197 敵同士、共闘する(勇者&四天王side)
「会えて嬉しーのだわ! ラクス村にいなくなってたから、もー会えないかと思ったのだわ!」
「そんなことないよー! 私とゼビちゃんはズッ友なんだから会いたい時にいつでも会えるよー!」
美女二人、両手を取り合ってその場でぴょんぴょんする。
あまりにも和やかな空気に、その場に集う全員が弛緩した。
「あの……!?」
「これはどういう……!?」
状況を理解できる者、理解できない者、様々だった。
理解できない者は困惑によって立ち尽くし、理解できる者は呆れによって立ち尽くした。
「はッ!? ……待って、ゼビちゃんが一緒にいるということは、この人たちは悪者じゃない!?」
「ザッツライ! そのとーりなのだわ!!」
思い違いが払しょくされた。
あらゆる闘争の種がゼビアンテス一人によって駆逐される。
「わたくしたちは、この森の奥深くにいるというボンジョルノを捕まえにきたのだわ! あるいはブチ殺しにきたのだわ!」
「インフェルノだぞ」
「レーディちゃんたちも同じ目的で来たのだとお見受けしたのだわ! ここは力を合わせて一生懸命戦うのだわ!」
対してレーディは……。
「もちろんだよ! 名コンビ再結成だね!」
「やったるのだわー!!」
固く腕を組み合う二人だった。
もうついていけない。
「というわけでレーディちゃんたちと一緒に戦うことになったけど、かまわないのだわ!?」
「お前が既にまとめただろ」
ゼビアンテスの一人勝ちで、互いが敵対関係でないことを了承した両者。
釈然としないながらも情報を交換する。
「ドリスメギアン……、いやインフェルノを追ってここまで来た。目的が同じというなら協力し合えるかもしれぬが、どうか?」
「ひょっとして、前に領地侵攻してきた時も」
「そうだが?」
イダとのやり取りに勇者側キレる。
「だったら最初からそう言うでござるよ!」
「あんな派手に蹴散らしてきたら誰でも侵攻と思いますよ!!」
「迷惑極まりない!」
非難の嵐。
「なんだと、お前らだって問答無用で迎撃したろうがよー」
口論となっている隣で、新たな邂逅がなされていた。
「あッ、アナタは……!?」
見覚えのある美女の姿にレーディはたじろぐ。
「四天王の地の人! 一番手強い……!?」
「こんな形で再会することになるとはな、勇者よ」
ドロイエとしては、四天王の使命としてもっとも警戒すべき相手、勇者。
いつ攻めてきてもいいようにとラスパーダ要塞で何ヶ月も待ちぼうけをくらわされた相手でもあった。
「ゼビちゃん、この人もこっち側に来ちゃったの?」
「バレてしまったのだわー。真面目ちゃんがくっついてきて随分窮屈になっちゃったのだわー」
気軽な世間話に、ドロイエは真面目に割って入る。
「久しいな勇者。長いこと攻め寄せてこないから何をしているかと思ったら、こんな奥地をふらついていたとは……!」
「あ、ごめんねー。最近修行で攻略疎かになっててー」
「修行!? じゃあその間厳重に要塞を守っていた私は……!?」
自身の奮励が無意味だったことを知って衝撃を受けるドロイエ。
「あれ? ゼビちゃん言ってなかったの?」
「教える義理もないのだわー。要塞に張り付いてる方が大人しくていいから都合がいいのだわ」
そんなゼビアンテスの襟首を掴み上げるドロイエだった。
「積もる話はありそうですが……」
各自のゴタゴタを収めるように声を発する。
それはエステリカの所業だった。
「誰だ?」
「あの人は初めて見る……?」
勇者パーティの戸惑いを押し切るように、かまわず話を進める。
「ここにいる全員の目的は、インフェルノ討伐で一致しているはず。ならばここで無用の混乱を招くのは敵の思うつぼ」
全員が思わず頷いた。
「ここはそちらのお嬢さんたちが言うように協力して目標に向かうべきだと存じます。……イダ様どうです?」
「ザコが大人しくしているのであれば、どういう形だろうとかまわん。結局ドリスメギアンとまともに戦えるのは私だけだ」
自信たっぷりのイダの態度に……。
「あの子ども偉そうに……!?」
「どう育ったらあんな尊大なガキになるのでござろうか……!?」
死後『エインヘリヤル体』を魔王から与えられたイダは、数百年存在し続けても不老不死で、少年のような姿のまま。
「ねーねーレーディちゃん。レーディちゃんも赤マントがここにいるって聞いてきたのだわ」
「ええ。センターギルドからの緊急連絡を受けて、ここに来たのよ。特別監獄を襲撃したインフェルノが、ここへ向かうと聞いた生存者がいたの」
その情報はゼビアンテスたちの有しているものと同じだった。
出所が同じなのだから当然ともいえる。
「一体ドリス……いやインフェルノは何故、このような森に向かったのだ? アイツは目的もなしに逃げ惑うとは思えないが」
「この『おろしの森』には討伐不可能の強大モンスターがいます。ヤマオロシノカミという名です」
イダの独り言のエステリカが答える。
「そのモンスターのせいでここ一帯は進入禁止区域になっています。何か目的があるとしら、そのモンスターしか思い当たる節がないですね」
「モンスターなどに何の用があるというのだ? いやドリスメギアンの考えることは常に理解を超えるが……!?」
先人たちの議論が煮詰まっていた時である。
「よろしいか」
割って入ったのは、勇者パーティの一員となったゼスターだった。
「実はそれがし、つい先日そのヤマオロシノカミと遭遇したことがある」
「ほう、それで?」
「同行していたダリエル様が気になることを仰っていた」
A級昇格試験で、受験者たちがモンスターに挑んだ時のことである。
「ダリエル様は仰っていた。『あれは魔獣だ』と」
「なに……ッ!?」
告げた途端、イダの表情が変わった。
「魔獣だとッ!? 魔獣がいるというのか、ここに!?」
「少なくともダリエル様はそう仰っていた」
魔獣。
それはモンスターとは別種の、モンスターより遥かに恐ろしい怪物。
かつてダリエルは炎魔獣サラマンドラと戦いその恐ろしさを実体験した。
だから気づけた。ヤマオロシノカミの本当の名が、風魔獣ウィンドラであることも。
「イダ様……?」
「ドリスメギアンが魔獣を求めたとなると話は変わってくるな、しかもかなり深刻に……ッ!?」
魔族が保有する禁呪の中には、魔獣を使役したり魔獣と融合して力を得るものがある。
双方個人レベルではとても制御不可能で、最終的には必ず暴走して終わるのだが。
「地獄に落ちた連中の考えは常識では計れん。どんな危険なことだろうとやってのける」
「とにかくまずは魔獣の下に向かうべきですね。巨大な方がちまちま隠れる連中より見つけやすいでしょう」
目標が決まり、駆け出そうとしたところへ……。
「その必要はナイ」
森の奥から、二つの人影が現れた。
まるで魔獣へと至る道を塞ぐかのように。
「探す必要はナイ。お前たちの相手は、我々二人が務めヨウ」
「……チッ」
一人はやたらと線の細い、針金のような男だった。生命力を感じさせない様子に、ただ真っ赤に輝く二つの瞳が恐ろしい。
まるで地獄の炎のような赤さだった。
もう一人の男は短躯で、全身みっちりと筋肉が詰まった体つきにして手足も太い。
ただ、やはり赤々と燃える双眸は両者共通していた。
「何者だ?」
チームの中でもっとも強いイダが代表して尋ねる。
「まーた知らない人が出てきたのだわ。レーディちゃんわかる?」
「いいえ、一体誰……?」
誰一人見覚えのない凶人二名が。
「鈍い野郎だウゼェ。……これでわからねえかよ」
「あッ!?」
二人組のうち、短躯の男が両手をかざした。
その十指からそれぞれ伸びる計十本の鎖に、チームの中の幾人かが反応した。
「あの鎖!? ラスパーダ要塞で見た……!?」
「あの赤マント野郎が使っていた武器なのだわ!!」
インフェルノが使っていたのと同じ武器を使う。
それが意味するのは……。
「私の名はセルニーヤ、そしてこちらはアボス」
「ケッ……!」
地獄の炎を瞳に宿した使徒は言う。
「私たちはインフェルノ。お前たちのもてなしのために、ここで待ち受けてイタ」






