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199 集団戦、始まる(勇者&四天王side)

「く……ッ!!」


 イダの表情が変わった。

 焦り逼迫したものに。


 無敵を思わせるイダですら慌てさせるほどに、魔獣の存在は由々しき脅威。


「お前たち! そこのドリスメギアンの部下たちを倒せ!!」


 悲鳴にも似た叫び声。


「風魔獣には私とエステリカで当たる! 一番ヤバいのを我々が抑えている間に本体を叩け!!」

「えッ! まさか……!?」


 自分たちへ向けられて言っていると理解するのにレーディたちは少しの時間がかかった。


「使役魔法を使う本人さえ倒せば魔獣は解放される! もっとも効率的な方法だ! いいな任せたぞ!!」


 魔獣が放つ咆哮。

 風を司るためか、鳴き声自体が空気の弾丸のような打撃力を持っていた。


 イダの空間歪曲さえ突き抜けて、彼自身へと容易に届く。


「ぐあッ!?」

「イダ様!」


 エステリカがどこに隠し持っていたのか、一振りの剣を抜き放っていた。


「さすがのイダ様でも魔獣相手にお一人では荷が重すぎる……! 私は加勢に向かう!」


 残る一同へと言う。


「イダ様の作戦通りに! 私と彼とで風魔獣と抑えている間にアナタたちがインフェルノたちを倒すんです! 現世の者たちに頼るのは不甲斐ないですが、こうなってはアナタたちしかいない!!」


 そして助力とばかりに空中の風魔獣目掛けて飛び立っていった。

 ヴァルハラの使徒、普通に飛ぶ。


「しかし甘く見てはいけません! 地獄に落ちたとて過去歴代に名を連ねた四天王と勇者です! 格上と思って当たりなさい!」


 そこまで言い残すと巨竜に剣を振り下ろし、しかしロクに斬り裂けないまま反撃の強風を受けて声も姿も掻き消された。


 もっとも頼りになる異人を欠いて、本来の地上最強たちが怪人たちへと向き合う。


「えー? わたくしたちがやるしかないのだわ? あのつよそーな人たちに全部任せて楽できると思ったのにー?」

「甘えたことを言うな。元々そのつもりだったのだから奮戦するまで」


 不真面目なゼビアンテスをよそにドロイエはやる気であった。


 視界に収める二人。

 この世のものではないほどに不気味で怪しい。


「アナタたちは、あっちの細長い方を頼みます」


 そう言って進み出るのは勇者レーディだった。

 敵であるはずのドロイエと並び立つ。


「……まさかお前と同じ側で戦うことになるとは……!?」

「それだけ今の事態が異常ってことでしょう。そもそもダリエルさんと関わった時点で色々常識が覆るんだから、そこは慣れるしかありません」

「…………」


 ドロイエは何と返していいかわからず言葉を失う。


「……て、敵は二人だ。数の上では圧倒的にこちらが有利。……細長い方を我らに任せるとは?」


 敵インフェルノは二人に分れ、痩せ細った長身と、筋肉で分厚い短躯の男とに並んでいる。


「会話からして長身は魔族、小さい方の人は人間族のようです。互いに同族を相手にした方が手の内も読みやすい」

「かもな……、だが私たちはあの鎖使いと以前戦った経験がある」


 手も足も出ないまま圧倒される苦い記憶が甦る。


「オーラのこもった十本の鎖は、私の土岩障壁すら容易く打ち砕いてきた。恐ろしい相手だぞ。お前らごときに凌ぎ切れるか?」

「アドバイスしてくれるんですか? 優しいですね」


 そう指摘されて却ってドロイエは鼻白む。


「でも大丈夫、打鞭系の対処もダリエルさんから叩きこまれました。後れを取る私たちじゃありません。……サトメ! セッシャさん! ゼスターさん!!」


 共に戦う仲間たちの名を呼ぶ。


「私たちの敵はあの背の低い人です! 使用武器は鎖! ヒット(打)オーラに適性がある人と見ました! 攻撃範囲に注意して四方八方から攻めたてます!」

「「「承知!」」」


 打てば響くようにパーティメンバーたちは散じ、それぞれまったく違う方向から鎖使いアボスに迫る。


「……ウゼェ」


 対応としてしなる鎖。

 かつてラスパーダ要塞で猛威を振るった十本の鎖撃。その前に当代四天王たちは手も足も出なかったが、今度はそれが現役勇者たちを襲う。


 しかし。


「……!」


 レーディたちは鎖の軌道を正確に読み取り、巧みにかわしていく。


「当たらねえ!? ちょこまかと……!?」

「鎖の軌道が素直すぎますね! もっとフェイントを混ぜないと永遠に当たりませんよ!」

「んだと!? 小娘の分際で……!?」

「ダリエルさんのヘルメス鞭はもっとえげつないタイミングで滅茶苦茶に軌道を変えてきます! それに比べればアナタの鎖は初級編です!」


 防ぐことなくかわすことを駆使するレーディたちは、アボスに対しても充分に渡り合える。


「ヤツら……、前に戦った時とはまったく違う」


 ダリエルの下で修行した成果が、如実に表れていた。

 彼女らとの戦闘経験があるドロイエだからこそ変化がわかる。


 あの戦闘能力が直接向かってきた時どうなるか。


 その想像にドロイエの背筋が凍った。


「ドロイエちゃーん。あっちに見とれている場合じゃないのだわ」


 ゼビアンテスに呼ばれてハッとなる。


「わたくしたちも担当分を片付けるのだわ。それに手間取ったら、それこそ四天王の名折れなのだわ」

「た、たしかに……! 気を引き締めるぞゼビアンテス!」

「わたくしは既に臨戦態勢なのだわ」


 ゼビアンテスとドロイエ。


 二人の四天王が揃い踏みで対峙するのは、生命感を伴わない異形の痩身。


 まるで枯れた木枝のごとく痩せ細った体は、本当に生命体なのか。

 そう思えるほどに頼りない。


「風魔獣を操っているのがアイツなら、アイツさえ倒せばあの偉そうな子どもの手が空くのだわ」

「偉そうな子どもってイダ様のことか? 無礼な物言いをするな。我らの偉大な先達だぞ。……もっとも、それは目の前にいるアイツも同じようだが……」


 痩身の魔導士は、沈黙を保ったまま美女二人を見下ろすばかり。

 あちらから仕掛けてくるつもりはなさそうだった。余裕か。


「アイツ昔の四天王らしいけど、心当たりはないのだわ? わたくしは興味がないから絶対知らないのだわ」

「威張って言うことか!? ……しかし、私も知らないだろうな。ドリスメギアン同様、存在を抹消されている可能性が高い」


 それが地獄に落ちると言うことなのだから。


「話の内容からして得意とする魔法は風らしい。お前と同属性だ。分析は任せたぞ」

「いやーん細かいことは嫌いなのだわー」


 とにかく睨み合っていては埒が明かない。

 まずは前口上から入る。


「私は魔王軍四天王が一人『沃地』のドロイエ!」

「同じく『華風』ゼビアンテスなのだわー」


 名乗りから始める辺りにドロイエの真面目さが出ていた。


 対する敵は嘲笑で返す。


「それで? まさか私からも名乗り返せとでも言うノカ?」

「過去であろうと誇り高き四天王の座についていたのならば、最低限の礼儀は弁えるべきだ。それを汲み取り問うてやる、貴様は何者だ!?」

「お嬢サン。魔軍の頂点に立つにはあまりに可憐で夢見がちダ。その可愛さに免じて、これを回答の代わりとシヨウ」

「うわッ!?」


 風が吹きつけてきた。

 いきなりのことでドロイエもゼビアンテスも顔を手でかばう。


「この突風がお返事!? いー了見なのだわ! 要するに殴り返してきたってことなのだわ!」

「もう一方のお嬢さんはお転婆ダナ。なかなか口汚イ。しかし私の自己紹介は既に始まっているゾ?」

「は? どーいう? ……いたッ?」


 突如表皮に走る痛みにゼビアンテスは悲鳴を上げた。


「いたッ!? いたたたたたたッ!? いたいた痛い!? 何なのだわ? 体中がぽつぽつ痛いのだわ!?」

「体に何か当たっている!? 小さくて硬い……? 石?」


 少しずつわかってくる。


 石であった。

 小指の先程度の小さな石が、風に交じって飛んでくる。


 しかも無数に。


 それがゼビアンテスやドロイエの体に当たって痛みを伴わせているのだ。


「痛い痛い!? いだだだだだだだだッ!? どんどん数が増えていくのだわ! 痛みも増しているのだわ!?」

「威力が上がっている、これは……!?」


 小石交じりの猛風を浴びる二人は、身を屈めて耐える。

 もはや耐えきれないほど、小石の飛ぶ数も速さも増している。


「これが私の固有能力にして名前ソノモノ……」


 敵の魔導士が言う。


「魔王が私に与えた称号は『礫風』。私はかつて魔王軍四天王の一人、『礫風』のセルニーヤ、ダ」

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― 新着の感想 ―
[一言] >>礫風 ゼビアンテスは露出が多いから痛そうですねw
[一言] はじめの頃はダリエルが追放されて村にたどり着いて、 きれいな娘さんと知り合って、でしたか。 そこから村長となりダリエルの奮闘記になるかと思っていましたが、あれよあれよと登場人物が増え、 読み…
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