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208 勇者レーディ、引き継ぐ(勇者&四天王side)

 それからさ僅かに時が経過して……。

 噴火のような勢いで土が飛び散り、土中から這い出したのは、エメラルドのような輝く鱗を持つ竜人。


「……ちゃんといてくれタカ。よかった、逃げ出されていたら追うのが大変だッタゾ」

「逃げはしない。私に与えられた使命はインフェルノの討伐だ」


 睨み合うイダが応える。


「お前もインフェルノの一部である以上、討たねば魔王様の意に添わぬ。きっちり片付け、その上でドリスメギアンを追おう」

「そうさせないために私がイル。今しばらく相手を務めてもらおウカ」

「いや、すぐに終わらせる。足手まといがいなくなった今、私は全力でお前を消し去ることができるのだぞ!」


 イダが掲げる両腕。

 それと呼応するように現れる光の壁が、セルニーヤ目掛けて迫る。


「『イレイザー・エンド』! 私の空間操作にはこういう使い方がある! 空間諸共あらゆるすべて消滅させる魔法壁、お前の風で防げるか!?」

「このような奥の手を持っているトハ。さすがヴァルハラの猛者」


 セルニーヤが魔獣の力を借り、いかに大嵐のような強風を吹かせても、気体という物質である限りはイダの空間消滅壁に触れた傍から抹消されるしかない。


 無敵と思われた竜人にすら対抗しうる最後の手段を持つ。それが歴代最強と呼ばれる所以だった。


「さすがにあれをくらえば私も生きてはいられンナ」


 防御はできなくても、風に乗って空を飛ぶことはできるセルニーヤ。

 回避することは簡単だった。


 壁を飛び越え……。


「今だ!」

「食らうでござる!」


 左右から飛びかかる二つの影。

 ハンマーを振りかぶるゼスターと、槍を突き出すセッシャ。


 跳躍したかわすことは読まれていた。

 その隙を突いて加えられる追撃は……。


「浅いナ」

「「ぐあああああああッ!?」」


 セルニーヤを中心に拡散する突風に押し返された。


「どんな切り札を隠しているかと思えば、この程度ナノカ? よりにもよって現世の者たちに望みを懸けるトハ。ヴァルハラの使徒を買い被っていたようダナ?」


 遅れて背後から襲い来るさらなる影。

 三つ目の追撃者はレーディだった。


 先にゼスター、セッシャが襲い掛かることで、注意を散らし、陽動に陽動を重ねて満を持した末に最後の攻撃。

 真の本命がレーディであった。


「だから甘いというノダ」


 振り向きざまにセルニーヤ。鋭い爪の手刀を繰り出す。

 竜の鱗と爪を得て、魔力で強化された手は人の体ぐらい容易に貫く。


「ここに何人いたが忘れる私だと思っタカ? 隠れて様子を窺っていることぐらい予想デキル。全員出尽くすまで油断などシナイ」


 それでもレーディには前の問答で警戒心を強めたのか、確実に息の根を止めようと必殺の攻撃を繰り出す。


 突き出された手刀がそれだった。


 攻撃動作の真っ最中であるレーディは回避などしようがなく……。

 指先が腹部へと突き刺さる。


「勇者様!」

「レーディ殿!」


 吹き飛ばされた男たちが叫ぶが、それすらも敵を油断させる演技に過ぎなかった。

 まだ事態は予定通りに進んでいる。


「!?」


 セルニーヤも指先から伝わる感触で異変に気づく。


「なんだこの硬さハ……!? 貫けナイ!?」

「やっと気づいたか愚か者」


 レーディの背後に、ドロイエとサトメが張り付いていた。

 一塊になって、共にここまで飛びかかってきたらしい。


「アナタが気づいて反撃するのも予想のうちです! 対策はしっかりできています!」


 よく見ればレーディの腹部が、硬い泥土に覆われていた。

 ドロイエが地魔法で発生させたものが、仕込み鉄板のようにレーディを守った。


「それだけでは足りないかもしれないので、私のガード(守)オーラをたっぷり流し込んであります! これでそう簡単には突き破れませんよ!」

「四天王の私がこうまでして勇者を守らねばならんとは……! しかし、最後の一手をコイツが担っているのだから仕方がない!」


 レーディ、二人のサポートを受けて大きく剣を振り上げる。

 既に充分な間合いに入っていた。

 このまま振り下ろすだけでセルニーヤの頭部をカチ割ることができる。


「愚かナ! いくら死守しようとこちらには、お前たちを阻止する手段などいくらデモ……!」


 実際その通りだろう。

 ゼスターセッシャを退けたように、セルニーヤ自身を中心として突風を発生させるだけでも充分にレーディたちを押し返せる。


 しかしその前に……。


「わたくしの出番なのだわ!」


 今度はゼビアンテス登場。


 レーディの剣を両手でつかむ。


「何をしてイルッ!?」

「さっきと同じことなのだわ! レーディちゃんの剣に魔力を込めてやったのだわ! わたくし渾身の真空魔法を!」


 気圧を極限まで下げ、すべてが無である状態を作り出す真空魔法。


 それとレーディの『裂空』を組み合わせた人魔結合攻撃は、これまでいくつもの局面で切り札となった。


「しかし今度はちょっくら違うのだわ! 今まではわたくしの真空魔法とレーディちゃんの『裂空』と合わせていたけれど……! 今度は……!」

「『断空』!!」


『裂空』ではなく『断空』。


 オーラ操作の裏技で空間を断ずる切れ味を持たせた断空に、あらゆる『有』を拒絶する真空の特性を合わせれば。


 空間断裂以上の凶悪な切断力が生まれる。


「ぬあああアアアアッ!」


 その刃は、セルニーヤが生み出す突風すら斬り裂いて、それ諸共……。

 セルニーヤ本体に斬り込み。


 両断して斬り裂いた。


「ぐあああああああアアアアーーーッ!?」


 それだけではない。

 勢い余ってセルニーヤの足元の地面が割れ、引き裂かれて深々と長い断裂が巻き起こった。


 一刀でこの威力。


 空間切断と真空を合わせた必殺技の威力は『凄皇裂空』を比しても遜色ない。

 むしろ鋭さでは、こちらは上であるように思えた。


 理論上、斬れないものなど何もないはずであるから。


「ぐおおオオッ! まだダ! まだダアアアアアッ!!」


 一刀両断されながらも、セルニーヤはしぶとく踏みとどまる。


「今の私なラ! ウィンドラの無尽蔵の魔力をもってすれば亡者体のほんの僅かな再生能力ヲ! 『エインヘリヤル体』並みにまで引き上げられるハズ! それでこの程度の傷などオオオオッ!」


 しかし傷は一向に塞がる気配を持たない。


「バカナッ! 何故ダッ!? 魔力が足りぬと言うノカッ!」

「いいえ、問題はアナタにあるんじゃありません」


 レーディ言う。

 渾身の一刀を繰り出し、その一刀で体力を使い果たして息が乱れる。


「私たちの攻撃のせいです。空間すら斬り裂く『断空』に、ゼビちゃんの真空特性まで加わった。その究極の刃で斬り裂かれたものは、元通りくっつくこともありません」

「再生を封じる攻撃ダト……!? グヌ、グオアアアアアアアッ!?」

「……私たちとアナタたち、魔王を倒すという目標は同じなのかもしれない。でも、どうしてそれを目指すのか、どうやってそこまで到達するのか、それらがあまりにも違い過ぎて、とても私たちは同じとは言えない」


 体を両断され、再生も叶わず、これではいかに魔獣の力を手にした竜人と言えども自己を保つことができない。


 ゆっくりと、生命力を失って崩れ去っていく。


「私は魔王を倒します。勇者の務めとして、それを目指して進んでいく。でもその先に人々の幸福が伴わないなら何の意味もありません。私が魔王を目指すのは、この歪んだ世界の正体を知り、よりよくするため!」

「オ……、オ……!」

「私は魔王を倒し、今よりいい世界を作り出してみせます!」


 レーディの宣言が届いたのかどうか。


 真っ二つにされたセルニーヤは、その断面から炎を吹き上げ、見る間に全身に燃え広がって燃焼した。


 それが先にダリエルによって倒されたジークフリーゲルの最期に酷似していることを誰も知らない。


 亡者は、地獄より這い出してなお炎に焼き苛まれる運命なのか。


 炎に包まれて焼き尽くされて、亡者セルニーヤは無へと還った。

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