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01 ダリエル、森を彷徨う

 俺の名はダリエル。


 魔王軍に所属する暗黒兵士。

 ……だった。


 今となっては昔の話。

 魔王軍を解雇され、晴れて無職となった俺は、何処とも知れず彷徨うばかりだった


 四天王の方々の言うことは正しい。


 俺は無能の出来損ないだ。


 魔族のくせに魔法を使うことができない。

 多少才気走っていれば子どもでも使えるようになる魔法を。


 だからオレは魔王軍に入ってもずっと暗黒兵士のままだった。


 暗黒兵士は最下級だ。

 その上に暗黒騎士とか、暗黒将軍とか、色々な位があって、暗黒兵士はその一番下だ。


 そんな俺が四天王補佐という役職に就けたのは、ひとえに先代四天王様による抜擢があったから。

 しかしその先代も、勇者との激闘によって深手を負い、引退を余儀なくされた。

 そして新たな四天王になったのが、あのバシュバーザ様たち。


 時々によって変わる情勢で浮かびもすれば沈みもする。

 俺の立場はそんな不安定ではかないものだったのだ。


 それにも気づかず、こうして今もショックを引きずっている俺はなんと浅はかなのか。


 ……これからどうしたものか。


 齢三十二歳。

 こんな年齢になるまで魔王軍一筋の人生だった。

 今から他の生き方を選び直すのは相当辛いだろうなあ。


 先代四天王のグランバーザ様にお縋りするか?


 グランバーザ様こそ、暗黒兵士にすぎない俺を補佐に据え、公私に渡って可愛がってくださった張本人。

 あの方に相談すれば新たな働き口ぐらい紹介してもらえるかもしれない。


 ……いや、ダメだ。

 グランバーザ様からは、引退の間際に言われたのだ。


『息子をよく助けてやってくれ』と。


 現四天王のバシュバーザ様こそ、グランバーザ様の御嫡男。

 大恩人の息子をお助けする目的あってこそ、俺はあの方が去った魔王軍に残ったのだ。


 それを、男の約束を果たすことができないまま、どの面下げて会いに行くことができようか?

 そうでなくとも、グランバーザ様は勇者から受けた傷が深くて療養中。

 引退の原因にもなった傷が治ってないのに、不安になるようなことをお知らせすることはできない。


 結局俺はこのまま静かに消えていく男なのだ。


 魔法も使えない。

 能無し。


 こんな俺がいなくなったところで誰が困るだろうか。


 俺はそういう男なのだ。

 無意味で無用の男なのだ。


 ならばいっそ消えてしまおう。

 魔族の領土から出て、どこへなりとも消え去ってしまおう。


 そう思って歩き続けた。


 歩いて。

 歩いて

 歩いて……。


 絶望がマヒして感覚がなくなるまで……。



 いや、ホント歩いたな。


 あれから何日経った?

 もはや日数の感覚もあやふやなんだけど?


 気が付けば森の中。

 まったく見覚えがなく、自分がどちらの方角から来たのかすらおぼろげだった。


 要はここがどこかもわからない。

 何処でもいいから逃げ去りたいという願望だけは叶ったように思える。


 ただしここからが問題だが。

 野草やらを毟って多少の飢えは凌げていたが、そろそろ限界かな?


 これからどうすべきか?


 そう考えていたら……。


「キャアアアアアアッ!?」


 森の奥から悲鳴が響き渡った。たしかにこの耳に届く。


「ッ!? 悲鳴!?」


 こんな森の中で?


 聞いたからには無視するわけにはいかない。

 悲鳴が飛んできた方向へ向かって駆けだした。


 割とすぐに到着した。


 鬱蒼とした森の中、年若い女性が、何者かに襲われている。

 本当に緊急事態だったようだ。


「とーう!」


 すぐさま現場に飛び込むと、女性を庇うように立ちはだかる。


「か弱い女性が襲われている、って理解でいいな?」

「えッ? あ……ッ!?」


 女性は、闖入者に戸惑っているようだが無理はない。


 対して襲っている方は……、と注意を向ける。最初は人かと思ったが、違った。


「……猿か?」


 二本足で立ってはいるが、毛むくじゃらで牙剥き出しの獣は、俺に対してグルルと唸り声を上げる。

 猿とは言っても、大きさは俺とほぼ同等。


 まともな殴り合いになれば、俊敏な獣の勝ち目が濃厚だろう。


 やはり役立たずな自分が恨めしい。


 これがまともな魔王軍の精鋭なら、魔法一発で丸焼きにできるだろうに。

 初歩的な火炎魔法すら使えない俺は、なんて無能なんだ本当に。


「クソ……ッ!」


 せめて体当たりで怯ませようとするが、猿は見た目通りに素早く、俺のヘロヘロタックルなどかわしてしまう。


 やはり空腹が応える。体に力が入らない。


「この、せめて……!」


 女性が無事逃げ切れる程度の時間稼ぎだけでも……!?


 何か方法はないか?

 こんな無能な俺でも他人を助けられる、何か方法が……!?


「!?」


 苦し紛れに周囲を見回す俺に、あるものが目に映った。


 キラリと金属の輝き。

 鋭く先の尖った。


「……武器?」


 たしかナイフというヤツ。

 人間どもが我ら魔族に対抗するために作りだしたもの。


 森中に都合よく落ちてるってことは、襲われた女性の持ちものか?

 襲ってきた猿に対抗しようとしたが扱いきれずに落とした?


 ということは彼女は人間?


 いや、そんなことはどうでもいい。


 人間の作った武器に頼るなど魔王軍兵士の恥だが、今の俺はもう魔王軍じゃない。

 危機を脱するために使えるものは何でも使わせてもらう。


「でやッ!」


 なんとかナイフを拾い上げ、大猿に向けて切っ先を向ける。

 かまえ方はこうでよかったか?

 昔戦った勇者パーティはどう使ってたっけ?


「キキィイイイッ!!」


 猿が飛びかかってくる。

 乾坤一擲!


「どぅりゃあああああああッ!?」


 突き出すナイフから、肉を刺して掻き分けるおぞましい手応えが伝わってきた。


 大猿は、突撃の勢いのまま俺に覆いかぶさるが、それ以上はピクリとも動かず、絶命した。


「……上手くいった」


 確認してみたが、ナイフは大猿の左胸に深々と突き刺さっていた。

 肋骨と肋骨の隙間を通って、心臓を直撃した。


 勇者の仲間がやってるのを真似しただけだが、ここまで綺麗に決まるとは。


 とりあえず俺。

 猿に勝った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「とーう!」 [一言] 緊迫感ない感じでちょっと萎える
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