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233 魔王、来臨す

「おおっとぅッ!?」


『絶皇裂空』を放とうと跳躍せんとした俺は、唐突なるあの御方の登場に急停止。

 つんのめって体勢を崩す。


 あやうく頭からこけるところだった。


「おおッ!? おおおおおおおッッ!?」


 衝撃を受けるのは俺だけじゃない。

 上空で極大広範囲火炎魔法を今にも放たんとするドリスメギアンまでも、茫然と表情を失う。


「おお……! ……オージン様……!」

「おっひさー、元気してる?」


 突如としてラクス村上空に現れた巨大なる男。

 身にまとう装束は豪華で、どこぞの王族を思わせる煌びやかさだが、顔つきや体つきは屈強そのもので猛獣の佇まいだ。


 そんな威圧的な佇まいで……。


「ぼくちーん」


 とか言うのである。


「いやードリスメギアンくぅん? しばらく見ないうちに痩せたね? 下半身丸ごと斬り落とすって大胆なダイエットじゃない?」

「まさか……、アナタ様みずからご行幸あそばされるとは……!?」

「キミも『足なんか飾りです』って言っちゃう人?」


 地上に集う者たちも、皆等しく驚愕と衝撃の表情で天を見上げるのだった。


「なんと言うことだ……!?」

「魔王様が、みずから来られるなんて……!?」

「闘神様……!?」


 それぞれの、あの存在への呼び方は様々だった。


 魔王様の姿を知る者もいれば、魔王様を初めて見る者たちもいる。


 特に勇者のレーディは。


「え? ええ? ……えッ!? 魔王!? あれが魔王ッ!?」


 彼女にとっては万難を乗り越えて最後にたどり着くべき目的地。

 それが向こうの方から何気なくやってきたと言える。


 その珍事に、思考が追い付かないのも仕方がない。


「魔王、あれが……!?」

「なんという雄々しき魁偉なのでござろう……ッ!?」

「でも『ぼくちん』って言いましたよ!?」

「いやそれよりも……、待てあの顔つき、どこかで見たことがあるような……? ……ッ!? センターギルドの闘神像ッ!?」


 人間サイドの魔王様初見組も、最終目標であるはずの魔王様ご光臨に戸惑うばかり。


「ダリエルさんッ! 本当にあれが……ッ!?」

「そうだ……!」


 戸惑うレーディに告げねばなるまい。


「あの御方こそ魔王様。魔族の支配者にして世界最高の超越者。……そしてキミたち勇者が倒そうとする目標だ」


 ここにきて魔王様がやってくるなんて。

 想像もしていなかった。


 あの方が魔王城から動くことすら信じがたいのに。

 むしろ動けるなら、何故最初から来なかった!?


「何故……、何故アナタ様が……!?」


 そしてもっとも衝撃を受け、すべての平静が消え去ったのはドリスメギアンであった。


「アナタ様は動かないはずだ! た玉座から、自分を倒しにやってくる者を待ち続ける! それがルールであったはず! なのに……!」

「ぼくちんだって『来ちゃった』って言いたくなる時があるのだー」


 対峙する超越者二人。


 ドリスメギアンとて『もっとも魔王に近い男』とまで言われている。

 そして打倒魔王様を悲願に掲げ、これまであらゆる邪悪な手段を用いても成し遂げようと画策してきた。


 それが今ついに、魔王と直接対峙している。


「いやしかし、こうして直接顔を合わせるのも久しぶりだねえ。久しぶりぶり左衛門くんだね」

「…………」

「会いたかったよお」

「黙れッッ!!」


 ドリスメギアンもまた空中に浮かんだまま魔王様をにらみ返す。

 意味もない身振り手振りに灼熱の炎流が伴い、周囲に誰かいればそれだけで焼き殺してしまいそうだった。


「オレは……! オレはアナタ様を、いや、お前を倒すために動いてきた! それを貴様の方から出向いてくるなど! なんという軽挙! いつからお前はそんな小物になり下がった!?」

「うん、知ってるよお。よく頑張ったねドリスメギアンくん」


 ヤツらの交わす言葉の深度がわからない。

 一体あの二者は、どんな感情でもって互いを捉えているんだ?


「でもねえ、今回はちょっとお目溢しできないかな。ドリスメギアンくん他人を巻き込みすぎだよお。それは趣旨に反する」

「ぐ……ッ!?」

「セルニーヤくんとかさ、ジークフリーゲルくんやアボスくんやトルトリトゥくんはいいよ? 彼らもぼくちんを倒したいと願って、同じ目標の下に力を合わせるのは美しいよね? 青春だよね? いいと思うよ、そういうの」


 しかし……。

 と魔王様は続ける。


「その気のない人まで無理やり交ぜようとするのはよくないなあ。これはキミとぼくちんとの勝負からはみ出ちゃうんじゃないのかな?」

「だから、お前みずから止めにきたというのか?」

「ダリエルくんはねえ、キミとは別の路線でぼくちんの期待の対象なのね? キミの勝手で潰してほしくないなって」

「やかましい!」


 ドリスメギアンの周囲の炎が渦巻く、もともと村を焼き尽くすために用意された大炎が、標的を魔王様へと変えたらしい。


「オレが! オレがお前を倒すためにどれだけの準備を重ねてきたと思う! あの地獄の中で弛まず! この身を焼かれながら! その努めを、敵であるお前に評価されたくはない!」

「だったら予定通りにジークフリーゲルくんを使えばよかったんだよ。脇目を振るのはよくないなあ」

「……ッ!?」


 ドリスメギアンは物怖じる。


「貴様……ッ!? オレの計画を、全容を見抜いて……ッ!?」

「うん、わかってるよお。アレに気付くのはキミが最初になるだろうと思っていたからねえ。……よく気付いたよ。オーラと魔力の融合。それが人類の手にしうるもっとも強い力であると」


 オーラと、魔力の融合……!?


「地獄の底で気づいたキミは、必死に研究を続けたんだよねえ。ぼくちんが送り込み続けた実験材料から最高の素材を選り抜き、ついに実用段階へと到達した。それがジークフリーゲルくんの『逢魔裂空』」

「そこまで……、そこまで理解してくれていたとは……!?」

「しかしキミはそれだけでは飽き足らなかった。より完全な勝利を目指して地獄から抜け出し、より多くの穢れた魂を集め、炎魔獣サラマンドラちゃんまで欲しがった」


 魔王様は、受け入れるように両手を広げる。


「そこまで万全の態勢をとってぼくちんに勝とうとしたんだよねえ。頑張ったんだよねえ。わかるよ。キミがどれだけ本気でぼくちんを倒そうとしているのか。そこまで真剣にぼくちんを倒そうとしてくれるのはキミだけだ」


 キミこそが……。

 と魔王様は言った。


「キミこそが、ぼくちんをもっともよく理解している」

「お、お、おおおおおお……ッ!?」


 おい……?

 マジか? 見ろ……!?


 ドリスメギアンが泣いている!?


「おお、いかにも……! いかにもオレこそがアナタをもっとも理解している。アナタの最大の望みを叶えるため、オレは外道にも蛇蝎にもなる! だからダリエルを必要としたのです!」

「うん、それは……」

「オレとダリエルが力を合わせれば、必ずアナタを倒せるッ!!」


 天空に響き渡る勝利の宣言。

 地上から見上げる多くの者たちが、その気勢に圧せられた。


「一体ヤツは、何を見ているんだ……?」


 ドリスメギアンの視野が、他の者に見通せない高さであることしかわからなかった。


「……いや、こうして目の前に現れたからには、ダリエル抜きでもアナタを倒して見せよう。もはや小細工を弄する時間は終わった!」

「万全でない状態でぼくちんに挑むと?」

「ダリエルはいなくても、今のオレには炎魔獣サラマンドラの力がある! 地上で刈り取った無数の魂がある! この力でオージン、アナタを倒す!」


 ドリスメギアンの放つ炎が、空をも覆う規模に膨れ上がっていく。


 しかも炎の色が、血のような赤へ。


 魂を魔力に変換している証拠だ。


「力を発せ炎魔獣! 我が内にて暴れる破壊の化身よ! お前の全力を叩きつけるべき相手だ。その身すべてがなくなるまで力を出し尽くせ!」

「あれは……ッ!?」


 ドリスメギアンは、すべての力を出し尽くそうとしている。

 あそこまで奥深い手札を揃えた男が、すべてを晒さなければいけないほどの相手が魔王様。


 いや、わかりきっていたことだが……。


「ふんむう、ま、仕方のないことだよねえ」


 世界すべてを焼き尽くさんばかりの獄炎を前に、しかし魔王様は、魔王様そのものだった。


「キミと直接会った時点でこうなることはわかりきっていたからねえ。ドリスメギアンくん、キミちょっとぼくちんを楽しませようと一生懸命すぎなんじゃない?」


 しかし……。

 そんな空気を醸し出しながら魔王様は


「でも仕方がない。じゃあ久々にドリスメギアンくんと遊ぼっか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] キャラクター的に「この世界をゲームとして楽しんでいる」ポジションかと思ったらそうでもないんですね魔王様。 自分なりに「世界を育てる」とはどういうことかを考えた結果が、 「自分を超える存在を生…
[良い点] なるほど…魔王ちゃんは常に真剣なんだな(微笑) ふざける時は真剣にふざけるし、遊ぶ時も真剣に遊ぶし…ドリスメギアンの相手をする時も(全然本気ではないケドも)実は真剣に相対している感じ… …
[一言] ドリスメギアンの魔王に向ける発言は畏敬とも侮蔑ともとれるけど、どうしても畏敬が表に出てしまうのか…
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