247 ダリエル、闇市の元締めになる
ドライアドは森を住処にする種族だ。
だからと言って猿のように木の上で生活しているわけじゃない。
大抵は三十人単位のグループで、森の中に集落を作っている。
そこで簡素な住居など造り、子どもを育てながら生活している。
「この辺にそういう集落を作ってくれないか。もちろんお前たちの『稼業』も続けていい」
闇市のことだ。
ドライアドの集落は大抵ブラックマーケットの会場を兼ねている。
常に裏に通じた商人が出入りして、出物を漁り、またいわくつきの品を持ち寄ったりする。
「ええー?」
「そんなこと急に言われてもー?」
ドライアドたちは乗り気じゃない。
「平地の人間にゃわからないだろうが、ワシらだってそう簡単にヤサを移せはしないんだぜ? 他のドライアド集落との兼ね合いや、お得意さんとの義理もある」
「いつも闇市を使っている商人さんが、いきなり場所が変わったりすると困るだろう? ワシらも仁義通さなきゃやってけんのだよ、特にこういう業界では」
彼らの言うことももっともだ。
「今すぐ居を移せと言っているわけじゃない。馴染み客に周知させる余裕はあってもいいよ。それにな、俺は意味もなくこんな提案しているわけじゃないぜ。キミらにも充分な利益を提供する算段がある」
「ほー」
「へー」
「キミらの闇市でミスリル製品扱いたくない?」
そう言った途端、ドライアドどもの目の色が変わった。
うん。
ウチのミスリル鍛冶師たち、みずからの創作意欲赴くままに人間族用の武器だけじゃなくて魔族用の魔導具も作りまくっている。
これらは当然人間側では売れない。魔族用なのだから魔族に買ってもらうしかないが、無論大っぴらに敵地へ売れるわけがない。
かつては友人のリゼートを通していたが、横流しの本職でもないアイツに頼むのはそろそろ限界だろう。
「というわけでどうだ? ウチで生産するミスリル魔導具を、キミらのブラックマーケットの品目に加えてくれないか?」
「やります」
即答かよ。
でもこういうところさすが機敏。これくらいじゃないと闇市なんて危ういシロモノは扱えないんだろうな。
「しかしいや待て、納得できんことはまだあるぞ?」
この場に集ったドライアド数人のうち、もっとも分別がありそうな年長者が言う。
「お前、たしか魔王軍では何の力もないイッペーソツじゃないか? そんなお前にミスリル魔導具をどうこうできる権力があるのか? それにワシ知ってるぞ、今ミスリル鉱山は人間族のものだ。益々魔族にミスリル魔導具を売りさばくことなんてできない」
いい質問だ。
さすが闇市を取り仕切るドライアドは世事に聡いな。
そんな彼らに対してこそ胸を張って言えるものだ。
「大丈夫、俺は出世したんだ」
今や俺はイッペーソツなどではない。
「今の俺は……ソンチョーだッ!!」
だから、この世にできないことなど何もないのだ!!
村長、偉いから!
「「「「なるほどおおおおおおッッ!!」」」」
「ドライアドたちよ! 何も憂うことはない! 信じて俺についてこい! 俺の膝元で闇市を開き、互いに大儲けしようぞ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」
こうして俺は、ドライアドどもを取り込むことができた。
◆
そして数日後。
元いた場所と寸分たがわぬ森の中が賑やかなことになっていた。
「移ってきたなあ、ドライアドの集落」
まさかこんなに早く実現するとは。
性急であるとしか思えないんだがいいの?
前の集落に通っていた常連客への義理とかは?
まあいいか。
目の前は、既に最低限草木を刈られて開かれており、そこに簡素だがしっかりとした小屋が立ててある。
あの中に目を見張るほどの珍品名品が売り物として並んでるなど誰が想像するだろうか。
「…………ダリエルさん、アナタの目論見がわかってきました」
傍からずっと俺の所業を見守ってきたレーディ、言う。
「このドライアドの集落を中継地点にするつもりなんですね? ラクス村から、この集落を通って、魔王城を目指せと……!?」
「よくわかったなレーディ」
これでとりあえずラクス村~魔王城ルートの行軍は楽になるはずだ。
新たにできたドライアド集落は充分魔族領内の森にある。
ドライアド集落は同時に闇市でもあるから休息をとったり装備を整えることも充分に可能だった。
「そこまで考えてドライアドを呼び寄せたなんて……!? 底知れない人……! でも……!?」
レーディから刺すような一言。
「それだけが目的ですか?」
「ん?」
「闇市にミスリル魔導具を置くことは、あくまでドライアドたちに魅力を感じさせるエサのような扱いでしたけれど、それによって得られるラクス村の利益が滅茶苦茶大きいですよね?」
そらそうよ。
ドライアド闇市という大きな販売ルートを得たことで、ラクス村のミスリル製品をより多く魔族に売り出すことができる。
ウハウハになること間違いなし。
こうなったらリゼートもそろそろ用済みだな……?
「それをズルいとは言うまいな。一つの手でさまざまな効果を狙うのが、よい仕掛けというものだ。そして村長である俺がラクス村をよりよくしたいと願って何が悪い」
「…………」
レーディ、何かしらを飲むこむような深い表情で。
「……そうですね、元から裏口から入り込むようなルート、見栄えがいいとは言えません。今更体裁を気にしたところで中途半端なだけ……。ならば徹底的になりふりかまわず突き進み、魔王の下へたどり着きます。そして必ず魔王を倒します!!」
レーディが燃えていた。
なりふり構わず魔王を倒すという固い決意。
そしてもう一方なりふりかまわないヤツがいる。
「きゃー!! ここは宝の山なのだわ! あっちにも掘り出し物! こっちにも掘り出し物なのだわー!」
ゼビアンテスが闇市にドハマりしていた。
「こっちからあっちまで全部買うのだわ! 執事に運ばせるから馬車に詰めておくのだわああああッ!!」
「ダメですッ! 一応ここ極秘のマーケットなんで派手な輸送は禁物!!」
アイツにここ教えたのは失敗だったかな?
秘密厳守には絶対向かない騒がしいヤツだ。
さて、これでラクス村の新しい販売ルートを開拓したついでに、レーディの進軍ルートも開拓できた。
この経路に魔王軍はまだ気づけていないから(ドロイエ、ゼビアンテスは知ってても妨害するつもりはないから)、行こうと思えば労せず魔王様の御前に到達できるだろう。
「……辿りつく準備ができた今、残るは勝つ準備です」
レーディは言った。
「無論今のままで勝てると思い上がることはできません。この剣を魔王に届かせるには、さらなる鍛錬が必要不可欠……!」
まあそうなるわな。
思ったより無鉄砲じゃなくいて俺も安心した。
「でも相手が魔王様となると、何十年修行したって足りないんじゃないか?」
結局『明日から本気出す』的なノリで一生を終えてしまうかも。
「大丈夫です。切り札は既にあります」
「え?」
「あとはそれを訓練の末に完璧にものにするまで。……ゼビちゃんッ!!」
ドライアドの建てた小屋ごと買収しようとしていたゼビアンテス、振り向く。
「ほよ? どうしたのだわ?」
「練習に付き合って! 対魔王用の新必殺技、一年以内にものにしてみせる!!」
「いいのだわー、約束したことだし徹底的に協力してあげるのだわ!」
こうして。
勇者レーディは着々と魔王戦の準備を進めていった。
彼女が秘める対魔王用の切り札というのが何かわからなかったが、血のにじむ努力の果てに何とかものにし、満を持して魔王城へ向かう。
勇者レーディが魔王と対決したという報せが世界中に響き渡った。






