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211 ダリエル、災いを迎える

更新再開しました。

インフェルノことドリスメギアンとの最終決戦をお楽しみに下さい。

 かつて対峙した赤マントが、再び俺の目の前にいる。


 怪魔インフェルノ。


 ここ最近の異変はすべて、コイツが裏で糸を引いていた。


 ピガロ、ゼスター、アルタミルの三勇者が乱心、ミスリルを強奪したこと。

 俺と密接な係わりのある密偵セルメトを拉致し、そしてラクス村に大量の刺客を差し向けたこともあった。


 ラスパーダ要塞を襲い、消滅させた。


 人間領内でのレーディたちと『天地』のイダとの戦いも、ヤツの存在から派生した副次的なものだろう。


 ことほど左様に迷惑極まりない。


 すべての災いは、あの赤マントの内側からまろび出てきているかのようだった。

 そんな炎赤のインフェルノが、俺たちの前にいる。


「…………本当にヤツなのか?」


 俺は戸惑いを隠しきれない。


 何故なら俺は、一度アイツを殺したことがあるからだ。


 かつての息詰まる死闘。

 薄皮一枚分の差で俺が勝ったが、ほんの少しの手違いで立場が逆になったことも充分ありうる。


 しかしそれでも勝ちは勝ちだ。

 俺はヘルメス刀をヤツの脳天から叩き込み、股下まで斬り抜いた。


 インフェルノの体は縦に真っ二つとなり、あんな状態で死なずにいられる生命などいるがずがない。

 しかもヤツはそのあと、謎の発化現象を起こして死骸も残らず灰になった。


 俺はヤツの死を完全に見届けたはずだ。


 そんな相手と再び対峙することになるなんて……!


「……いや、お前は、違うな」


 向かい合うだけですぐわかった。


 コイツはかつて死闘を演じたインフェルノとはまったく別物であると。


 同じ部分と言えば精々、目が痛くなるほど鮮烈な赤色のマントだけだ。


 いかに全身をマントで覆って隠そうと、布越しに発せられる気配の質は誤魔化せない。


 かつて俺が向かい合ったインフェルノは、まさに剣の達人を思わせる気配を解き放っていた。


 凶悪な肉食魚が確実に潜んでいるとわかる湖、なのに水面にはさざ波も、波紋一つ立たない。

 そんな静けさと恐ろしさが同居する、気配を、かつてのインフェルノは持っていた。


 それは、鍛錬の極限に達した戦士が特有する気配と言えようが……。


 今のインフェルノは違う。

 今のアイツが放っている雰囲気は、あまりにも騒がしい。


 手にした力を誇示したい、自分が全能であることを知らしめたい。

 そんな欲求を隠そうとして隠し切れない気配は、魔族の魔導士特有のものだった。


 二つの社会を渡り歩いた俺だからこそ気づいたのだが、魔導士は自分が手に入れた力に対して無邪気なのだ。


 職業戦闘者というよりは研究者の意味合いが強い。

 だから研究の果てに開発した成果を、誰かに示したくて仕方がない。自分の努力を表現したい。


 そんな魔導士特有の気配を今のインフェルノは持っている。


 つまり今のインフェルノは、かつて俺が倒したインフェルノとはまるで違って……。


「……お前、魔族か?」


 と正面から聞いてしまった。

 我ながら間抜けな問いかけだと思った。もっと他に聞くべきことが色々あるだろうに。


「…………ジークフリーゲルは」


 俺の知らないインフェルノが言った。

 声音、口調からもかつてのヤツでないことが改めてわかった。


「地獄において最高の戦闘者だった。純粋に戦いの技術を追い求める。それを地獄の奥底ですらやめようとしないのはアイツだけだった。アイツだけが地獄でなお技を磨き続けた。おかげで……」


 赤マントは言う。


「ヤツはたどり着いた。オレの予見した最高の境地に、人類が達しうる最高の力を手に入れた。だからアイツを、オレの一部に加え入れてやった。地上でも有用になると確信したからだ」

「その割には……」


 気づけば俺は自然と言葉を挟んでいた。

 何かに誘い込まれたようだった。


「……簡単にアイツを見捨てたな」


 かつてのインフェルノ……ジークフリーゲルの断末魔は今でもはっきり耳に残っている。


「アイツは真っ二つになって、全身炎に包まれながら最後までお前への恨み言をやめなかったぞ。お前は仲間を裏切った」

「仕方あるまい。ヤツ以上の素材に出会ったのだから」


 インフェルノの表情は、赤マントに包まれてわからない。

 それなのにニヤリと笑う気配が、たしかに伝わってくるのだ。


「アボスもそうだ。アイツは元々ジークフリーゲルのスペアのつもりで連れてきた。あやつらは我が計画の重要要素ゆえ、何かの手違いで失うことも絶対許されないからだ」

「でも失ったじゃないか」


 それどころか失うことを何の抵抗もなく許容した。


「だから、それ以上の『替わり』が見つかったからだ。……いかんな、話題が堂々巡りしている。オレの一番興味があることを喋る時の悪いクセなのだ。できる限り詳細に述べようとして、同じ話を何度もしてしまう……」


 自嘲らしい笑みを噛み殺し、赤マントは語る。


「では率直に用件を言おう。ジークフリーゲル、アボス、ヤツらに替わるヤツらを超える素材。それはお前だ」


 俺を指さす。

 マントの中から一指し指を立てた。マントの隙間からはみでた前腕が、紅蓮色の鱗に覆われた奇怪極まる様相だった。


「ダリエル、お前の力は素晴らしい。まったくの意図の外から生まれたとは思えない完璧さだ。オレが手塩にかけて育て上げたジークフリーゲルやアボスも、お前に比べたらゴミにすぎん」

「……あ?」


 コイツ今何と言った?

 躊躇いもなく、自分の仲間を『ゴミ』と……!?


「仕方ないさ、お前のような最良の素材と出会えたのなら。ダリエル、お前こそ運命が作り上げた最高傑作だ。絶人の域に達しているといっていい。これから最高の敵に挑もうという矢先、お前に出会えたのは幸運という言葉では片付けきれない」


 インフェルノは両手を広げるような仕草をする。


「これこそ運命だ。ダリエルお前は、私がヤツを倒すために得るべき最後のピース。必ずヤツを倒すようにとオレに与えられた運命の贈り物に違いない」

「……」

「さあオレと共に来るのだ。そして人類の悲願を果たし、人類の新たなる時代を切り拓く英雄となろう。お前はそのための力を持っている。その貴重な力を使わぬまま腐らせてしまうのは罪深いことだ」

「俺を勝手に運命の道具にするな」


 ローセルウィと同じような口ぶりだな。

 語彙を徒に大きくして、自分が何か特別なことをやっているように錯覚する。


「この世界は、俺が背負うには大きすぎる。身の丈に合った人生を送るのが身上でな」

「それは自分を過小評価しているだけだ。お前には世界を背負えるだけの器量がある」

「そんなことは誰にもできない」


 誰も一人で世界を背負うことなどできない。

 だからこそ人々は助け合い、寄り添いあって、皆で世界を紡ぎあげていくのだ。


「お前は傲慢が過ぎるな。地獄で少しは反省するべきじゃなかったのかそういう場所なんだろう地獄ってのは?」

「ほう……、お前は知っているのか? オレたちが何者であるのか?」

「ああ」


 ここに来た親切な人たちが余計なことを教えてくれた。


「お前たちは罪人だ。責任ある立場にありながら、その責任を放棄し、非道の振る舞いをした。地獄に堕ちて当然だ」


 非はお前たちにある。

 俺も一部ながらインフェルノと呼ばれる者たちの悪行を、センターギルドの資料を通して見た。


 そしてもう一つ知っている。

 インフェルノが倒そうとしている『ヤツ』というのは、魔王様のことだ。

 恐れ多くも魔王様を弑逆せんとする愚か者よ。


「お前たちがその復讐から魔王様を付け狙うなら、こんなおかしな話はない。お前たちは、お前たちの愚かさから地獄に落ちたんだ。魔王様に恨みを向けるのは筋違いだ」

「………………」


 インフェルノからの返事はなかった。

 論破され、反論を失ったのかなと思ったが。


「……ククッ、クハハハハハハハハハ……!」


 唐突に笑い出した。


「カハハハハハハハハッ! カカッ! ケババババババババ……ッ!!」

「あッ、あの……!?」

「……オレが、個人的な恨みからヤツを殺そうと? そんな風に! そんな風に思っていたの!? ギャバババババババ……ッ!?」


 インフェルノは、正気を失ったようなけたたましい笑いを撒き散らしたあと……。


「……ふざけるなあぁッッ!!」


 唐突にキレた。

 なんなんだ?


「オレとヤツの間柄を、そんな矮小に捉えるな! お前ごときに何がわかる! ヤツの巨大さを、ヤツの有害さを真に理解できるのはオレだけだ! 何もわからんヤツが知った風な顔で口出しするな!!」

「あッ、はい」

「オレだ! オレだけがヤツを本当に理解できるのだ! ヤツのすべてを、ヤツの本質を知りうるのは三千世界において、このオレしかいないのだ!」


 なんという自信だろう。

 ヤツの放つ気炎から本気で言っていることがわかった。


「ならば聞かせろ、お前は魔王様の何を知っている」


 気になって、さらに煽ってみたくなった。


「そこまで自信ありげに語るお前は何様だ? 言ってみろ聞いてやるから。お前が何ほどの者なのかな」

「……いいだろう。このオレこそは『魔王にもっとも近い』と言われた者」


 それはかつて聞いていた、予想通りの名前。


「かつての魔王軍四天王の一人『沙火(しゃか)』のドリスメギアン。お前たちの遥か先を行く者だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] イッちゃってる相手には話が通じないな…それでもワザと煽るとは、流石元四天王補佐は人が悪い(笑)
[一言] あッ、はい ダリエルニキドン引きの巻きw
[一言] 完全にこじらせたヤンデレのホモにしか見えなくなった・・・
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