251 ダリエル、五年後の村を視察する(三)
視察に一区切りをつけ、冒険者ギルドからお暇した。
あそこはお義父さんとガシタに任せておけば大丈夫だ。スタンビルのような不安要素もあるにはあるが、そこもマリーカに報告しておけば上手く絞めてくれるだろう。
ギルドをあとにし、俺は次なる場所を視察することにした。
ラクス村には冒険者ギルドの他にもう一つ、心臓ともいうべき最重要施設がある。
ミスリル鍛冶場だ。
世界に唯一の不思議鉱物ミスリルを加工し、様々な役立つ道具に変える場所。
ここで生産されるミスリル製の武器は人間領へくまなく行き渡り、巨万の富を生み出している。
ラクス村をここまで豊かにしたのはミスリル製品で発生する財産きなのだから、ここがどうにかなったら本当に困る。
なのでこまめに様子を覗いていかないとな。
◆
「ようこそ、おいでくださいました村長!!」
出迎えてくれたのは鍛冶場を率いる鍛冶師サカイくん。
この鍛冶場が再開されてからの付き合いだが、すっかり熟練鍛冶師としての風格が身についている。
「……なんか最近のサカイくんは、スミス爺さんに似てきたね?」
「えー!? からかわないでくださいよ! オレなんてまだまだ師匠には及びませんよー?」
スミス爺さんというのは、サカイくんに鍛冶の技を教えてくれた師匠。
ミスリル加工の第一人者であり、今ここで行われている鍛冶も、スミス爺さんが土台を作り、後輩へと教え伝えたものだった。
惜しむらくはスミス爺さん、黄金のように貴重な技術知識と共に、もう誰も行って戻れない場所へ逝ってしまった。
サカイくんは、その天才鍛冶師の弟子として、よく技術を継承し、鍛冶場を盛り立ててくれた。
ここまで鍛冶場とラクス村が大きくなったのも、誰よりサカイくんの功績だ。
「とんでもない! 村長が販売ルートを確立してくれるお陰ですよ! お陰で打てば打つだけ代金が入ってきて、我々は新しい作品を作れる! 鍛冶師にとっては理想の環境です!」
人間用の武器だけでなく、魔族の錬金術師も招聘して魔族用の魔導具まで作れるようになった、この鍛冶場。
互いの異なる知識が組み合わさり、これまでにない武器なり魔導具がバンバン生み出されている。
五年前に獲得したドライアドの闇市も機能し、魔族領へ多くの品物が送られている。
商売は順調という感じだった。
「村長の手腕もさることながら、あの人の協力も重要ですよ……!」
サカイくんは殊更、ある人物のことを仄めかす。
「ああ、アイツね……!?」
「あの人が新作の試運転をしてくれて、独創的な意見をくれますから、それが開発のインスピレーションになっています!」
「で、そのアイツはどこに?」
「今も試作品の状態を見てもらっていますよ。空を飛んでいます」
空を?
屋外に出て見上げると、雲一つない快晴の空をハヤブサのように飛び回る一個の影が。
「おーっほっほっほっほっほッッ! 非常にいいのだわ! この新型ミスリル翼はとても使い心地がいいのだわ!!」
ゼビアンテスであった。
なんか金属でできた翼を背中にしょって空を飛び回っている。
「……あれ? ずっと前に作ったヤツじゃないっけ?」
「違いますよ!!」
サカイくんから凄い剣幕で言われた。
「五年前にプロトタイプが作られた可動式ミスリル翼! あれはその後期発展型です! さまざまな改良を加えることで魔力伝導率を上げ、スピード、軌道統制、飛翔継続時間を格段にアップさせました!」
「ああ、そう……!?」
サカイくんにこの手のことを語らせると抑えきれない。
ところで上空のゼビアンテスは目にも止まらぬスピードでビュンビュン飛び回り、最後にはシュタッと俺たちの眼前に降りてきた。
「サカイくん! この新型、実にいい出来なのだわ! ここまでの努力褒めてつかわすのだわ!」
「ははーッ!」
なんでお前がそんなに偉そうなんだよ?
「あッ? ダリエルまで来ているのだわ? わたくしの美貌につられてきたのだわ?」
「…………」
「いだだだだだだだだだだのだわッ!?」
なんかムカついたので、ヤツの薬指と中指の間に鉛筆を挟み込んでから、四本指を思い切り握ってやった。
……さて。
五年前から充分自由なコイツであったが、五年経った今状況が少々変わっている。
ゼビアンテスはもう本格的にラクス村に居ついている。
かつて俺の家になし崩し的に居候していたのが、今では村内に家を建て、そこで悠々自適の一人暮らし。
魔王軍四天王は退任した。
レーディが魔王様の下へ到達したことで、彼女は四天王の座から追われたのだ。
これは特別な理由があったわけではなく、慣例だった。
勇者の進軍から魔王様をお守りするのが四天王第一の役目。勇者が魔王様の下へたどり着いたからにはその役割を果たせなかったということで、任を解かれる。
四天王を名乗るに相応しい実力を持っていないということだから。
それは数百年前から決まっているルールで、四天王に抜擢されたエリート魔族にとってこれ以上の屈辱はない。
以後残りの人生を……、いや死したあとすらも、侮蔑と嘲笑を受け続けなければならないのだ。
しかしそんな過酷な状況に置かれていながらゼビアンテスは元気溌剌。
「元々四天王になんて興味がなかったんだから関係ねーのだわ! いっそあらゆる義務から自由になって、この村で遊び惚けていられるから楽しいのだわー!」
いや遊び惚けるなよ。
と言いつつ、コイツは遊び気分でサカイくんの武器や魔導具開発に協力し、一定の成果を上げているのだから文句出しづらい。
コイツを四天王から解任したのは、虎に翼を付けて野に放つことではないのだろうか?
そしてもう一人……。
「村長、ここにいたのか」
キリリとした印象の女性が、こちらへツカツカと歩いてくる。
ドロイエだった。
かつて魔王軍四天王として『沃地』の称号を得ていた彼女。
しかし今はその位にはなく、俺の秘書としてラクス村で働いている。
何故?
俺が知りたいくらいだわ。
「奥方から、今日は村の中を視察すると窺って追ってきた。事前に聞かせていただかなければ予定の意味がないのだが?」
「うん、ゴメンね……!?」
ゼビアンテス同様、勇者を突破させてしまった落ち度で四天王を解任されてし
まったドロイエ。
そんな彼女が新たに選んだ生活は、ここラクス村で働くことだった。
それを申し込みに来た時の、彼女の言葉は忘れがたい。
固い決意のこもった言葉だったから。
――『私には結局何もかもが足りなかった。知識も、能力も、覚悟も……!!』
――『アナタの下でそれらを一から養いたい! アナタの下で働かせてはくれないか!?』
養ったとしても、もう四天王を解任されているアナタには活かすタイミングがないと思うんですが。
と無慈悲に言いうわけにもいかず、とりあえず望み通り働かせてあげることにした。
今魔族領に帰っても、勇者を食い止められなかった無能者として後ろ指さされる余生が待っているだけだからな。
真面目に四天王を務め抜こうとした彼女には少々残酷すぎる。
というわけで……。
今ラクス村には二人の元四天王が暮らしていることになる。
「報告です村長。さらなる居住区を開設されたしという要望が入りました」
「人もまだまだ増え続けているからなあ」
「お言葉の通り、村への人口流入もまだまだ勢いが止まりません。早めに準備を整えておきませんと、溢れた人口は治安の悪化に繋がりかねません」
ドロイエは、四天王だった頃よりずっと礼儀正しく俺に仕えてくれる。
元々与えられた役目に従う性格なのだろう。イメージ通りに機敏で有能な子なので、彼女がウチで働くようになって大変助かっている。
「ん? ん? わたくしのことを考えているのだわ?」
「お前のことじゃねーよ、大人しくしてろ」
ゼビアンテスはアホではあるがけっして無能ではないので扱いに困る。
「村長、視察であれば私も同行させてください。各所からの要望や問題、気づいたことなど仔細漏らさずまとめ上げますので……」
「ありがとう、でも次に行くところは特に俺一人で行きたいんだ。皆は待っててくれないか」
「はあ……!?」
ドロイエには悪いが、あまり大人数での訪問は嫌われるだろう。
各地の視察のついでに。
あの人に会っておこうと思う。






