242 緊急会議、始まる
俺が部屋に入ると、そこには既に数人が並び座っていた。
まず人間族からは先代勇者アランツィルさんに現役勇者レーディ。そして勇者パーティのサトメ、セッシャさんにゼスター。
魔族からは先代グランバーザ様と現四天王のドロイエ、それに……、あれ?
「ゼビアンテスは?」
「今捕まえに行ってる」
捕まえに?
『どういうこった?』と一から聞こうとしたが、ドアの向こうから近づいてくる悲鳴にすべてを察した。
「いーやーなのだわー! 会議退屈だから嫌いなのだわーッ!!」
「そんなこと知ったこっちゃありません。旦那様が出席しろと言うからアナタもちゃんと出るのよ!」
我が妻マリーカが、二人の子どもを抱えて入室してきた。
片手には正真正銘の子ども、和が息グランくんと……。
そしてもう片手にはでっけー子ども。
「逃げようとしてたのかお前……!?」
ゼビアンテスだって一応魔王軍四天王の一人なんだから、しっかり参加せよと言っていたじゃないか。
「断固嫌なのだわ! この世に会議ほどつまんねー時間の無駄はないのだわ!!」
たしかにそうかもしれないけれども。
コイツ時たま世界の真理めいたことを突いてくるけれども。
今回のこの会議は、世界に必要なはずだ。
勇者と四天王。
世界の中枢ともいうべき人員が一斉に会するこの状況で、世界の真実が暴かれた。
そのことに対して、この面子で話し合うことはけっして無益なことではないはずだ。
そう、これから始まる会議とは……。
『勇者と四天王の戦いをこれからどうしましょうか会議』というヤツなのだ。
「そんなの知ったこっちゃねーのだわ」
そんな重大会議にまったく我関せずなゼビアンテス。
「わたくしは風! 風はいついかなる時も自由なのだわ! 誰も風を縛り付けることはできないのだわ!」
「いやお前、ヒトだろ?」
魔王様が暴露した。
魔族も人間族も同じ一種の人であると。それをあの方の計画のために二つに分け、それぞれオーラと魔法の力を与えて競い合わせた。
判明したらけっこう衝撃的な事実だと思うんだがな。
コイツは結構どうでもよさげだ。
「わたくしは気ままに遊んでいるから、会議で決まったことだけ報告すればいいのだわ。それが一番効率的なのだわ」
「伝えたらちゃんと従ってくれるのか?」
「気に入らないことには断固として修正を要求するのだわ」
それを話し合う段階でするために会議出席しろって言ってるんだよ!!
話し合って決めて!
通達して意義を唱えて!
また話し合って修正するんじゃ二度手間だろ!
埒が明かないので、ここは信頼を置けるゼビアンテスブリーダーにお願いすることにした。
天からお盆が降ってくる。
「あぎょえだわッ!?」
お盆とゼビアンテスの頭頂部との激突によって星が飛ぶ。
制裁を下したのは我が妻マリーカ。
このアホを会議室へ連れてきた張本人だった。
「旦那様を困らせてはダメでしょう」
人妻、そして母親の威厳を込めて言う。
「アナタだっていい大人なんですから、大人には責任が伴うものなんですよ。責任を果たしてこそ大人でしょう」
「そんな胸を抉るようなことを言わないでほしいのだわ!」
大きな子どもゼビアンテスのハートにクリティカルヒットした。
「グランちゃんからも言っておあげなさい。『オレが尊敬できるような大人になれよ』と」
「だうー」
そろそろ一歳になるかという我が息グランが、ゼビアンテスの頭をぺっしぺっし叩いた。
『あの女、赤ん坊から窘められてやがる……!?』という空気が場一面に広がる。
さすがのゼビアンテスもいたたまれなくなり……。
「会議に出席します。……しますのだわ」
「それでよし!」
相変わらずゼビアンテスに対する無限の特効性を持つ我が妻、我が息子だった。
「では私はこれで失礼します。あとでお茶を持ってきますね」
「あのマリーカ……」
退室する妻に何か声を掛けようと思ったが……。
……何も浮かばなかった。
「私には世界の難しいことはわかりません。でもアナタの決めたことなら何だって正しいと信じられますわ」
「マリーカ……!?」
ついさっき、インフェルノ襲撃で避難騒ぎやらで苦労を掛けてしまったのに、それでも俺を信じてついてきてくれる……!
なんて素晴らしい妻なんだ!?
そんな彼女の信頼を受けて、会議をしっかり進めていくとしよう。
「はー、やだやだ。やるからにはさっさと終わってほしいのだわ。お茶も欲しいのだわ。ファーストフラッシュのゴールデンシロップのヤツが欲しいのだわ」
「お前は会議中黙ってろ」
やる気もなく椅子に座るゼビアンテスと、隣に位置したドロイエが短く喋った。
……思えばドロイエは、あの奔放すぎるゼビアンテスを同じ四天王として使いこなさないといけなかったんだよな。
彼女自身、指揮官としての未熟さが抜け切れていないだけに大変さが目に浮かぶようだ。
「とにかく、ここには勇者と四天王、奇しくも人魔各陣営の代表というべき者たちが勢揃いしているのだ。これを好機と捉えないわけにはいくまい」
そもそも。
どうしてこの二者が戦うこともなく一堂に会することとなったのか。
本来ならば即、殺し合いになるのが必然の勇者と四天王ではないのか?
そんな修羅場とならずに済んだのも偏に今回の状況の特異さと言えようか。
インフェルノ。
あの怪物の異常性は、常に殺し合うべき勇者と四天王も一致団結させる危険さを持っていた。
「それに加えて、魔王様がラクス村にご降臨されるという珍事。あの方魔王城から出てこないんじゃないの? とツッコミどころでもあるが、あの御方の口から出てきた事実も衝撃でしかなく……」
「ダリエルさん」
「はい?」
「話長いです」
「すみません……!」
だってしょうがないじゃない。
それぐらい衝撃的なことが、長い話になるくらい立て続けに起こらないと勇者と四天王がテーブル挟んで向かい合い会議に興じるような、それ自体が珍妙極まる事態になったりしない。
「まあとにかくさ、これからのことを話し合おうってこったよ。魔王様のお話を聞いて、皆それぞれ衝撃を受けたに違いない」
「わたくしは特に受けなかったのだわー」
そうだろうよ。
しかし世のまともな人間は常識を覆されてお前ほど泰然自若とはしていられんのだよ、もう。
「その衝撃の下に、どんなリアクションをするかは人それぞれだ。それをこの場で話し合い、方針を固めておくのはいいことだと思う」
魔王様から明かされた真実を聞き。
勇者と四天王の争いは茶番でしかないと完全に証明され。
それでもこの戦いを続けることができるか?
答えは人それぞれであろう。
しかしこの戦いには多くの人々が関わっている。
冒険者ギルドや魔王軍、今でも余人は明かされた真実を知ることもなく『魔王倒せ!』『勇者を阻め!』とイケイケドンドンすることであろう。
その戦いを勝手にやめることはできない。
それを含め、世界の秘密を知ってしまった責任ある者たちで、これからどうしていくか話し合おうということだった。
「じゃ、これから自由ですー。皆、思うままのことを好きに申してご覧。単なる心情の吐露それだけでも未来につながる方針を示すことになろうから」
「じゃあ、わたくしはもう帰りたいのだわー」
そこまで自由にしていいとは言ってない。
ゼビアンテスは論外だから黙らせておくとして、まず真っ先に口を開いたのは勇者のレーディだった。
「私は……、私はこのまま戦いを続けていきたいです」






