258 息子グラン、旅立つ
あのバカ御曹司をセンターギルド理事にしてしまったら、ラクス村にも遠からず迷惑が及ぶ。
そう考えた俺は、アイツが理事になることを徹底的に邪魔してやることにした。
そのために何が必要になるかと言えば、アイツに代わってセンターギルド理事になる人材だ。
もうすぐ理事会は、理事長さんの引退によって席が一つ空く。
その空席に飛び込もうというのがアイツ。
事前に別の人材を詰め込んで蓋しておけばアイツに余計な権力を握らせることもないという計算であった。
では誰を新しい理事に押し立てるか?
現センターギルド理事長さんは俺こそをと思っていたようだが、それこそ真っ平御免だ。
俺は生涯ラクス村にのみ奉仕する存在なので、別の土地で理事なんてやっている暇はない。
あと家族にも奉仕する。
というわけで別に誰かいねーかな? と思いつつ物色して、ちょうどいい人に思い当った。
ミスリル鉱山で監督役を務めているベストフレッドさんだ。
あの人もミスリル鉱山に赴任してけっこう長くなるが、だからこそそろそろ異動の時期だろう。
赴任前はあの人もセンターギルド理事を務めていて、こちらへはいわば都落ちの形だったという。
ならば理事への返り咲きという道もありだろう。
ベストフレッドさんにはミスリル採掘作業で大いにお世話になったし、人格能力共に大いに信頼できることがわかりきっている。
この人が理事の座についてくれたら、俺もこれ以上安心なことはない。
と思って打診してみたら……。
「嫌だーーーーーーーッッ!! 絶対! 嫌だーーーーーーーーッ!!」
滅茶苦茶拒否られた。
なんで?
「私はもうセンターギルドなんかに帰りたくない! 日夜権謀術数渦巻いて! 誰も信用できないモノノケの巣に戻りたくない! 毎日のように神経すり減らし、自殺まで考えるような日々はノーモア!」
と言って断固嫌がる。
「それに比べてミスリル鉱山での日々は心が洗われるようです! ノッカーたちは純粋で働き者で心が現れる! 私はもう一生ここから離れたくない! 死ぬまで彼らと共に過ごすんだー!!」
「ダンナー!」
「オラたちもダンナのことが大好きだーッ!!」
鉱山で働く亜人種ノッカーたち。
どこからかワラワラ出てきてベストフレッドさんに群がるのだった。
「いつの間に仲良くなったんだコイツら……!?」
俺は困惑するが、したってもう五年も一緒に仕事してるんだからな。
相応の絆も出来上がるか。
とにかく安住の地を見つけたベストフレッドさんを陰謀渦巻く中央に引き戻すのも可哀想だと思い、彼の出馬は却下となった。
ノッカーたちと末永く楽しくやっていってほしい。
「また別の人材を探さなきゃいけないな……」
色々考えつつラクス村に帰宅。
家庭は重要だ。
昼間、どんなに汗水たらして働いたとしても家に帰り、嫁と子どもたちに囲まれる時間が、俺の心と体を蘇生させてくれる。
彼らがいるから戦える。
今日も自分の必死に生きる意味を見つめ直すために、いざ我が家へ……!
と思っていたら、今日はなんだか事情が違っていた。
「とーちゃん、とーちゃん!!」
まず我が家で一番元気な長男が出迎えにきた。
そして言った。
「父ちゃん俺、勇者になる!」
「は?」
いきなり何のことかと耳を疑った。
我が子が勇者に?
どうしてそんなことに?
「昼間に、使いの人が来たんですよー」
続いて出迎えに現れた妻マリーカが言う。
「もうすぐ開かれるんですって、新しい勇者を選び出すための選抜会。それにグランを招待すると……」
「招待って、見物客として?」
「いえ、勇者候補としてらしいですよ?」
正気の沙汰ではなかった。
レーディにが魔王城到達を果たして、そのまま消息を絶った。
以来人間族側では勇者不在の状態が続いている。
魔王様を倒すという大目標を除いても、勇者の存在は今や人間族に不可欠なものだ。
だから勇者のいない期間などがあってはならない。
勇者が敗北するなどして消え去れば、すぐさま次を用意してさらなる魔王討伐へ向かわせなければならない。
「それを考えると遅いぐらいだよな……!?」
勇者選抜会が今更行われるというのは。
レーディが消息を絶ってもうそろそろ一年。
勇者不在の帰還としては問題になるほど長い。
「色々混乱があったからなあ。レーディは最後の方センターギルドからの支援をまったく受けなかったし」
そんな彼女が魔王様の下へたどり着いたという報せこそ寝耳に水。
驚きと共に大混乱であったし、ラスパーダ要塞再建に伴う休戦協定で事態はさらに複雑になる。
それやこれやで今日まで延び延びになってしまったんだろう。
まあ、レーディに代わる新しい勇者を立てたいなら好きにすればいいさ。
俺には関わりないことだ。
また俺を勇者に担ぎ出そうという動きもあるかと思い、そこだけは警戒していたがな。
しかし一転狙いを移して……。
息子の方を担ぎ出す。
「かといってグランはまだ六歳だぞ?」
六歳の勇者って……。
……アリなの?
「四十目前の勇者よりはアリだって判断されたんじゃないのかしら?」
夫婦生活も長くなって、俺への物言いも段々遠慮がなくなってくるマリーカだった。
「どっちにしてもお断りだがな。勇者なんかなったっていいこと何もないだろ」
センターギルドの政治的モノノケどもに利用されるだけの人生じゃないか。
俺自身そんなの真っ平御免だし、息子にも背負わせたいなんて思わない。
「断りは俺の方から入れておこう」
そして二度とウチの子にちょっかい出すなと睨みを利かせておこう。
「父ちゃん俺いきたーい」
「ん?」
なんか息子グランが前向きになっている。
「勇者ってアレでしょ? 強いヤツがやるんでしょ? 俺強いよ!?」
「いやいやいやな? 勇者って言うのはただ強ければいいというわけではなく……!」
心に勇気を持つ者とか、心に愛を持つ者とか、そういう観念的な話でもないぞ。
センターギルドの手駒になるかという政治的な話だ!!
「ええぇ~? 俺、勇者になりたいなりたいぃ~!」
そんな『オモチャ買って買って』みたいなノリで?
意外な。どうしてそこまで勇者に拘るんだこの子は?
「だってアランツィルじいちゃんも昔勇者だったんでしょう? いっつも自慢してるよ。勇者は真の強いヤツじゃないとなれないって」
「あの人……!?」
孫からの尊敬を勝ち得るために、そんなことフカシていたのか……!?
人生唯一じゃないか? あの人が勇者であったことを自分から喧伝するなんて!?
「グランバじいちゃんは四天王の方が強いって! 俺しょーらいは勇者か四天王になるんだー!」
マジかよ。
その選択肢の中からじゃ勇者の方がまだ現実的かなー?
……いや待て?
最近あの二人ラスパーダ要塞の再建にかかりきりで、あんまりこっちには来てないだろ?
なのにどこで孫との触れ合いを?
「いいんじゃないですかアナタ」
マリーカが夕飯をテーブルに並べながら言う。
「この子のわんぱくも手が付けられなくなってきたことだし。外の世界を知れば少しは大人しくなるんじゃないかしら。子どもの頃の思い出作りも大切ですよ」
勇者選抜会が思い出作り。
……まあ、まさか六歳児が勇者に選ばれるわけもないしな。
たしかに思い出作りにしかならないか。






