上に破れることなき究極の技。


 そしてそれらから派生する形で俺の剣技『是空』は完成した。


「ダリエルくん、キミが悟達した絶剣は、地獄を斬り裂き消滅させた。それはもう『一剣倚天』の域に迫っている。天命を斬り裂く剣だ」


 気のせいか?

 魔王様の口調が浮かれているように聞こえる。


「キミの生命エネルギーが変色した時、ドリスメギアンくんが喜んだ。それはキミの中で魔力とオーラが融合したと思ったからだ。でも違う。キミのオーラ変色は二人の父親から受け継いだ悟達によって、さらに上の次元へと生命エネルギーが進化したからだ! ぼくちんは……」


 魔王様の独演はまだ続く。


「ぼくちんを倒すための手段を六つほど用意し、それぞれに名を与えた。地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、そして天……」

「そのうちの地獄はドリスメギアンのいた世界。修羅とはヴァルハラのことですね?」

「そうさ、この六つの道の中でも特別な一つがある。それが『天』だ」


 この人が自分を殺すため、様々な準備を進めているのは察していたが……。

 そんなにも……。


「『天』だけは、ぼくちんの手の中にない世界なんだ。『こういうことができるだろう』という察しはついているが、ぼくちんからは手の出しようがなくてね。存在を予測して、期待しておくしかできなかった。……でも!」


 おおうッ!?

 魔王様が迫ってきた!?

 子どもの姿なのに気配が鬼気迫っていて圧倒される。


「キミが『天』の世界を切り拓いた! いやキミたちが! ダリエルくんとグランバーザくんアランツィルくん! この三人が葛藤の末に切り拓いた世界はまさに『天』の世界だ!」


 天の世界とは……。

 悩み、迷い、苦しみ、俗世の泥に塗れてのたうち回り、その果てにたどり着く清浄。

 濁りながら清らかでいる。


 その矛盾を治めた者だけが放てる不破の一撃。

 それが『慈光兜率天』であり、『静応裂空』であり、俺の『是空』でもある。


「実際のところぼくちんは、この天道こそが現実にぼくちんを倒しうる力だと思っている。天命を断ち切る剣こそ、人が手にしうる唯一の『神を殺す力』だ!」


 そして……。


「アランツィルくん、グランバーザくんは死後ヴァルハラに迎え入れようとしたけれど、彼らは既にそれを超えている。彼らは彼ら自身が『天』だ。……そしてダリエルくん、キミはさらに特別だ」


 そうですか?


「何しろキミは、切り拓いた『天』の力だけでなく、ドリスメギアンくんが追い求めた地獄の力までも得ているのだから」


 そこまで言われてやっと、魔王様がどうして俺に執着しているかがわかった。


「グランバーザくんアランツィルくんから受け継いだ『天』の力。ドリスメギアンくんと戦うことで獲得した地獄の力。ぼくちんを倒しうる力のうち二つをキミは揃えている。ここまでの有望株はさすがにこれまでいなかったねえ」


 魔王様を倒しうる六つの手段。

 そのうちもっとも望みが高い『天』の力。

 それだけでなく同時にもう一種の地獄の力すら併せ持つ。


 そんな俺に魔王様が期待をかけるのはある意味仕方ないともいえるのか。


 俺自身、自分の中で起きた変化には気づいていた。

 段々と、五年間をかけて。


 自分の中にオーラとは違う種類の力が息づいていると意識したのはいつごろからだろう。


 その違和感を解き明かすために、誰もいないところで試しに魔法を撃ってみた。

 本当に出てきたから驚いた。


 魔法の操作は、魔族として育てられた幼少時代数え切れないほど練習してきたから際限は容易。

 あの日の無駄な努力が、今になって実を結ぶなんて思ってもみなかった。


「……キミの剣は、地獄を斬り裂き滅ぼした」


 魔王様が相変わらず期待のこもった声で言う。


「ドリスメギアンくんに預けてあったとはいえ、あれはそもそもぼくちんが創造した世界。ぼくちんの世界を斬り裂けたということはダリエルくん、キミはこのぼくちんをも斬り裂けるということだ……!」


 なんですかその三段論法みたいな言い草は?


「ぼくちんはねえ、キミのような存在を待ちわびていたんだよ? ねえ? 何年待ったと思う? いや何万年待ったと思う?」

「私めごときの理解が及びもつかぬ程かと」

「こつこつ人類を育て導き、ついに巡ってきた絶好のチャンスなんだけどなー? キミがやる気を出してくれたら、ぼくちんも即刻滅び去れるんだけどなー!?」


 つまりそういうことだった。


 魔王様は、ついに己を倒しうる最高の手駒。つまり俺に興味津々なのであった。


 しかし俺は勇者でもなんでもないから魔王様を討伐しに行くことなんかない。

 ただ故郷で働くばかり。


 それでも期待して待っていたけれども当然ながらやってくるわけがないので、痺れを切らして自分からやってきたというわけか。

 この御方らしいというか。


「ねーねー? ぼくちん倒しに来ないの? 人類の使命だよ?」

「いや、俺には他に仕事が……!」

「いーじゃんさー、別にパーッと言ってパーッと殺してくればいいじゃんしさー? ねえ殺してよー。殺して殺してー?」


 子ども姿の魔王様、俺に縋りついてくる。


 見た目ということのギャップが凄いんだけど。


「ねーいーじゃんー! 殺して殺して殺して! こーろーしーてーよー! こーろーしーてー! やだやだやだやだあああああーーーッ!!」


 ついには地面に寝転んでジタバタし始めた。


 ええいアンタは本当に子どもか!?

 あるいはゼビアンテスか!?


「それでも、俺にアナタを倒すことはできません」

「ずびぇええええええ!! あばばばばばばばばば!!」


 既に駄々っ子モードに入った魔王様がガン泣きで押し切ろうとしている。


 独身者ならそれで何とかなったかもしれんが、俺も今は手強い子どもたちを三人も抱えた父親。

 容易くほだされはしないぞ。


「聞いてください、俺には戦うことのできない理由がある」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「別にパーッと言ってパーッと殺してくれば…」 ここの「言って」は、「行って」←この字になるのでは?
[良い点] 六道輪廻。 ダリエルは結局全てに関係させられそう
[一言] あっ、そういや三人目の子供。あの子はダリエルが『是空』を習得した後にさkゴホンゲフンッ!……授かって生まれてきたじゃん。もしかしたら某漫画の人体改造手術によって他生物の能力を得た改造人間から…
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