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21 ダリエル、横流しする

 魔王軍の旧友リゼートとの会話はまだ続く。

 終わった。


 次に話をつけるべきは人間族の方だ。


 俺は鉱山へと引き換えした。


 全権を委ねられているギルド幹部にあった。



「魔族にミスリルを売るッ!?」


 俺からの提案を受けて、ギルド幹部の人が素っ頓狂な声を上げた。


「魔族にミスリルを売るッ!?」


 二回言った。

 それだけ衝撃的だったのだろう。


「ほほほ、本気かねダリエルくん!?」

「本気ですとも。だからこそ魔族側の代表者をここまで連れてきましたし」


 俺の傍らで、リゼートがどうしていいかわからない的な表情で立っていた。

 わからなければ笑っていたらいいのに。


「ダリエルくんそれは……! 重大な裏切り行為だ……!」

「なんでです?」

「何故だと!? そんなこともわからんのグェッブ!?」


 興奮しすぎて咽た?

 まあ落ち着いて話しましょう。


「……いいかい? この鉱山はかつて人間族のものだった。しかし魔族に奪われ、以来ずっとこの地は魔族の領土だった」

「はいはい」

「それが今、やっと我ら人間族に戻って来た! 今度は我々がミスリルを独占し、魔族に欠乏の打撃を与えてやるのだ! そうすることでミスリル鉱山を奪い返した効果を最大限発揮できるのではないか!」

「まったくその通りです」


 一度、幹部さんの主張に賛同した上で、主張する。


「しかし考えてもみてください。こちらにとっての最良は、あちらにとっての最悪。魔族にとってミスリルの欠乏は深刻な問題となるでしょう」


 だからこそ……。


「魔族は必死になって鉱山を奪い返しに来るはずです。魔王軍の全力を投入してくることでしょう」

「いやダリエル……、だから魔王軍は魔王様の意向で本格的には動かない……!」

「だまって」


 余計なことを言わんとするリゼートを窘める。


「当然人間側も奪ったものを守るために応戦するでしょう。双方の大軍がぶつかり、屍山血河の凄惨な戦場となること請け合いです」

「ううむ……!?」

「屍山血河ですよ?」


 無益な血が流れることだろうし、そのために支出する防衛費もバカにならないはずだ。

 何より、その激戦の末に鉱山を再奪還されたら、それこそ元も子もない。


「ここは最悪の事態を回避するために、相手の最悪も回避してあげたらどうですか?」

「相手の最悪だと……?」

「魔族にとって、とりあえずミスリルの供給が保たれれば一息つけます。何が何でも鉱山を奪い返さなければいけない理由もなくなる」

「ふむ?」


 ギルド幹部はピクリと反応した。


「なるほど、それによって相手側の全力の攻勢を封じようと言うことだな?」

「ご明察です」

「悪くない、悪くないようには見えるが、それでもせっかく優位に立ったというのに、相手にほどこしを与えて対等にしてしまうのはなあ……!?」

「もちろん対等ではありません。主導権はこっちが握るべきです」


 実質的に今鉱山を掌握しているのは人間側なのだから、その優位性を最大限振りかざすべきだ。


「具体的にはですね……、魔族に売るミスリルの値段を……!」

「ほうほう?」

「こんな風に……」

「おい!? これは相場の四倍の値段じゃないか!? こんなに吹っ掛けられたら……!?」

「それでも相手は買い取らざるをえないでしょう」


 俺は、連れてきたリゼートに目配せする。

 ヤツは心得たとばかりに神妙な態度をとり。


「……今、我々にはミスリルが枯渇しています。一刻も早く補給が欲しい。戦ってアナタ方から奪い返すにも時間はかかるだろう。そうして時間を掛け、血を流したとしても必ず奪い返せるという保証はない」


 リゼートは、敗者の哀愁を精一杯演出する。


「労多くして功なしという結果を回避できるなら、金で解決することも厭いません。決めるのはアナタ方の側ですが……」

「我々が、この提案を受諾すれば……」


 ギルド幹部の人が迷いながら言った。


「そちらは鉱山に攻め込むことはしない、というか?」

「ミスリルが得られるなら戦う理由はない、ということです。少なくとも強硬に、最優先でやる必要はなくなる……」


 本当は魔王様から戦闘を禁じられているそうだけど、そこはハッタリで。


 ギルド幹部の頭部から激しい回転音が聞こえてくるかのようだった。


「そうだな」


 結論速かった。


「たしかにその提案に乗ることは利益が高いようだ。我々だけでなくお互いにとって」

「待ってください」


 それに口を挟む者がいた。

 若白髪のフィットビタンだった。


「私は反対です」

「何故?」

「何故も何もない。魔族は敵です。敵と手を結ぶなんてありえない」


 フィットビタンは冒険者であり、この鉱山を警備するために派遣されてきた。

 彼の仕事はここで魔族と戦うこと。


 その仕事が奪われるには抵抗を示すだろう。


「私が『何故?』と聞いたのはそういうことじゃない」


 ギルド幹部が厳しく言う。


「ただの雇われ冒険者が、上層部の方針に何故口出しできる? ということだ。お前たちに頼んだ仕事は警備と護衛。政治上の助言などクエストには含まれていない」

「…………ッ!?」


 同じ組織内で上の立場であり、かつ今回の雇用主でもあるギルド幹部に逆らうことはできない。

 フィットビタンは押し黙った。


「ダリエルくん、キミはどう思う?」

「俺は意見言っていいんですか?」


 俺もただの冒険者ですが。

 しかもD級でしかない。


「この提案を持ってきたのはキミだろう。さらに鉱山を取り戻した発端はキミにある」

「そうかもしれませんなあ……」


 では、僭越ながら……。


「こちらの魔族は、信用できる相手です」

「それだけかね?」

「それだけです。それで充分ではないですか?」

「よかろう」


 ギルド幹部は言った。


「魔族のお客人、アナタにミスリルをお分けしようではないか。適正価格でな」

「適正価格で……」

「細かいことを話し合わねばならないが、それは後々でよかろう。その代わりアナタ方は、この鉱山に攻撃を加えないこと約束できますかな?」

「この私の命に代えて。あと、できますれば人間族の方に許可いただきたいことがある」

「何ですかな?」

「我らの勝手で迷惑をかけたノッカーたちに、正式な謝罪がしたい」



「お前も苦労を背負い込むタチだなあ……」

「お前ほどじゃねえよ……」


 ノッカーとの会談も済んで、俺はリゼートと二人きりで外にいた。

 彼からの謝罪をノッカーたちは受け入れた。

 俺の仲介をもってすれば、すぐさまだった。


 ……なんでそんなに俺への信頼厚いのと怖いぐらい。


「これで魔王軍の面目はギリギリ保たれたし、ミスリルの供給ラインも残った。本当にお前のお陰だよ、助かった」

「いや、そもそもの発端作ったの俺だよ?」


 これで礼されたらマッチポンプみたいで心苦しい。


「それでも金の問題は残ったがな。相場の四倍かあ。苦しいなあ。なんで四倍なの?」

「ノッカーたちに強いたミスリルの納入量が普段の四倍だった。意趣返しとしてはいいと思わないか?」

「そういうことかあ……! でもそれだけの金額賄い切れるかなあ?」

「大丈夫だろう。バシュバーザ様が私財を投げ出せば、まあ問題ない金額のはずだ」

「え?」


 俺の発言に、リゼートが表情を変える。


「私財を投げ出す? あのバカ息子が? そんなことすると思ってるのかよ?」

「しなければ、あの人は四天王としていよいよ終わりだ。自分が岐路に立っていることに気づけなければ、あの人に魔王軍での未来はない」

「ない方が皆のためだよホント……」


 リゼートが苛立たし気に頭をガリガリ掻いた。


「ダリエル、お前本当に甘すぎるぞ。お前を魔王軍から追い出したのはあのバカ息子じゃないか。あの一件以来、魔王軍のほとんどがアイツに反発している」


 マジか?


「バカ息子が失脚したら、お前が復帰できる目もあるかもしれないのに、アイツを助けてどうするんだよ!? アイツは今や魔王軍の癌だ!」

「俺はもう魔王軍に戻る気はないよ」


 自分の本当の生まれも判明したし。

 人間族としての第二の人生を気に入っているんだ。


「それでも俺の、魔族として生きた過去は消えない。先代四天王のグランバーザ様が拾ってくれなければ、俺は生きて大人になることすらできなかった」


 その恩は生涯忘れることはできない。


「バシュバーザ様は、そのグランバーザ様の御子息なんだ」

「…………」


 リゼートは、それ以上何も言わず溜め息をつくだけだった。

 代わりに一言。


「なあダリエル。私らこれからも友だちだよな?」

「三十過ぎたオッサンの言うセリフじゃないなあ」

「この歳になって所属が変わったら、ますます繋がりがなくなるじゃないか。不安だ」


 そうは言っても、この状況から互いの線は切れないだろう。

 持ちつ持たれつやってくことは間違いあるまい。


「困ったことがあったら言いに来ればいいよ」

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