202 ドロイエ、コンビネーションを試みる(勇者&四天王side)
何故こんなところに来てしまったのだろう。
ドロイエは、まずそこから疑問に思った。
長いこと探しあぐねていたダリエルが発見された。
それがすべての始まりのはずだった。
再びダリエルを旗下に収めるため、何日でも粘るつもりで交渉に臨んだ。
しかし返されたのはすげない拒絶。
ダリエルは既に新しい生活の基盤を築いて、元の身分に戻る可能性など微塵も残していなかった。
それを目の当たりにして大人しく引き下がったのもドロイエの真面目さゆえであろうが。
しかしダリエルを手に入れられないとわかったがゆえだろうか。
唐突に訪問してきた『天地』のイダに対して『自分も連れていってほしい』と懇願したのは。
ダリエルを得られないならせめて自分自身が強くならなければ。
四天王の使命を果たすことなどできない。
偉大なる先人から学び、パワーアップできるチャンスだと。少しでも魔王の役に立って、実績を上げるチャンスであると。
ドロイエは戦いに押しかけ参加した。
しかし結果はどうだ。
敵は想像以上の手錬、またしても圧倒されるばかり。
実績を上げるどころか却って醜態を晒そうとする時に、救援に現れたのはよりにもよって宿敵、勇者だった。
本来四天王が最後の標的にするべき勇者に。
度重なる屈辱。
もはや自信を失いかける。
しかしそんな中、彼女にやれることを唯一示してくれたのも勇者だった……。
◆
勇者は敵の下へ向かい、決死の接近戦を挑む。
そのお陰で後方はほんの僅かな余裕に恵まれるだろう。
「ゼビアンテス……」
「はいだわ?」
隣にいる同僚に呼びかける。
「まず言っておくことがある。私はお前が嫌いだ」
「いきなりぶっちゃけたのだわ!?」
「当たり前だろう。同じ四天王でありながら使命を果たそうとせず遊び呆けてばかり。お前が働かいないせいで、こちらにどれだけのシワ寄せが来ていると。当代の四天王がまともに機能できないのもお前とバシュバーザのせいだ。ずっとそう思っていた」
「さすがにあの大バカ野郎と一緒にされるのは心外だわ!」
「しかし今は、お前に頼るしか勝つ術はないらしい。四天王の誇りを守るには! ゼビアンテス、力を貸す気はあるか?」
「あたぼーよだわ!」
ゼビアンテス、腕まくりするような動作を見せる。
「わたくしにだってプライドはあるのだわ! バシュバーザの同類扱いは撤回してもらうのだわ!」
「よかろう、この試みに成功すればな……!」
「何をしようとしているかは大体わかっているのだわ」
ドロイエとゼビアンテス、手を繋ぎ合う。
互いの魔力を同調させるためだった。
敵魔導士セルニーヤは、世にも珍しい複合属性の使い手だ。
地と風。二つの属性の長所のみを組み合わせ、地の重さと風の速さを複合させた。
それは神技と言っていい域であったが、それに対抗するにも尋常の手段では間に合わない。
幸いと言うべきが、ドロイエ側にも達人級の地属性と風属性が揃っていた。
「問題は、我々の魔力を上手く同調させられるかだな。性格が正反対なのに……!」
「自由闊達なわたくしと、頭ガッチガチのドロイエちゃんとではまさに水と油なのだわ!」
「真面目とちゃらんぽらんではないか!?」
しかし、口で言うほど互いに嫌い合ってはいないらしい。
異なる二者の魔力は驚くほどスムーズに融合していき、一つの形を成していく。
形成はむしろ簡単だった。
優良な手本が、目の前に示されているのだから。
「戦いで学びたいとは思ったが、まさか敵から学ぶことになるとはな!」
ゼビアンテスの吹かせる豪風に、ドロイエの魔力が乗る。
セルニーヤがしているように極小の礫を……。致命傷になりうる最小限の硬さと重さを与え、それでいて風に乗るだけの比重を確保し……。
「なんて微細な調整だ!? あの男はこんな繊細な魔法動作を戦闘中に行っていたのか!?」
「風の方だって無茶大変なのだわ! 吹かせる方向を計算しないと石と石がぶつかり合うのだわーッ!!」
実際に真似してみて初めてわかる、神業の脅威。
とにかく見られるだけの形にまとめあげた見様見真似の礫風を打ち放つ。
あくまで攻撃のために作り上げた複合魔法なのだから。
「吹き散らせ!」
「行くのだわああああーーーッ!?」
礫という凶器の混じった風が飛ぶ。
その大元のセルニーヤに向けて。
「ぬううううううウウウウウーーーーッ!?」
その時、セルニーヤはレーディに手を焼かされていた。
至近距離まで張りつかれて、それでも微細に操る礫風はレーディに降りかかって無数の痣を体に作るが、それでも彼女は怯まない。
見かけによらず根性の闘士であった。
そんな彼女に引っかき回されたせいで、ドロイエたちに逆転の呼吸を整える暇を与えてしまった。
「小癪ナ!」
セルニーヤもまた本家本元の礫風を拭かせ、若き後輩たちの逆襲に対抗する。
二つの礫風が正面からぶつかり合い。砕けた風が四方八方へと散っていく。
カカカカカカカカカカカカカカカッ。
とやけに耳障りのいい音が無数に鳴った。
風に含まれた礫がいくつもぶつかり合っている音だった。
互いの魔力のぶつかり合いは……。
「互角ッ!?」
「ちょっと待って!? なんで互角なのだわ!? こっちは二人がかりなのだわよ!?」
ゼビアンテスががなり立てるのももっともで、扱う魔法が同種なら、純粋に魔導士の魔法能力が勝敗を決めるはずだった。
ならば二対一。一人で魔法を繰り出すセルニーヤより二人がかりのドロイエたちの方が有利なのは考えるまでもない。
それなのに一進一退で攻め抜ききれないということは……。
セルニーヤ一人分の魔力量、魔術技量が……。
……ドロイエ、ゼビアンテス二人分に匹敵しているということだった。
「ぎゃーッ!? わたくしらこれでも現世代最強のはずなのだわ! それの二人がかりと互角なんてどんだけ達人級なのだわーッ!?」
「まさに達人……! こんな逸材が地獄に落ちていたなんて」
何とも理不尽な話だとドロイエは思った。
こんな珠のような才能の持ち主が、どうまかり間違えば地獄に落ちるのかと。
「それを知るためにも負けるわけにはいかん……! ゼビアンテス! もっと呼吸を合わせろ! 私たちに今すぐできる向上はコンビネーションだけだ!」
「わ、わかったのだわ!」
「もっと礫を上手く乗せる風の吹かせ方を研究しろ! 礫を還流させる方向も! 私もより硬くて重い礫の絶妙な配合を突き詰める!!」
戦いながら、より効率的な魔法の運用法を研究し、向上させていく。
難しいことではなかった。
手本は目の前にあるのだから。
歴史に名を遺すレベルでの魔法達人セルニーヤの一挙手一投足が、若いドロイエたちにとって珠玉の教材であるかのようだった。
もっと学びたい、もっと強くなりたい。
そんな思いで戦うほどであった。
「……小癪な娘らガ……!」
セルニーヤもそのことに気づいていた。
敵は自分から学んでいると。
複合属性。正道から外れた技だと蔑まれ、彼が地獄に落ちる原因ともなったこの技を。
正規の四天王たちが悪びれもなく学ぼうとしている。
その虫のよさに。
「どこまで舐めるカアアアーーーーーッ!!」
怒りと共に風の勢いが増す。
ドロイエたちが吹き飛ばされんほどに。
「ここに来てパワーアップはズルいのだわあああーーーッ!?」
「ふんばれ! ここで押し負けたら敵の分と私たちの分、すべての礫が降り注ぐことになるぞ!」
そんなものを正面から浴びたら、ドロイエたちは原形も残るまい。
「大丈夫だわ! 次の一手が動いたのだわ!」
そう。
セルニーヤと戦っているのはドロイエとゼビアンテスだけではない。
途中から乱入した頼れる助っ人が。
レーディがいた。
「やああああああッ!!」
剣をかまえ駆け寄るレーディ。
魔法戦で手いっぱいのセルニーヤへ向けて。
剣を振り下ろすだけで簡単に勝負が決まる。
「舐めるなと言ってイル!!」
しかしセルニーヤも達人の中の達人。
レーディに向けて片手を掲げ、別の風を起こして礫をぶつけてくる。
「別ベクトルの魔法を同時使用!?」
その神業の前に驚愕を隠しきれないドロイエ。
このままではレーディは特大の礫風に吹き飛ばされるが……。
「やあああああああッ!!」
しかしレーディは逆に、その剣で、襲い来る礫風を斬り分け進む。
魔力で発生した風も、その中に含まれる礫も関係なしに両断された。
「バカナッ!? いかにオーラで強化しようとただの剣に我が礫風ハ……!?」
そこまで言って、ある事実に気づくセルニーヤ。
「その刀剣マサカ!? 空間ゴト……!?」
「『断空』!」
これもまた怪物級の魔導士『天地』のイダとの戦いで得た必殺技が、今ここで輝く。
礫風を強行突破したレーディの剣が、怪人目掛けて振り下ろされた。
血煙が上がった。






