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272 息子グラン、友だちができる

 勇者選抜戦も無事(?)終了。

 何事もなくラクス村へ帰ってきた俺であった。


「んー、やっぱり実家が一番落ち着くなー」


 今やラクス村こそが俺の故郷であり、骨を埋めるべき本拠であった。


 そして実際にラクス村に生まれ育った我が息子グランが、今日も元気いっぱい夢いっぱい。


「グランは今日何して遊ぶの?」

「友だちとチャンバラごっこするんだー!!」


 朝食の席、母親マリーカから聞かれて答える息子。


「ほう、グランも友だちができたのか……?」

「うん!!」


 それはめでたい……!


 あのグランが、生まれた時は小さく言葉も喋れなかったグランが、自分一人で友だちを作れるようになったんなんて……!


「今日は祝いだ! マリーカ! ケーキを焼いてくれ!!」

「これぐらいでお祝いしてたら毎日がパーティになりますよー?」


 妻からやんわり窘められた。


 脇でグランとセリーカが『『ケーキ!?』』と叫んで目を輝かせた。

 いかん軽はずみなこと言ったか?


 マリーカからの無言視線が痛い。


「まあ材料費を出してくれるならケーキ作りも吝かじゃないけど……」

「いちご! いちご! いちご!」

「マロン! マロン! マロン!」


 子どもたちが欲望に駆られていた。


 そこへ……。


「グランくーん! あーそーぼッ!!」


 家の外から響き渡る声。


 子どもの声だな?

 しかも元気いっぱいだ?


 その声に真っ先に反応したのは息子グランだった。


「やべ、もう来た。……はーあーい! ちょっと待ってー!!」


 返答するように大声を張り上げると、残り少なになった朝食を大急ぎで掻きこむ。

 一粒でも残せば母のお盆が脳天直撃することを知っているからだ。


 マリーカも教育熱心ないいお母さんになった……!


「……ぶはぁ! 完食! ごちそうさま! じゃあいってきまーす!」

「モンスターに気を付けるのよー」


 駆け出していく我が息子。

 やっぱりウチの子はああいう能天気な元気さでいいな。

 勇者なんて役柄は似合わない。


「……あんなに急いで。よっぽど友だちと遊ぶのが楽しいのね」

「友だちか……、どこの子だろう?」


 ラクス村も豊かになるにつれて人口の流入顕著になり、村長である俺ですら把握しきれなくなってきた。


 移住者も子連れでやってくることもあるし、移り住んでから生まれた子もいるだろう。

 過疎中は高齢化著しかったラクス村も今では随分若さが濃くなってきている。


「しかし息子がどんな友だちを作ったのかは気になるところ……!?」

「あまりかまいすぎるとウザがられますよ……?」

「うぐおッ!?」


 マリーカの何気ない注意に胸を抉られる俺。


 ……そうだな、子どもから煙たがられるウザい父親になるのは嫌だから、人知れず気配を消して、遠くから様子を窺うとしよう。


 そうと決まれば早速尾行だ!


「アナタ、仕事は?」


 村長の仕事は多少融通が利くから無問題。

 有能秘書のドロイエもいることだからなおさら大丈夫だろう。


 そういうことで行くぜ! いざ、我が息子の友だちを見届けに!


「アタシは、お母しゃまの洗い物のお手伝いします!」

「セリーカちゃんは偉いわねー」


 女はよく働き、男は遊んでばかりだというイメージを培わないで!



 そして外。

 家の前では息子グランの他にもう一人、見慣れぬ顔立ちの子どもが立っていた。


「ハルくん! おっはー!!」

「おはー」


 ウチのグランが『ハルくん』と呼んでいるのが、新しくできた友だちか?


 端正な顔つきで、おとなしそうな見た目だった。

 着ているものはごく普通。そうでなければどこぞの王子様と言われそうな輝かしさ。

 金髪なので益々高貴で輝かしい印象だった。


 ……。

 村の子どもというにはちょっと豪華っぽくない?


「ヘイ!」

「ヘイ!」

「「ヘイヘイヘイッ!!」」

「ちょいやさー!」

「ちょいやさー!」

「「ウェーーイッ!!」」


 謎の掛け声とともに互いの手を叩き合う息子と友だち。


 なんだあの動きは?

 仲よしの間だけで通じるノリ?


 とにかく一連のムーブで絆をたしかめ合ったらし子どもたちは、最後に不敵な笑みを浮かべつつ満足げにハイタッチした。


 友情の儀式。


「今日も俺たちの友情パワーは世界を駆け巡るぜー!!」

「信じあう仲間がいれば傷つくことも怖くないんだねー!!」


 朝っぱらからテンション高い二人だなあ?


 ウチのグランはともかく、アイツのテンションについていける子どもが他にいたとは。

 しかも同じ村に。


「今日は何して遊ぶー?」

「じゃあ、今日もチャンバラごっこして遊ぼうよ!!」


 友だちの少年は、わかりやすい木の棒をかざしながら言う。

 棒自体は何の変哲もなく、道端に転がっていそう。

 しかし枝ぶりもよく子どもの手に渡れば『勇者の剣』と名付けられそうなこと請け合い。


 グランの方も、愛用の木刀をもって準備万端だ。


「いくよー!」

「おっけー!」


 …………。

 ん?


 いやいや、ちょっと待って?

 これヤバくないか?


 息子自慢で恐縮だがウチのグランはアホみたいに強いぞ。

 ついこないだだって勇者選抜戦に参加して大の大人……しかも勇者を目指す猛者たちを片っ端から蹴散らしていったんだ。


 その実力はもう既にA級冒険者クラスと言ってよかろう。


 そんなグランが遊びと言えど、同年代の子どもと打ち合いなんてしていいのか!?


 下手すれば怪我……、命すらも危うい。

 相手の親御さんに土下座することに。


「ちょちょちょちょ、ちょっと待っ……!?」


 もはや隠れて見守るどころじゃなく、飛び出して止めようとした。

 しかしその前に……。


「えいやっとー」

「じゃおー!」


 ぶつかり合う木剣と木剣。

 その激突から凄まじい衝撃波が広がる。


「うおおおおおおおおおおッッ!?」


 物陰に隠れる俺のところにまで波及し、激走する空気が俺の顔面を叩く!?


「はいっ、へいっ、ほぇあー」

「たくらまかんー」


 二人は子どもらしい緩やかな掛け声ながらも、運剣は鋭い。


 その剣撃は地を割り、天を裂くかのようだ。

 双方の剣がぶつかり合うほどに新たな衝撃波が生まれ、周囲の木々が騒めいて小鳥が驚き逃げていく。


「はいぼーるー」

「しょーごろー」


 また気の抜けた掛け声で、グランとその友だちは木剣を振るう。


 グランめ、相手の頭を打つと見せかけて足を狙ってきやがった。

 あんな大胆なフェイントをいつの間に覚えたのか?


 しかし相手の子もしっかり対応、身を引いてかわすと、今度は動作終了で隙の生じたグランに攻撃!


「わっちゃ!?」


 身を捻ってかわすグラン!?

 その動作にオーラを混ぜることで周囲に旋風が巻き起こる。


 あのオーラ流で相手を吹き飛ばす気か!?

 だが……!?


「ふんむぅー」


 相手の子どももオーラを発し、オーラ流を引き裂いた!?


 なんだあの攻防!?


 プロの冒険者でもあんな息詰まる打ち合いはしないぞ!?

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― 新着の感想 ―
[一言] もしこの友達が男の子じゃなくて女の子だったらある種のロワマス的な展開が期待出来るなぁ。もしそうでなかったとしても幼子でこの実力なら最恐のコンビになる事間違いなし!!
[気になる点] どちら様で? 「闘神」として人族側で「新しい遊び」を始めたという事でしょうか? 魔王を倒せる力を持つ勇者を自ら育成する事にしたのでしょうか?
[良い点] 一人称がボクちんなら決定なわけですが
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