26 フィットビタン、滅茶苦茶言う
アタノール炉。
それは魔族が使う魔法の道具。
本来人間族が所持しているだけでもおかしいシロモノだ。
「こんなの、人間族のアナタがどうやって……!?」
「もちろんまともな方法ではない。闇市場に出回っているものを偶然見つけての。大枚はたいて買い上げたわ」
魔導具が出回ってるとか人間族の闇市凄いな。
どんなルートがあるんだ?
「この炉があれば、金属を思い通りの比率で混ぜ合わせて合金を作り出せるという。ワシが思い描く最高傑作には、ミスリルをメインにした合金が必要なんじゃ!」
「マジで何作る気なんですか……!?」
爆弾とかじゃないですよね?
「でもこれ、使うには問題があるんじゃないですか?」
「ん……!?」
元魔王軍の俺にはわかるぞ。
この魔導具アタノール炉を使うには魔力を通さないといけない。
そうしなければ稼働しないのだ。
魔導具だからな。
「魔力は魔族しか発することができない。人間のアナタにはどうにもならないんじゃないですか」
「よくわかっとるじゃないか」
スミスじいさん重い溜息を吐く。
「代わりにオーラで動かないかと、何人か冒険者に頼んでみたがの。ダメじゃったわ」
「でしょうよ」
そうでなければ魔王軍時代、俺があんなに苦労した意味がなくなってしまう。
「じゃあこれ、ただの無用の長物じゃないんですか?」
「それはそうじゃが! やっとミスリルの問題は解決したんじゃ! この勢いで、こっちの問題もパーッと解決するかなあって! パーッと!!」
無茶言うなあ。
そんな漠然とした望みだけでアタノール炉をここまで運んできたというの?
炉は本来家に備え付けるシロモノで凄く大きい。
従って重い。
ここまで移動させるのにも、馬車に積んで運ばせてきたそうで、お弟子さんたちの苦労がしのばれた。
「とにかく、アタノール炉さえ動かせればもう問題はない。あとはワシの腕次第じゃ……。それはもう成功を約束されたようなものじゃ!」
「普通に作ればいいじゃないですか……!」
しかしスミスじいさんは意地でも妥協しない。
炉を使わなければ、ここまで苦労して運んで来たお弟子さんたちの働きも無駄になる。
「仕方ないなあ……!」
俺は溜息を吐きつつ、あるものを取り出した。
それは魔法通信機という魔導具だ。
こないだ、魔王軍同期のリゼートに会った時に貰った。
魔法通信機は、その名の通り魔法で遠く離れた場所に通信するための道具。
二つ一組で、決まったもう一方の機器としか通信できないが、あらかじめ魔力を込めておけば魔法の使えない者でも使用可能という優れもの。
主に恩恵を受けるのが俺のような落ちこぼれなわけだが……。
言うまでもなくつがいのもう一方を持っているのはリゼートだ。
とぅるるるるる、とぅるるるるる。
きっかりツーコールで出るアイツ。
「……ああリゼートくん? 俺だよオレオレ。そう俺。キミのソウルメイトのダリエルだよ」
◆
そしてリゼート来た。
「いや……! たしかに通信機渡したけど、こんな気軽に呼びつけるために渡したんじゃないんだが」
「いいじゃん別に。大して忙しいわけじゃないんだろ?」
「忙しいよ! 人間族とのミスリル買い取り交渉、全面的に私に任されたんだから超忙しいよ!!」
「そんなことこそ四天王に丸投げすればいいのに」
「あんな坊ちゃんどもに交渉事が務まるかよ。それより私、今回の功が認められて特務官に就任するかもしれない」
「えッ? マジで?」
ともかく呼びつけたからには用事をまっとうしてもらいたいので、アタノール炉を見せる。
「なんで人間族がこんなの持ってんだよ!?」
「俺も思った」
「もしやこれを稼働させるために私を呼んだの? やめろよ、私の得意は水魔法だって友だちのお前もよく知ってるだろ? 錬金術なんてまんま土魔法の領域じゃん!」
「頼めるのがお前しかいないんだから仕方ない。大丈夫、やればなんとかできるって」
無茶振りは友だち同士の特権。
リゼートはブーブー言いながらもアタノール炉に魔力を通し、スミスじいさんの指定したレシピ通りに金属を調合していく。
ミスリル。
液状銀。
チタン。
アルミニウム。
そして隠し味に薬草を数種。
「こんなんでどんな合金ができるんだ?」
◆
で。
出来た。
合金が。
完成品をもって行ったところ、スミスじいさんは出来栄えに大満足。
「これじゃあああッ! これこそワシが長年追い求めてきた夢の金属!」
「本当にこれでいいんだ?」
正直俺は失敗したんじゃないかと思った。
完成した合金を見て。
正直、こんな金属でどんな武器が出来上がるのか想像できなかったから。
そう思うくらい奇妙な金属だったのだ。
天才の思考はわからん。
「ではここからは鍛冶師の腕の見せどころじゃ! 楽しみに待っておれ!」
スミスじいさんは嬉々として部屋にこもってしまった。
完成したばかりの魔法合金と共に。
俺はとりあえず来てくれたリゼートに礼を言って追い返し……。
あとはすることがなくなった。
スミスじいさんの仕事が終わるまでのんびり待つのも退屈だし、冒険者の仕事でもして村に貢献するかな? と思った途端である。
次のトラブルが舞い込んできた。
いや、以前からのトラブルの継続というべきか。
冒険者フィットビタンが訪ねてきたのだ。
◆
「キミは地元を愛しているか?」
「は?」
「愛しているなら我々に協力すべきだ」
訪ねてくるなり言ってくるので俺にはわけわからない。
地元というとラクス村のことか?
俺はここに住み始めて一年と経っていない新参者だが、それでもこの村のことを想っているつもりだが?
「ミスリル鉱山は、計り知れない富をもたらす。その富は、鉱山を取り巻く土地の者が享受すべきだ」
「…………」
「しかしそれを横取りしようと画策する輩がいる。センターギルドだ」
フィットビタンの主張をまとめるとこんな感じだった。
センターギルドは、ハイエナのような存在であり、地域が享受すべき利益を食いとって、酷い時には独り占めにしてしまう。
それではいけない。
地域の利益は地域が守っていくべきであり、中央の思い通りになってはならない。
そうしてこそ地域の独立不羈が保たれるのであると。
「本来なら鉱山にもっとも近いキミたちラクス村が、矢面に立ってセンターギルドの容喙を断固はねつけるべきだ。しかし、キミたちにそんな力はない。失礼な物言いながら、辺鄙な田舎に過ぎないラクス村が中央政権と戦えるとはとても思えない」
「だから?」
「だからこそキミらに代わる代表としてキャンベル街が立つ。ここら一帯の地域で、キャンベル街こそがもっとも大きな力を持つ」
と。
「当事者であるキミたちが承認すれば、我々も交渉のテーブルについてセンターギルドとやりあうことができる。地元の活性のために必要不可欠な提携だ。賢明な選択だとは思わないかね!?」
と言ってフィットビタンは俺に迫る。
媚びるように、それでいてバカにするように。
「共に手を取り合って、センターギルドに立ち向かおう! 同じ地元を愛する者として!!」
「屁理屈にしても、もっと綺麗に整わないものか?」
俺の指摘に、ベラベラ喋くるフィットビタンが一気に押し黙った。
あるいは彼自身、屁理屈だと言うことを自覚しているのかもしれない。
「センターギルドをハイエナ呼ばわりするにしても、アンタらだって同じだろう? ミスリル鉱山の生み出す莫大な利益にキャンベル街も絡みたいだけだ」
「そ、それは……!?」
より大きなセンターギルドに正面から挑めないんで、ずっと見下してきたラクス村を引き入れる。
自分で自分を卑劣だと思わないのだろうか。
まして即座に見破られる粗末な理屈を弄して。
恥ずかしくはないのだろうか?
「どうせハイエナに食いとられるなら強い方のハイエナを選ぶよ。ましてそっちは義理を弁えているようだし」
信頼する相手としてもキャンベル街よりセンターギルドの方がマシ。
俺の判断はそう下されていた。
「アンタもギルド幹部さんが戻る前に撤収すべきだろうな。鍛冶場を占拠しているのを見られたら、それこそセンターギルドと全面対決になるぞ」
言うことは終わったと席を立とうとした俺だが……。
「勝負だ……!」
しかしフィットビタンは諦めなかった。
なおも見苦しく縋りつく。
「こうなったら勝負だ。キミと私の勝負。私が勝てばラクス村はミスリル鉱山に関するすべての権利をキャンベル街に譲渡する! それでどうだ!?」
どうだ!? じゃねーよ。






