246 ダリエル、森人に会う
ドライアドは……。
魔族領に住む亜人種の一つだ。
主な生息域は森の中、鬱蒼として隠れる場所の多い木々の影に潜み、静かに穏やかに暮らす。
同じ亜人種でもノッカーのように直接役立つ特性もなく、魔族からは顧みられることのない存在だ。
とりあえず最低限魔族に迷惑をかけることはするなと、若干放置気味にされている。
そして自分たちのホームである森の奥に引きこもって暮らしているのだ。
「……そんなドライアドに気に入られたごく一部の者には……」
ドライアドと会うための『呼び寄せの舞』を伝授される。
この舞が発する特別な波長(?)が、広範囲にまで伝わりドライアドだけに感知できるそうなのだ。
深く広い森の中、闇雲に探してドライアドを見つけようとするのは無謀だ。
だからこそ『呼び寄せの舞』を発して向こうから見つけてもらうのがもっともよい。
『森の申し子』との異称を持つドライアドとの一番確実な接触法だった。
「皆にも紹介しよう。彼らがドライアドだ」
既に俺の周囲には、せいぜい俺の腰ほどまでしか身長のない不可思議な人類が屯していた。
ざっと数えて五、六人ほど。
人間族でも魔族でもないことは一目でわかる。
単に矮躯であるだけでなく、皮膚が異様を呈していた。
通常の人の皮膚より何倍も潤いを失ってカサカサとなり、幾重ものしわが刻まれてまるで木皮のようだった。
さらに古くなった皮か、あるいは垢のようなものが浮かび上がってささくれ立ち、ますます木皮のような様相になっている。
いわば木皮をまとった小人。
それがドライアドという亜人種だった。
「うわー、わたくしドライアドなんて初めて見たのだわ!」
まず素直な感想を述べるのがゼビアンテスだった。
そうだろうよ。
お前たち四天王と亜人種じゃ、それこそ身分に天地の差があるからな。
「で、ではあの……、さっきまでのとても正気とは思えない振る舞いは……?」
「以前ドライアドから教えてもらった『呼び寄せの舞』だな」
もう何年前のことになるだろうか?
魔族領内で開発のために森を切り拓こうという話になり、ドライアドが大反発するという事態が起こった。
ドライアドにとって住処となる森を削られるのは死活問題。
対立は抗争にまで発展し、鎮圧のために魔王軍が駆り出されるほどになったが、その頃まだ魔王軍にいた俺も討伐部隊に便乗していて、なんとか話し合いでことを治めるように駆けずり回った。
お陰で魔族とドライアド双方満足のいく形で講和が成立し、その時信頼を得て『呼び寄せの舞』を伝授してもらったと。
「よかった……! ダリエルさん急に正気を失ったものかと……!」
言うに事欠いて凄いこと言うなレーディは。
「いや待て、しかしまだ事態は飲み込めんぞ? ここで亜人種を呼び寄せる意味は何だ?」
真面目なドロイエが言う。
「お前たちの話では、村と魔王城との間に中継地点を設けようということだったが」
「だからコイツらに……」
ドライアドに……。
「中継地点となる森中集落を作ってもらう」
「おいイッペーソツ」
ドライアドどもが俺のズボンをクイクイ引っ張る。
「せっかく呼び出しに応じてやったのだぞ? もてなしはないのか?」
「ああ、はいはい」
俺は出がけにマリーカに用意してもらったものを差し出す。
皮袋に入ったそれを、ドライアドの一人が口を開け丁寧に確認する。
「……砂糖だな? よく精製してある。綿のような白さにきめ細やかさも極上。土産としては合格点だな」
「えらそーな口ぶりしやがって。お高くとまってると持って帰るぞ」
「ああ待て! いるいるいる! こんな素敵なお土産をありがとう!!」
ドライアドは、性格的に曲者めいた者どもが多い。
種族的な特徴なんであろうが、これも魔族から捨て置かれるようになった理由の一つのように思う。
魔族からしてみればノッカーのように、従順で純朴、かつ決められた仕事を黙々とこなすタイプの方が数段扱いやすかろうから。
すると別に、こんな疑問も湧いてくることだろう。
そんな煮ても焼いても食えないドライアドと接触をもってどうするのかと。
魔族ですら匙を投げたコイツらに何かやらせようとしても、それは非効率なのではないか?
しかし俺は知っている。
コイツらの、多くには知られていない優れた点を。
「お前ら、あの商売はまだ続けているのか?」
俺が指摘してやると、ドライアドたちの顔色が変わった。
ある者は目を逸らし、ある者はわざとらしく口笛を吹こうとして吹けてない。
「あへへぇ……? 何のことだ? 言われることがよくわからんなあ?」
「イッペーソツよう、しばらく会わんうちにボケたんじゃないのか? ワシらは清貧慎ましやかに森で暮らす自然の民よ」
よく言うわ。
俺も魔王軍時代、お前たちの『裏の稼業』を知って魂消たものだ。
魔族による森林開発に強硬に反対したのも、開発範囲に入った場所でマーケットが開かれていたからだろう?
「なあ、闇市の仕切り屋ドライアドよ」
「闇市?」
そのフレーズに反応する俺の同行者たち。
「うわわわわわわわッ!?」
「アホゥ! それは言っちゃいけない約束だぞぅッ!!」
慌てて俺の口を塞ごうとするドライアドたち。
しかし遅い。
「レーディ、ドロイエ、キミらも小耳にはさんだ程度にはあるんじゃないか? この世界のどこかに、人間族のものを魔族に、魔族のものを人間族に売りさばくブラックマーケットが存在すると」
「た、たしかに……!?」
ドロイエが戸惑いながら言う。
「そんなものがあるという風聞は知っている。しかし俗説だろう? 時折何故か紛れ込んでくる敵側の生産物が、どうして紛れ込んでくるかを説明するための空想の産物なのだろうブラックマーケットなんて……!?」
ところがどっこい実在するのです。
ドライアドのブラックマーケットは。
「コイツらが住処にしている森は、人間領と魔族領の境界と大きく重なっていて、ドライアドどもにとっては庭みたいなものだ。そもそも森の中には人間族も魔族も目が届きにくい」
それを利用してのやりたい放題というわけよ。
「人間族の特産品、魔族の特産品をそれぞれ森を介して向こう側へ、その転売差額でウハウハしておる」
実際、人間両族にとって本来敵である相手の産物など手に入れようがない。
この商売はドライアドどもの独占市場と言っていい。
そういえば遥か昔、今は亡きスミス爺さんが魔族の使うアタノール炉を持っていたが、それもきっとドライアドの闇市を介して人間領に入ってきたのだろう。
「それってあの……、法的には?」
「もちろん違法だよ? 公になったら根絶やしにされるんじゃないかなあドライアド?」
敵のものを買って、敵に利潤を与えたとなれば重大な利敵行為だからなあ。
「「「「おきゃああああああああッッ!?」」」」
突然泣き出すドライアドたち。
「お前、お前えええええッ!? まさかワシらを滅ぼす気かああああッ!?」
「ワシらの行いは見逃すと言ってくれたではないかああああッ!?」
「ワシらのようなものがいなくなると、色んな人たちが困るぞおおおおおおッ!?」
そうだね。
実際ドライアドの闇市を介して利益を得ている者は多かろう。
恐らく人魔双方の高位者が、闇市経由で『ご禁制』の品物数々を購入している。権力者が必要だと望めば闇市は強固に守られているはずだった。
「安心しろ、俺はキミたちの商売を邪魔する気はない」
「あ、なーんだ」
ドライアドたちはホッと胸を撫で下ろし……。
「逆に一枚噛ませてほしいんだ」
ここでやっと、俺の本題を伝えることができる。
「ここにキミらの集落を作ってくれないか。そして闇市も開いてほしい」






