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259 勇者選抜戦、開催される

 そんなわけで来てみました。


 センターギルドへ。


「わぁ~でっけえ! センターギルドでっけえ!!」

「グランは前に一度来たことがあるんだぞー?」


 あの頃は物心ついてなかったから、覚えていないのも致し方ない。


 勇者選抜戦は、当然のことながらセンターギルドで行われる。

 なので我が息子グランもセンターギルドへ来ることになった。


 まあ、小さい時の思い出作りと思えば充分許容範囲だろう。

 マリーカは四人目をお腹に抱えているし、他の子たちの世話もある、ということで村に残った。


 俺とグラン、父子二人でのお出かけだ。


 今俺たちの立っているセンターギルド本部正門前にも、何やら厳つい佇まいの連中が何人も屯していた。


 皆が川を遡るサケのごとくセンターギルドへ入っていくのを見ると、勇者選抜会への参加者なのだろう。


 勇者後方に選ばれるなら最低でもA級冒険者でなくてはならない。


 そんな中に六歳の我が子が交じって戦う。

 心配どころの話じゃないな……!?


「グランくんよ、やっぱり帰らない? センターギルド見物していい思い出になったでしょう?」

「えー? まだ入り口だよ! ちゃんと大会に出て勇者にならないと帰れないよ!!」


 旺盛な息子だなあ。

 若く希望に溢れたグランは、勇者になるという夢いっぱいに溢れていた。


「ほう、お前も選抜戦に出場するのか?」


『ぬうっ』とかかる影。

 何かと思えば、俺たちの背後に見上げるような巨漢が立っていた。


「子ども同伴で出場とは気楽なもんだなあ? 勇者を舐めてるんじゃねえか?」

「いや、出場するのは俺ではなく……!?」


 息子の方なんだけど?

 まあ、六歳児よりは子連れのオッサンが勇者に挑戦しようという方がまだ常識的か。


「見たところ冒険者として盛りを過ぎた四十のオッサンが、子どもにいいとこ見せに来たのか? やめときな。逆に子どもの前で恥をかぜ?」


 勘違いしたまま絡んでくる巨漢。

 あともう一つ勘違い。俺はまだギリギリ三十代であってまだ四十じゃないぞ。


「新たに勇者になるのはこのオレだ。この最強冒険者アービニ様が勇者となり、今度こそ人間族の悲願、魔王を倒す!! お前みてえなオッサンじゃ邪魔にもならねえ、ただひたすら時間の無駄だ。さっさと田舎に帰んな」

「父ちゃん……」


 我が息グラン、子どもならではの純真さで言う。


「このオジサン、なんで弱いのに偉そうなの?」

「なにいッ!?」


 覿面に反応する大男。


 ウチの子は、子どもなだけに思ったことを口の中に留めない。


「このガキ! 今なんつった!? このオレを、未来の勇者アービニ様を弱いだとおおおッ!?」


 グランは今のとこ才能だけは激烈にあるからな。

 ガシタやらおじいちゃんたちやら、強豪に囲まれて育ったのも手伝って、もう一目見ただけで相手の力量を推し量ることができる。


 実のところ、俺の見立ても息子とほぼ同じだ。


「クソ生意気なガキめ! 子どもだからって言っていいことと悪いことがあるぜ! 痛い目にあいたいか!!」


 そして大男は大人げない。


 グランへ向けてぬっと手を伸ばしてくるので阻んだ。さすがに父親として動かぬわけにはいかない。


「邪魔だどきやがれ! そのクソガキに躾をしてやるんだよ!」

「そう怒らないでくれよ。子どもの言ったことだ軽く聞き流してはくれまいか?」

「いいや聞き逃すわけにはいかねえ! オレはこれから勇者になり、魔王を倒すんだ! そんなオレが弱いなどと、言いがかりにしても許せねえ!」


 狭量なお兄さんだな。


 たしかに思ったことをすぐさま口にするウチの子にも困ったものだ。

 言って角が立つことは黙っているべきだと追々教えていかなければな。


「本当のことでも言ったらダメなのだと」

「おいテメエ!」


 大男さんが益々お怒りに。


「本当のこととはどういうことだ? オレが弱いってことか? 親子ともども舐めやがって……!」


 大男、武器を抜いた。

 肉厚の戦斧だった。


「大事な勇者選抜会の前だが、ここまで侮辱されて引き下がるわけにはいかねえ! ケンカを売るなら買ってやらあ! 親子まとめて死ねええええッ!!」


 振り下ろされる斧。

 それにはスラッシュ(斬)とヒット(打)のオーラが3:2程度の割合で混ぜてあったが、総量的には少しも脅威ではなかった。


 意味づけされていないオーラを体にまとわせ、既にて充分斧を防ぐことができた。


「何ぃッ!?」


 驚く大男。


「オレの渾身の一撃を!? 岩をも砕く斧を素手で防いだ!?」

「素手というのは認識違いだ。この場合意味があるのは圧倒的にオーラの質と量だ」


 冒険者同士の戦いは、オーラで決まるからな。

 斬突打守、四形質のオーラをどれだけ適切に運用するか。

 そしてオーラの量。


 それが勝敗を決める第一要因となる。


「この場合、俺とキミのオーラ量が違いすぎるんだ。武器と素手の違いぐらい何も問題にならないレベルでな」


 一見してもわかっていたが、大男くんのオーラ総量は俺より遥かに下だし、ガシタやゼスターよりも下。

 義弟のリューベケでも彼に勝てるんじゃないかな。


 B級冒険者よりも劣るA級冒険者なんて。

 試験で何か不正でもしたんじゃなかろうか。


「そんな……、オレのオーラ力が、こんなオッサンよりも下……!?」


 ワナワナと震えながらあとずさる。

 素直なのは助かるが、この程度の指摘で愕然としてしまうほどの精神力では、やっぱり勇者になるのは難しいんでは。


「……いや! この程度で圧倒されてたまるか! オレは必ず勇者になるんだ! あのアランツィル様のような!!」


 しかし潔くない。

 よせばいいのにみずからを奮い立たせて再び俺に挑もうとする。


 テキトーに平謝りしてかわしてもよかったが、何しろ目の前には息子がいる。

 息子の前で無様な姿は見せられないから仕方ない。


 ボッコボコにしてやるぞ。


「やめときな」


 しかし止められた。

 大男が背後から、別の誰かに掴まれる。


 それだけで大男の四肢は、一瞬にして凍結したかのように止まってしまった。


「勇者を目指すんなら、突っかかる相手ぐらいしっかりと見極めろ。お前ごときが敵う御方か」

「げッ!? テメエは……!?」


 自分を止めた相手を振り返って見定め、そして驚く大男。


 なんか有名人?


 新たに登場したのは、三十を越えた辺りかと思われる熟練風の男だった。


 特別巨体でもなく派手な体つきでもないが、まとう気配が余人のものとは明らかに違う。

 佇まいからして静かでありながら重い。今度は手錬だと一目でわかる。彼も勇者選抜会に出場するのだろうか?


「……ラクス村のダリエル殿ですね?」

「あ、はい……!?」


 達人風の男から話しかけられた。


「お目にかかれて光栄です。今日の勇者選抜会、アナタも出場なさるとは張り合いがある」

「いえ、出場するのは俺ではなく……!?」

「誰もが知る大勇者アランツィル。その実子として才能を色濃く受け継ぎ、いまや父親以上の実力と噂される。それがアナタだと」


 会話の横で『げえッ!?』と汚い叫び声が。


「こッ? コイツが……!? いやこの御方がアランツィル様の子ども!? そんな、そんなヤツが……!?」


 斧を持った大男だった。

 その大男へ鋭い視線を向ける達人……。


「相手の力量も推し測れん未熟者が。彼ほどの実力者なら、英雄の子だという素性がわからずとも佇まいだけで警戒すべきだ」

「ごぬ……ッ!?」

「愚鈍が勇者に選ばれるなど万に一つもない。お前こそ恥をかかぬうちに田舎に帰るのだな」


 厳しい口ぶりだった。

 達人風の人、改めて俺に向き直り。


「失礼しました。私はジョシュワの街から来たA級冒険者カミカゾと申します。大勇者のご子息と同じ選抜会に臨むこと、心より誇りに思いますぞ」

「はあ……!?」

「本戦では胸を借りるつもりで挑ませていただきます。勇者に選ばれるのはアナタで決まりでしょうが、最後まで全力を振り絞りましょう」


 軽く握手して、カミカゾさんとやらはセンターギルドの奥へ去っていった。


 周囲でも『アランツィル様の息子……!?』『とんでもないヤツが来たな……!?』『優勝アイツで決まりじゃないか……!?』とヒソヒソ声が聞こえる。


 俺は出場しないんだがな、と言い出すタイミングがなくて困った。


 その反面、一部始終を俺の脇で眺める息子グランが……。


「父ちゃんカッコええ……!!」


 と羨望の眼差しを送ってくれるのは嬉しかったが。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「子供のした事ですから」をその子供の親が言ってはいけない。 それはされた側が寛大な対応をする時のセリフであって、やった側が相手を見下す為に使う言葉じゃない(こういう細かい親の態度を見て…
[気になる点] この喜劇または悲劇は、ダリエルさんを勇者選抜試験に参加させるための、壮大な仕込みだったりして?父親を尊敬する純粋な眼差しを拒絶出来るのかどうか?次回が楽しみです。 [一言] 誤字ではな…
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