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274 ダリエル、地獄の力を得る

 次の瞬間。

 名状しがたき異形が俺を襲った。


「これは……!?」


 子ども姿の魔王様から放たれる……。

 ……なんだこれは?


 肉を半固体化してうねらせたような……。

 とにかくよくわからない気持ちの悪いものが波打って俺に迫る!?


「物体がそれに触れたら即座に溶かされるから気を付けてねー」


 魔王様が気軽に言う。

 気軽になんてもの放ってるの!?


 これは要するに俺……!?

 魔王様から攻撃を受けている!?


「『凄皇裂空』!!」


 とにかく対処しなければどうにもならない。

 仮にも魔王様が放ったものだから、どんなにお遊び感覚でも恐ろしいもので……。

 俺自身、真っ先に奥義で立ち向かった。

 しかし……!


「効かない!?」


 あらゆるものを斬り裂き砕く『凄皇裂空』のオーラ斬刃が、肉波に飲み込まれて消えてしまった!?

 相手に何ら変わった様子もない。


「その子にオーラは効かないよ。そういう風に設定しておいたからね」


 という魔王様。


「さて、オーラを封じられてどう抵抗するのかな?」


 無茶を言う。

 人間族でオーラを使えなかったら何もできないと同じじゃないか。


 全知全能だとは知っていたが、ここまで無茶苦茶なことができるとは。

 そもそも人間族にオーラを与えたのはあの方なんだから、ごく普通なのかもしれないけれど。


 これではこのまま俺には、なすすべなくあの肉波に飲み込まれるしかない!?


「『阿鼻叫喚……!」


 進退窮まった俺の口から紡がれるのは……。

 ある呪文だった。


「……焦熱無間炎獄』!!」


 俺の手から放たれる黒炎。


 呪いの炎に包まれた肉波は、さっきオーラを当てられた時とは打って変わって苦しみ……。

 全身に燃え移る黒炎を消すこともできず地面をのたうち回る。

 それでも炎は、魔法による呪いの炎なので鎮火することもなければ目標以外に燃え移ることもない。


 熱のせいか肉塊はみるみる縮んでいき、小さな粒となって、最後には炎と共に跡形もなく消えた。


「ブラーヴォ! ハラショー! 凄いね凄いねダリエルくん!」


 魔王様が手をパチパチ打ち鳴らす。


「本当に見事な魔法だよ! キミはやっぱり魔法もマスターしていたんだね! かっくいー!!」

「…………」


 大はしゃぎの魔王様に対し、俺は複雑な気持ちで黒炎の残り火を見下ろした。

 それもすぐに消えたけど。


 ……そう、俺は魔法が使える。

 今の俺は。


 かつて俺は魔法が使えないという理由で魔王軍内で見下され、ついには解雇までされてしまった。

 その俺が今になって魔法を使えるようになったとは……。

 ……皮肉を感じる他ない。


「アナタは気づいていたんですね。俺の中で起こった変化を」

「魔王は何でも知っているのだー」


 砕けた口調で話す魔王様。


 しかし、これは恐るべき出来事だ。

 本来人間族が魔法を使えない。

 だからこそ俺は、自分の出自に気づくこともなかった前半生、ひたすら頑張って魔法を修得しようとしたけど結局叶わなかった。

 世の中頑張ってもどうしようもないこともあるって、知った時。


 しかし今、我が半生をかけて得た教訓は虚しく消え去った。


 一体俺の中で何が起こったというのか。


「それでも今なら、そこまで疑問には思いません。魔族も人間族も同じ人。そのことはもう知ってますから」


 元は同じ種族であったのを、魔王様があえて二つに分けた。

 そしてそれぞれにオーラと魔法という違う才能を与えた。


 それ以外には違いなどまったくない両種族だ。


「そうだね、ぼくちんは魔族と人間族それぞれに魔力とオーラを発現する因子を組み込んだ。血脈の中に宿る因子が反応してオーラや魔力を噴出させるんだ。因子がなければどちらも出てこない」


 俺に魔法が使えなかったのは、人間族である俺に魔力因子がなかったから。


「では何故今になって……?」

「それはダリエルくん、キミはもう答えを知っているはずだよ。キミは先天的に魔力因子を持たなかった。オーラ因子を持つ代わりにね」


 そう、生まれながらに持っていないものは、生まれてから新たに取り入れるしかない。

 後天的に。


 俺が後天的に魔力因子を得たきっかけ。

 たしかに俺は心当たりがあった。


「バシュバーザですか?」

「その通り、ドリスメギアンくんに連れられて地獄から蘇ってきた彼だよ」


 グランバーザ様の息子であり、俺にとっても因縁ある相手であったバシュバーザ。


 一度は死して二度と会うこともないと思ったが、インフェルノという常識を捻じ曲げる異形によって再会が叶った。

 別に望んだ再会ではなかったが……。


 亡者としても滅びを与えられたバシュバーザは、今度こそ甦ることなく完璧な形での終わりを迎えた。

 俺の腕の中で。


「その時にバシュバーザくんの魔力因子がキミに移ったんだね。そのおかげでキミは魔法が使えるようになった」

「そんなことが起こりえるんですか?」

「起こらないよ。普通なら絶対にね。しかしあの状態のバシュバーザくんは普通じゃなかった。ドリスメギアンくんと一体化した彼は、インフェルノと化していたんだよ」

「インフェルノ……」


 それはあの地獄の怪物が、地上で活動するために使った通り名のようなものではないのか?


「ぼくちんは便宜上、地獄でドリスメギアンくんの改造を受けた人たち全部そう呼んでいるのさ。彼は本当にいい子でね。ぼくちんの願いを叶えてくれようと本当に一生懸命だった」


 そのために地獄に堕ちてきた多くの亡者たちを実験台にして研究を続けた。


「バシュバーザくんだけじゃない。セルニーヤくん、ジークフリーゲルくん、アボスくん、トルトリトゥくん。すべてドリスメギアンくんが腕によりをかけた実験作だったのさ」

「実験作? 何のための……?」

「もちろんぼくちんを倒すため。その力を作り出すためにさ。さっきも見たように、ぼくちんにはオーラの力は通じない。当然だよね。元々ぼくちんが与えた力なんだから。そしてそれは魔力だって同様だ」


 創造主から与えられた力で創造主を殺せない。


 言葉にしてみれば当然のように思えるが、それはあまりに絶望的な事実だ。

 今の人類に魔法・オーラ以外の戦う力がありえるだろうか。


「ぼくちんを倒すには、魔王でもオーラでもないまったく新しい力を手に入れることが最低限必要なのさ。そしてドリスメギアンくんはそれに挑戦した。そのための地獄であり、そのための亡者たちであり、そのためのインフェルノだった」


 魔法でも。

 オーラでもない。

 まったく新しい力……。


「オーラと魔法の融合ですね?」

「それが一番最初に出てきやすい発想ではあるよね。元からあるもの二つを組み合わせて、まったく新しいものを作り出す。彼は魔力とオーラでそれを行おうとした」


 そのため地獄に堕ちてきた多くの亡者を実験台に、オーラと魔力の研究を続けてきた。


「やがて彼はオーラ因子と魔力因子を特定し、加工できるまでに至った。融合処置を受けたオーラ因子は、本来オーラを発現できない魔族にも宿るようになり、その逆も同じだった」


 本来魔力を使えない人間族にも宿る魔力因子……。


「オーラと魔力が融合した第三の生命エネルギーは、前二つをただ合わせるよりも遥かに凄まじい。ドリスメギアンくんは、その力でもってぼくちんを殺してくれようとしてたんだね」


 ドリスメギアン自身は既に卓越した魔導士であり、だから必要としているのはそれに匹敵するオーラの力だった。


「それが合わさって初めてヤツは魔王様に対抗できる脅威になれた」

「最初彼は、地獄でもっとも大きなオーラを抱えるジークフリーゲルくんを融合相手に選び、そのスペアとしてアボスくんを用意した。しかしいざ現世に出てみると、もっと強力で魅力的な素材を見つけた」

「それが俺というわけですか……?」


 だからドリスメギアンは執拗に俺を狙い続けたというのか。

 魔王様を倒す、究極の力の必要素材として。


「インフェルノとは、ドリスメギアンくんの改造を受けて融合因子を得た亡者ともいえるんだよ。ドリスメギアンくんは律義にも拾って一時的な手駒としただけのバシュバーザくんにも同じ処置を施した」


 それが図らずも、この俺に融合した。

 俺が魔法を使えるようになったのは、俺の中に残ったバシュバーザの最後の一欠けらによるもの。


「……だから俺にアナタが倒せると言うんですか?」


 やっと話が戻ってきた。

 救いがたき亡者ドリスメギアンの断末魔が甦った。


 ――『ご覧くださいオージン様! この素晴らしい極致を! これこそ人類進化の極みにございます!』

 ――『このダリエルが! バシュバーザの魔力因子を取り込み、オーラと魔力の融合霊気を生み出すに至ったダリエルが! 必ずやアナタ様を絶命至らしめるでしょう! その功績は我が物にございます!』


「キミは、ドリスメギアンくんの計算から外れて生み出された、ドリスメギアンくんの最高傑作だよ。彼はまさにキミのような存在をもってぼくちんを倒そうとした」

「だから俺に、アナタを倒す義務があるとでも?」


 冗談じゃない。

 何故あんなヤツの望みを継承しなければいけないのか。

 想いを託されるにしても、こっちに選り好みする権利はある。あんな地獄人間のあとを継ぐなどゴメンだ。


「そうだね、それだけじゃまだぼくちんを倒すことはできないよね」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ぼくちんを倒すには、『魔王』でもオーラでもないまったく新しい力を手に入れることが最低限必要なのさ。そしてドリスメギアンくんはそれに挑戦した。そのための地獄であり、そのための亡者たちであ…
[良い点] ダリエル、早く家族を逃しなさい
[一言] 魔法因子を取り込んだダリエルの子供っていうと、3人目のことかな?
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