表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/322

234 魔王、戦う(愛でる)

「けはあああああッッ!!」


 怪鳥のごとき奇声を発し、ドリスメギアンが魔炎を放つ。


 何故か重力にも囚われず、はるか上空にてぶつかり合う超越者二人。

 しかし、その一方が放つ炎の強さに地上にいる俺たちは炙り焼きになる感触に襲われる。


「ぎゃああああッ!? あっちーのだわッ!?」

「真夏の直射光すら目じゃないぞ!? ヤツは、いったいどれほどの高熱炎を生み出しているんだ!?」


 ドロイエの言うとおりだった。


 正直アイツらが衝突しあったのが遥か上空でよかった。

 もし地上でやられてたら、その余熱だけでラクス村は蒸発していただろう。


 それだけの超々高熱をドリスメギアンは発している。


「単純な高熱化だけでも、私の遥か上を行っている……!?」


 同じ火炎魔法使いであるグランバーザ様までもが言う。


「私が若くて一番活発だった頃でも、あの半分の温度も出せなかったぞ!? ドリスメギアン、地獄の主、まさに魔王様の領域に迫る者……!?」


 グランバーザ様とて魔王軍過去最高の実力を持つ火炎使いであるのに、そんな御方が脱帽する領域とは。


 ドリスメギアンは、地獄に堕ちて亡者の時を重ねた結果、邪悪なる炎の神にでもなったかのようだった。


「とッ! とにかく対処するんだ! この高熱じゃ農作物が全滅しかねないし、家の木材に自然に火がつきかねん! 水魔法で周囲の温度を下げて……!」

「水魔法使いだけがピンポイントでいないのだわ」

「ちっくしょーッ!?」


 こうなったら一刻も早く神々の戦いが終わってくれることを祈る他ない。


 ただのとばっちりで一般人は滅びかねない。

 これが超常者の繰り広げる戦いなのか!?


「どうだ! この炎! これまでアナタに放ってきた中でも最高温を記録しているはずだ! オレは! オレはついにここまで来た!」


 恐ろしい超高熱炎を魔王様めがけて放つ。

 自然のものではない、血の赤色を放つ炎の中に飲み込まれる魔王様。


 その様は遠くから見たら、血の洪水に押し流されるようでもあった。


「燃えろ燃えろ! 燃えてくれえええええええッッ!!」


 ドリスメギアンに最初から余裕はなかった。


 何かに急かされるように焦りの表情を浮かべている。

 思えば、最初から全力の切り札だ。ドリスメギアンは魔王様に対して、少しも驕りを見せない。

 世界すべてを焼き尽くすほどの炎を使うのに。


「うーん、たしかにいい炎だねえ」

「……くそ」


 血の色炎を割って、魔王様がその姿を現した。

 その身には少しの火傷の痕もない。衣服が燃えた様子もない。


「ウソだろ……!?」

「あの炎を受けて無傷……!?」


 皆驚き呆れるしかなかった。


「たしかに、前よりも数段パワーアップしてるねえ。サラマンドラちゃんを取り込んだのがよかったかな? おかげで馬力が増してるからね。地力の底上げは大事ってことか」

「それでも、まだアナタには通じないのか……!?」


 魔王様は、視線を地上へ……、俺たちの方へ向けるとフッと指を振った。

 それだけで目を見張るばかりの変化が起きる。


「……あれ?」

「暑くない? 涼しい?」


 ドリスメギアンの放つ炎で真夏以上の気温になったというのに、その高温が一瞬にして消え去った。

 そして実に快適な適温へ……?


「これもまさか……! 魔王様の御業!?」

「だから余所様に迷惑かけちゃダメだよねえ? キミももう神の域にある使い手なんだからさ。下々を気遣いながら行動しないとねー?」


 ドリスメギアンの、あの太陽のような炎熱を食らいながら無傷どころか涼しい顔で、周囲に気を配ってすらいる。


 もはや理解のすべてを超える者だった。

 魔王様。


 無敵であることはわかっていたが、ここまでとは。


「ぐぬうううううう……ッ!?」


 ドリスメギアンは表情を歪め、敵わぬ相手に圧倒される。


「やはり通じないのか、この程度の炎では。やはり、最後のパーツを揃えねば……!!」

「ジークフリーゲルくんを見捨てたのは早計だったよね。今の炎に彼を加えていれば、ぼくちんにも効く炎が作れたかもなのにねえ」

「いや! 望みはまだある!」


 ドリスメギアンの血走った目がこちらを向く。

 正確にはこの俺に向かって。


「え? 俺?」

「ダリエル! ヤツさえ得られればジークフリーゲルなど問題にならない力となるはず! もはや心を憎しみで占めてからと悠長にできん! まずは融合だ! 心の色替えなどそれからなんとでも……!」

「だからダメー」

「ぐわあああああッッ!」


 俺に向かって飛び掛かろうとしたドリスメギアンが、四散した。

 魔王様が何かしたのか? 何も見えなかったが!?


「ダリエルくんを巻き込むのは反則ってゆってるでしょー? ルールを守って楽しくデュエル!」

「ぐぉッ! おのれええええええ……ッ!?」


 そして四散されてすぐさま再生する相手も相手だ。


 下半身は、やはりアランツィルさんの秘剣で両断されたせいか、再生できてないが。


「それならばとれる手段はもうこれしかない……!」

「ヤツの体が……ッ!!」


 体そのものが炎に変わっていく!?

 ドリスメギアンが炎に変身した!?


「このオレ自身の魂を変換して炎に変える! 他のザコどものカスのような魂とは違う! 地獄の主たるオレの魂魄が放つ炎は、まさに無間の炎! たとえ相手がアナタでも通じるはずだ!」

「ダメだドリスメギアン!」


 共に見守るイダさんが叫んだ。


「その方法はお前の存在を削るぞ! わかっているのか! 自分自身の魂を炎に変換するなど!!」


 魂は、肉体を失ってなお自分自身を定義づける最後の単位。


 だからこそエネルギーに変換したら凄まじい威力になるのだろうが、それは恐るべき諸刃の剣。


 身を犠牲にするとか、寿命を削るとか、そんなもの魂を引き換えにするのに比べたら何のこともない軽い行為だ。


 自分自身の最後の芯を削る。

 ドリスメギアンはこれまで、他人の魂を使うことでそのリスクを回避してきた。


 そのヤツが自分自身を削る覚悟で、魔王様に対しようとしている。


「望むところ! 元々オージン様に対するときにはこの魂を使うと最初から決めていた! ヤツを! あの御方を! オージン様を! 倒すためならこの魂消え去ろうと悔いなし!」

「魔王様!」


 イダさんもまた上空に飛翔する。


「ここから先は私にお任せください! ヤツは私が必ず押さえこんで見せます! ですので! どうか!」

「ダメだよー」


 割って入るイダさんの横を、魔王さんはスルリと通り抜ける。


「いかにお友だちのキミだって、ドリスメギアンくんのすべてを懸けたチャレーンジは受け止めきれないよ。我がもっとも忠勇なる臣、『沙火』のドリスメギアンは」


 魔王様は両手を広げながら、無造作にドリスメギアンへと接近する。

 今やみずからの魂までも炎に変えたヤツへ向けて。


「……実際、ぼくちんの正体に独力でここまで近づいたのは、キミが最初だからねえ。その上でキミは選んだ。ぼくちんの役に立とうという道を」

「おおおお……ッ!?」

「そして何度も何度もぼくちんに挑戦した。地獄へ堕ちても諦めない不屈の執念で。その直向きな姿に、ぼくちんは何度感動させられたことだろう」

「おッ……!?」


 魔王様とドリスメギアン。

 二人の体が触れた。


 魔王様は、ヤツを全身をもって抱きしめて。


「キミのことが大好きだよ。我が忠臣よ」

「おおおおおおおおおおおおッ!?」


 魔王様の体が燃え上がった。

 最初はドリスメギアンの放つ炎が燃え移ったのかと思った。


 しかし違う。

 あの炎は、魔王様みずから発している!?


「あぎゃあああああッ!? 熱いッ!? 熱いいいいいいああああああッッ!! ぎゃああああああッ!」

「ああ大好きだ! キミが大好きだ! 本当にぼくちんのためによく頑張ってくれたね!!」

「熱いいいいいいッ!? ぎゃあああああああッ!?」


 ドリスメギアンが焼き尽くされている!?

 ヤツ自身自分の魂を燃料にして、超高熱の炎になりながら。


 超高熱が超々々高熱によって焼き尽くされる。


 それを魔王様が行っている。


 しかもそれだけの炎熱を発しながら、地上にいる俺たちには少しの熱も伝えていない。

 本来なら間違いなく余熱だけでラクス村は蒸発して消えてなくなってるだろうに。

 いや、この地上の何割かが?


「あぎゃあああああああッッ!? おげはあああああああッッ!?」

「この灼熱が、頑張るキミへのぼくちんからのご褒美さ!」


 俺は、魔王様こそ誰にも侵せない究極だと思っていた。

 その認識すら侮りだったと今、思い知った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
jkx3dry29a17mb92cm376w8hjgzt_o9w_15y_1no_117yg.jpg.580.jpg
コミック版8巻発売中! 累計120万部突破!!

iz1zid9qhcdhjdah77316pc7ltxi_687_p0_b4_7
コミカライズ版がニコニコ漫画様で好評連載中です!
― 新着の感想 ―
[良い点] 物語のテンポが良くて楽しく読めるし、所々にある笑いも楽しい。 [一言] オージンというのは、もしかして大神の事かな
[一言] あの場にいる全員&全読者( ゜д゜)ポッカ〜ン
[気になる点] エ~ト…読者としては、魔王とドリスメギアンのどっちに身を入れて応援すればイイのやら…(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ