266 ダリエルの子どもたち、健やかなる
平和が戻った。
一度は勇者として抜擢された我が息子グランであったが、今も変わらずフツーの子どもとして山野を駆け巡っている。
遊ぶために。
どうも俺は実感が伴っていなかったのだが、子どもが遊びで向こうの山の頂上まで登って、夕飯までに帰ってくるって普通にありえないらしい。
勇者選抜会であの子が見せた無類の強さに理由が付いた。
しかもウチのグランは村の皆から可愛がられているから、色んな強豪から技を教えられて、すべて完璧に修得しているようなんだ。
あとでガシタ、セッシャさん、ゼスターなどを締め上げるとやっぱりアイツら隠れてグランに必殺技を伝授してたらしく……。
「だって坊ちゃんどんな技でもすぐ覚えるから教えるの楽しいんすよ! すみませんっす!」
……とか言われた。
これちょっと息子がどこまで成長したか自分でも確認しておく必要があるなあ、と思って……。
◆
「今日はちょっとマジめの手合わせを行います」
「やった! 父ちゃんが遊んでくれる!!」
遊びじゃねえよ。
これまでグランに付き合ってチャンバラごっこしたことは何度もあったが、それだけにまったく遊びの範囲内であった。
オーラは使わず、木刀でやっとうと打ち合うだけ。
しかし今回はオーラを解禁し、俺も久々にヘルメス刀を使って本気モードだ。
……まあ、さすがに愛する息子を怪我させる気は毛頭ないが。
常に寸止めを心掛けるつもりだ。
「父ちゃん行くぞ! くけえええええッ!!」
怪鳥のごとき唸り声をあげて襲ってくる我が息子。
持ってる得物は鍛冶場からテキトーに抜き取ってきたミスリル製の剣だった。
俺同様、オーラへの全適性を持つ息子だから、本当はそれに見合った武器があればいいんだが。
――『今こそ師匠に並ぶ第二のヘルメス刀をこの手で!』とサカイくんが張り切っていた。
それはともかく容赦なく振り下ろされる息子グランの刃。
しっかりスラッシュ(斬)オーラが込められていて、腰もしっかり入っているから一刀両断する気満々だ。
もう少し父を斬ることに恐れを抱いてくれまいか?
「しかし甘い」
俺はヘルメス刀を剣形態にして弾き返す。
いくら才能に恵まれていると言っても、グランのオーラ総量は俺に比べればまだまだ小さい。
そのまま大人と子どもの戦いであった。
「そんなグランでも、勇者選抜会では他の候補を圧倒したわけだが……」
「さすが父ちゃんだ! なら俺も本気で行くぜ! 『せーおう裂空』!!」
息子が躊躇なく巨大オーラ斬撃を放ってくる。
もう少し遊び感覚でやってくれまいか? でも実際遊び感覚で『凄皇裂空』を撃ってきてるとしたら息子の意識を改める必要がありそうだが。
「俺も『凄皇裂空』」
おじいちゃんが編み出した必殺技を、その子と孫がぶつけ合う。
加減して撃つので上手い具合に相殺された。
すぐまた撃ち放つため『凄皇裂空』が次々中空でぶつかり合い、凄まじい衝撃が散る。
こないだおじいちゃんのアランツィルさんとやったのと同じようそうになった。
「おじいちゃんは一五六発目でギブアップしたけど、父ちゃんはどうかなー!?」
「ふははははははは……!」
とうに体力のピークを過ぎ去ったアランツィルさんに、働き盛りの俺が持久力で負けるわけにはいかんな。
最低でもダブルスコアは叩き出さねば……!
しかし親子による『凄皇裂空』のぶつかり合いはあえなく終了となる。
手合わせを打ち切る強制力が入ったからだ。
「こらッ! バカお兄!」
「あいったーッ!?」
頭に叩きつけられる衝撃に、目から火花を放つグラン。
まあフライパンで頭叩かれたらそうなるか。
「庭先で煩いのよ! アランちゃんが泣くでしょうが!」
「すみません!」
グランを叩いたのは、その妹のセリーカだった。
今年で五歳。
長男グランに続けて生まれた子で、たしか最初にセンターギルドへ行った時妊娠していることが発覚した。
インフェルノにまつわる騒動が終息した直後に生まれ、タイミング的にバタバタしていたのを覚えている。
そんな長女もすくすく育ち、今では奔放な兄にツッコミを入れられるほどにまで育った。
父としては感無量だ。
「しかしな……、フライパンで殴るのはやりすぎでは……!?」
セリーカが持っているのは、本物のフライパンではなくフライパンを模したオモチャだった。
本物よりもずっと小ぶりでおままごと用に使うのだろうか。
ただあの表面の輝き、どう見てもミスリルだった。
下手すりゃ本物より打撃力が高い。
「お父しゃま! 今アランちゃんがお昼寝中なのです! 騒ぐなら他のところでやってください!」
「すみません……ッ!!」
アランというのは昨年生まれた三人目の息子で、まだ絶賛赤ん坊だ。
自分で歩くこともできないし、マリーカのおっぱいしか飲まない。
名前は無論実の祖父アランツィルさんから頂いた。
長男の名はグランバーザ様から頂いたので、やっと孫に自分の名が使われて泣いて喜ぶアランツィルさんを覚えている。
そんな次男アランくんだが、まだ赤ん坊の段階でも兄姉より大人しい印象がある。
グランは赤ん坊のころから女性のおっぱいを揉みまくっていたしやんちゃな印象が色濃いが、同じころのアランは非常に普通。
夜泣き一つしないし、兄や姉と比べて手がかからない子だ。
そんな子が大人しく昼寝しているというのだから、お姉ちゃんとしては幼い弟の平穏を守ろうという義務感に燃えても仕方ない。
「へーん、セリーカめいい子ちゃんぶってさー。……いでッ!?」
文句を言う兄への返答はさらなるフライパンの一撃だった。
問答無用。
「あの……、セリーカよもう少し平和的に進めないか……? いくら何でも言葉を抜きにいきなり実力に訴えるのは……!?」
「いいえ、そうするように、お母しゃまから指導を受けたのです!!」
えぇ……!?
マリーカ、娘にどんな教育を施しているの……!?
「お母しゃま言いました! 長男なんてロクなもんじゃねーから、言葉なんて通じないって! 叩いて躾けるのみだって! お祖母しゃまも言ってました!!」
……。
たしかにマリーカの実兄はロクでもないヤツでしたけどもよ。
そして最近知ったが、マリーカの母親でいらっしゃられるエリーカさんもロクでもない長兄をお持ちであられた。
その負の連鎖を断ち切るためにも、すぐ下の妹であるセリーカに望みを懸けたというのか……!?
「大丈夫だよ、ウチのグランは、あんなダメな大人に育ったりしないよ。……な?」
「…………」
即答しろ息子よ。
「だからアタシが、お兄しゃまをアホな子にしないように見張るのです! これもおしゃまから言い渡された大事な使命なのですー!!」
我が娘セリーカはフライパンをギャンギャン振り回しながら言うのだった。
恐ろしい。
我が家では、こんな個性的な子どもたち三人に加え、もうすぐ四人目も生まれてくる。
来年には益々賑やかな家庭になることだろう。
「……あ、そうだ」
一通り実兄をボコボコにしたあと、セリーカが思い出したように言った。
「そろそろアルタミルおばしゃまのところに行ってきますの。坊やのお昼寝が終わるころですのー!」
と言って駆け出して行った。
どういうこと?
アルタミルってガシタのカミさんの?
つい最近初産を済ませたばかりの?
元気で立派な男の子だったそうだが、そんな子の下に言ってどうする気だセリーカ?
「まさか……!?」
言うてあのマリーカの娘である。
もう既に将来の優良株を見つけ出して、獲得のために動いているということなのか?
まだ五歳なのに。
しかしマリーカの娘であることを考えれば……!?






