193 イダ他、出撃準備する
俺がかつてインフェルノと戦った時、ヤツは自分をジークフリーゲルだと名乗った。
苦戦であったが何とか一刀両断し、インフェルノは滅びたと思った。
しかしその後にインフェルノが出没したと聞き、まず考えたのが『インフェルノ二人以上いる説』だった。
アイツは頭からすっぽりと赤マントを被り、中身の見分けなんかつかない。
印象的な赤マントをお揃いで装着し『アイアム インフェルノ』と宣言すれば何度でも地獄の使いは出現するのではないか。
「それは正解であり、不正解ですね」
俺の考えを述べてみるとエステリカさんからそう言われた。
「ヤツらは複数であり一人です。幾人かの亡者が寄り集まって一人分の肉体を形成している。だからアナタが戦った時も、肉体の主導権はジークフリーゲルがとっていましたが他の亡者もたしかに体内にいたのでしょう」
結局その時両断して殺せたのは、肉体の主導権をとっていたジークフリーゲルだけだった。
詳しくはわからないが、どうもそういうシステムらしい。
肉体が燃えて消え失せたのは、死んだと見せかけて俺を油断させるためだという。
「焼失したら、さすがに俺も死んだと判断せざるを得ないからなあ」
「炎に紛れて転移なり隠形なりの魔法を使えば、死んだと偽装することも可能だ。インフェルノを構成する亡者の中に優れた風魔法使いがいれば、ダリエルくんすら騙せるだろう」
その口振り。
インフェルノを構成している亡者を把握できてない?
「ドリスメギアン以外は取るに足りない。事実一人はもうキミによって斬殺され、もう一人は魂を熱変換されて消滅した。確実に頭数を減らしているということだ」
「残り何人ぐらいなんですかね?」
「さあ、減ってることはたしかだ」
イダさん言う。
かなりテキトーだな過去の偉人。
昔の価値観だからか?
「ここから確実に追い詰めていく。ドリスメギアンの抵抗が潰える時だ」
そういやこの人、インフェルノを捕まえるために現世に戻ってきたんだっけ。
ん?
いやいやいやいや、ちょっと待って?
「それは困りますよ! また大騒動起こすってことですか!?」
前もそうだったやん。
無断で人間領に入って、出会う冒険者片っ端から蹴散らしていくのでセンターギルドが大わらわ。
ついには勇者が出動する事態に発展してしまった。
「安心なさい。そのために今回私が同行するのです」
と言うのはエステリカさん。
「イダ様は、数百年前の現世しか知りません。現代の常識と口違い、トラブルを起こすのは仕方のないこと。かといってドリスメギアンと正面切ってやり合えるのは彼を置いて他にない」
しかもインフェルノは魔王様からの探査を逃れるために、より遠くの人間領へ潜伏している。
それでこっちでばかり事件起こすのか。俺でも同じようにするわ小憎たらしいヤツめ、と思った。
「私はヴァルハラの使徒の中でももっとも若く、しかも人間族出身です。今の現世にも馴染みやすいでしょう。現世人とのトラブルは私が未然に防ぎます。そこでダリエルさんにもお願いがあるのですが……」
はい?
「アナタは今の人間社会で、相応に発言力があるのでしょう? 我々が人間族の敵でないと関係者に通達できませんか? それで無用のトラブルはなくなります」
「もしや、それも俺を訪ねた目的の一つ?」
「はい」
そう言われてもな。
勘違いしないでもらいたい。俺は結局田舎村の村長にすぎんのだ。
もってる権力も大したことない。
まあコネはある程度あるから、そっちを通じて動かすこともあるいは……。
「理事長さんに事情話すのも面倒そうだな。やっぱりアランツィルさんに頼るしか……?」
「それはやめてください」
「え? なんで?」
自分から頼んできておいて?
「騒ぎを避けるなら魔法を使わないで静かにするのが一番いいんじゃない?」
前回なんか魔法使いまくりで、まさに進軍といった感じだったろう。
あんなん大ごとになるに決まっている。
「言われてみればたしかに……! イダ様、ここからは魔法禁止で進みましょう。目標を見つけ出すまで息を潜めるのです」
「仕方ないな、わかった」
やけに素直に従うなあ、と思ったが、恐らく魔王様に怒られた直後だからだろう。
これから二人はインフェルノを探し出すために、人間領を密かに進んでいくらしい。
「いやいや、やっぱ待って?」
それでもまだ二人を行かせるには問題がある。
インフェルノには人間側も対処しているのだ。
「当代の勇者であるレーディが、仲間を率いて探索しています。もし途中でかち合ったら……?」
つい先日も死闘を繰り広げた両者だぞ。
また修羅場になることも……?
「あの、私に挑んできた少女たちか。……もし彼女らが先にドリスメギアンらと遭遇したらどうなる?」
イダさんは、ごく当たり前のようにハッキリ言った。
「確実に殺されるぞ。私の空間歪曲に必死に食い下がる程度の実力では、ドリスメギアンの敵にもならん」
キッパリ言いやがるなあとムカつくが、多分事実なのだろう。
「彼女らを死なせたくなければ、私たちが先にドリスメギアンを見つけて対処するしかない。彼女らのためを思うなら協力するのだな」
「仕方ない……!」
二人に俺からの身元保証書を持たせておこう。
一応一村の長が身分を請け負うんだ、余所の町村でかなりの手間が省けるだろう。
「助かります。ではイダ様、そろそろ出ましょう」
「ああ、今度こそドリスメギアンをひっ捕らえてみせる!」
なんか用事が済んだらしい。
突然押しかけてきて、出ていく時も唐突なヤツらだ。
「お待ちください」
それを引き留める者がいた。
誰だ?
「私もお供させてくださいませんか?」
と言うのは四天王のドロイエだった。
え? 何?
イダさんたちについて行ってインフェルノと戦おうっていう趣旨の発言!?
「私たち四天王の役目は、魔王様をお守りすること。魔王様を害さんとする脅威を確認した以上、私たちが黙って見ているわけにはいかない」
真面目だなあ。
現役の四天王は、現役の勇者にだけ対処してればいいんでないの?
「……心意気は買うが、足手まといを連れて行く気にはなれん。ドリスメギアンの取り巻き程度に手も足も出なかったヤツらではな」
「だからこそ雪辱の機会をお与えください! この恥辱をそのままにして四天王の座に居続けられません!」
「………………」
イダさん、ドロイエの真っ直ぐな視線を見詰め返し。
「……よかろう」
「ありがとうございます!」
あらまあ。
まさか承諾するとは。
「イダ様。現世の人を巻きこめばまた魔王様のお叱りを……!?」
「私が責任を取る。ドリスメギアンはまだ取り巻きを伴っているだろうから露払いは必要だ」
なんとドロイエまで同行することが決定してしまった。
「よし! これで汚名を晴らすのと同時に、先人の戦いを見て学ぶことができる! 共に頑張るぞゼビアンテス!」
「えッ、なんでわたくしも同行することになっているのだわ?」
唐突に呼ばれて困惑するゼビアンテスだった。
「お前も四天王である以上、使命には服さねばならんだろう。今までだらけていた分しっかり働くのだぞ」
「ぎゃーッ!? ドロイエがこっち側に来たら面倒が増えたのだわーッ!?」
引きずられていくゼビアンテス。
それを眺めて思った。
「俺も行くべきかな……!?」
一度はアランツィルさんに押し留められたが、今回説明を聞いてインフェルノというか、ドリスメギアンがかなり危険なヤツだということがわかった。
これを放置しては仁義にもとるし、俺の住むラクス村にもいつ危険が迫るかわからぬ。
「……マリーカ」
「わかっています。どうかお気をつけて」
話の間、静かに控えていたマリーカはすべてを飲み込むかのようだった。
よくできた妻の後押しを経て……。
「俺も行きます。全力を注いでインフェルノを滅殺しましょう」
……と名乗りを上げた。
しかし。
「ダメです」
何故かにべもなく断られた。
「アナタは付いてきてはいけません。この場を離れてはいけません。いいですね」
そう拒絶してきたのはかつての勇者エステリカさんだった。






