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225 ドリスメギアン、竜人化していた(勇者side)

「後悔しろ! オレを本気にさせたことを! 火炎魔法に焼き尽くされ、『牛鬼の脚』に八つ裂きにされた方がまだしも幸せな死に方だったと、死んでから思い知れ!」


 爆炎が巻き起こった。

 それはドリスメギアンの全身を覆う赤マントが、炎に変化したかのようだった。


「炎ッ!? 操作権を強奪できない!? するとあれは魔法炎ではない!?」

「くッ、下がるぞエステリカ!」


 ほとばしる超高熱に、アランツィルも後退を余儀なくされた。

 エステリカを抱きかかえて。


 もはや炎は天を衝くかのごとく燃え上がり、火柱のようであった。

 その中心にはドリスメギアンがいる。


 普通なら燃えて灰も残らぬところであろうが、皆が確信できた。

 あの怪物が、そんな風に死ぬわけがない。


 むしろこの火柱は、あの怪物がより恐ろしい怪物と成り果てるための儀式であると誰もが訳もなく確信した。


 事実そうだった。


 火柱が割れ、そのうちより歩み出てきた怪人は、もはやどこからどう見ても人の趣は残していなかった。


「なんだあれは……!?」

「人? いやしかし、あの全身を覆う鱗のようなものは、まるで……!?」


 竜。


 地獄のシンボルともいうべき赤マントを脱ぎ、そのうちからさらけ出された姿は、もはや人と呼ぶのもおこがましい異形であった。


 全身が竜の鱗で覆われていた。

 しかも深紅の鱗。


 燃え盛る炎のように、光の反射でさまざまに色調を変える紅蓮の赤。


 その姿は炎の化身のようであり、同時に、人と竜の相の子でもあるように見えた。


「あれが、ドリスメギアンがマントの下に隠していた姿……!?」

「違う……!」


 エステリカが言った。


「その姿は、ヤツが最初から持っていたものではない! そうでしょう! その姿こそまさに……!!」


 竜人。


「ドリスメギアン! アナタは魔獣と融合しましたね!?」

「なッ!?」


 その指摘に驚きの声を上げるのは、まずグランバーザだった。


「魔獣融合だと!? それは、その禁じられた忌術は……!!」


 グランバーザにとって苦い思いなくして思い出すことはできない。


 魔獣融合の禁術。それに繋がる魔獣使役の禁術こそ、彼の息子バシュバーザが道を踏み外すためにとった手段なのだから。


「モンスターを遥かに超える脅威、魔獣」


 この世界にたった四体。

 あまりにも貴重で、その力は唯一魔王を除いて世界最強であるという。


「その魔獣を意のままに操り、最終的には合体し、その強大なる力を己がものにする魔法……!?」

「しかしその試みは必ず失敗する」


 ドリスメギアンは……いやおそらくドリスメギアンであろう深紅の竜人が言った。

 薄ら笑みを浮かべながら。


「魔獣は、人類の手に余る存在だ。使役しようとすれば逆に精神を食われ、融合して力を我が物にしようとすれば収めきれず身体が崩壊する。魔獣が、人類を遥かに超える上位存在であるからだ」

「……わかっている!」


 しかし、そんな簡単なことがわからなかった者たちが過去何十人いたことか。

 彼の息子バシュバーザもその一人だった。


 彼は失敗続きの窮状を覆そうと魔獣の力に頼り、そして誰もがそうであったように魔獣に精神を蝕まれて、最後には死んだ。


 身の丈を超える力を得ようとした愚か者の、ありふれた末路だった。


「魔獣を求める者は身を滅ぼす。それは数百年前から変わることのない鉄則のはず。それを覆した者は誰一人いない。我が息子とて……。なのに……!」


 ドリスメギアンの成し遂げた竜人化は、魔獣の力を完全制御した証。

 誰にも不可能と決めつけられたものを今、地獄の主が可能へと変えた。


「……やはりアナタの目的は魔獣だったのですね」


 エステリカが言う。


「イダ様もそう睨んでいました。『おろしの森』に住まう風魔獣を、アナタの仲間が使役しているのを見てから。手下に魔獣を使わせていながら、アナタ自身が魔獣を求めないわけがないと!」

「さもあろう。イダならそのぐらいオレの思考は読む」


 火竜の熱を伴いながら、ドリスメギアンは余裕の佇まいを見せる。


「しかし勘違いするな。セルニーヤは風魔獣から施しを受けているにすぎん。お情けでな。オレのように完全に魔獣を制御しているのではない。オレこそが、魔獣の力を我が物にした真実唯一の存在なのだ」

「そんなのどっちでも……!」


 赤く煌めく竜の鱗。


 それは四体いる魔獣の一。炎魔獣サラマンドラのものであるに違いなかった。


 奇しくもバシュバーザが操ろうとしていたものと同じ。

 双方火炎魔導士であるだけに偶然ではないか、それでもかつての脅威がまたしても『のっそり』と姿を現し、運命の嫌味たらしさを強調つける。


「アナタがあえて他のインフェルノと別行動をとり、わざと情報を漏らして『おろしの森』へイダ様を誘い込んだもの、炎魔獣を手に入れるための時間稼ぎ!」


 時間稼ぎ要員としてセルニーヤとアボスを配置させるほどの念入りぶり。

 すべては炎魔獣サラマンドラを手に入れるための布石であった。


「フン、半分正解だと言っておこう」

「……お前が、本当に炎魔獣サラマンドラを制御できたなら、それこそ真の無敵」


 さらにグランバーザが追及した。


 魔獣の力は自然災害に匹敵する。

 人が抗える次元の力ではない。


 そんな力と融合した一人は、それそのものが自然災害となってしまうのだ。

 それほど万能の力を手に入れたなら……。


「こんなところで油を売っておらずに、早々に魔王様に挑んだらどうだ? もはやそれだけの力があろう?」

「わかってない。お前たちは何もわかっていない」


 ドリスメギアンが煩わしげに言う。


「たかだか魔獣一匹の力のみでヤツに対抗できると? 本気で思っているのか? それこそ度し難い思い上がりだ。お前たちはヤツを甘く見ている。本当に、どうしようもないほどヤツを侮っている!」

「な……ッ!?」


 ドリスメギアンの興奮的な口調に、グランバーザの方が圧倒されるほどだった。


「……オレだけだ。ヤツのことを本当に理解できるのは。ヤツの強大さも、邪悪さも、オレだけがしっかりと理解している!」


 そのドリスメギアンが判断するに……。


「……足りないのだ。オレはたしかに魔獣の力を手に入れた。それは大きな進歩だ。しかしそれだけではまだ足りない。巨大なるヤツを倒すには、必要となるピースがまだある」


 それが……。


「ダリエルだ。最初に言ったろう、オレは二つのパーツを求めていたと」


 一つ目こそが炎魔獣サラマンドラ。


「それはもうこの手の中にある。残るは一つ、それこそがダリエルだ。ダリエルと炎魔獣。この二つが我が手に揃った時こそ、オレはヤツに迫る力を完成させる。その時こそオレはヤツになるのだ!」


 目に見えた興奮と陶酔と共に言う。


「オレはもう一人の魔王となるのだ!」

「ふざけるな!!」


 アランツィルが怒号と共に飛び掛かる。


「黙って聞いていれば勝手なことをしゃあしゃあと! ダリエルがパーツだと!? 我が息子を杭か戸板扱いか! アイツはお前のためにあるのでは絶対ない!!」

「ダメです迂闊にかかっては! 下がって!」


 エステリカの制止も間に合わない。


 アランツィルは突進しながら自身の最高奥義を浴びせかける。


「『凄皇裂空』!!」


 本来飛び道具であるこの技を、接近しつつ叩き込むのは大勇者アランツィルならではの果断であった。

 使用者自身が突進する勢いを乗せ、飛ぶオーラ斬撃の速度がさらに上がる。


 急速に距離を詰められるので相手も速度とタイミングを見誤る。


 この一見理不尽な蛮勇を的確に振るうことこそが、大勇者アランツィルの強みでもあった。

 しかし今回ばかりは相手が悪すぎた。


「弱い」

「なッ!?」


 ドリスメギアンの身体に命中した『凄皇裂空』は、霞のように砕け散って消えた。


 竜人化したドリスメギアンの外皮が『凄皇裂空』の威力に勝った。

 基本的な身体の頑強さだけで、最強勇者の最強奥義を打ち砕いたのである。


「竜人の力を発揮した以上、もうお前たちに万に一つの勝ち目はない」

「ごぶあッ!?」


 紅蓮の鱗に覆われた拳が、アランツィルの腹にめり込む。

 そのまま殴り飛ばされ、アランツィルの体そのものが小石のように飛んだ。


「アナタッ!?」

「アランツィルが!? ウソだろう!?」


 起こる事態を受け止めきれない。

 伝説の大勇者が、いともたやすく殴り飛ばされたのだから。


「できれば使いたくなかった。竜人の力は、ヤツに対抗するための切り札だからな。それまではオレ自身の力だけで済ますつもりだったが……」


 魔獣の力を解放したドリスメギアンが言う。


「しかしもうおためごかしはナシだ。全力でお前たちを叩き潰し、その上でダリエルを手に入れる」

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