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191 エステリカ、勇者だった

「イダ様が訪問されたのだと聞いたのだが!?」


 そう言って駆け込んできたのはグランバーザ様だった。

 その肩にちょこんとゼビアンテスが乗っていた。


 姿が見えないなと思ったら……!


「一大事なのでグランバーザ様を呼びに行っていたのだわ! ファインプレーなのだわ!!」


 余計なことをしやがって……!


 せっかく三兄妹の稽古で留守にされていたのに、わざわざ呼び込んでくるとは。

 ついさっきもグランバーザ様に聞かせたくない嫌な話が飛び出たばかりなんだぞ。


「おお、未来のヴァルハラ入門者最有力候補ではないか」

「要塞でお目にかかって以来ですな。その節は碌に挨拶もできず……!」


 グランバーザ様が跪く。

 この方がそれぐらいの礼を払う相手なんだよなイダさんて改めて感じ入る。


 そしてもう一人の訪問者へ視線が向かい……。


「……ん? お前は……!?」

「久しいですね火炎使い。まさかこんな形で再会することになろうとは」


 グランバーザ様とエステリカさんの会話が、まるで過去面識があるみたい。

 そんなバカな。エステリカさんだってヴァルハラに入った以上はずっと昔の人なんだろう。


「グランバーザ様、この怖そうなお姉ちゃんと知り合いなのだわ?」


 怖そう言うな。


「うむ……!? しかし、そんなことあるはずが……!?」


 戸惑うグランバーザ様。

 しかし今、あるはずのないことが起こりまくりなんです。


「彼女は先代の勇者だ」

「え?」

「いや、アランツィルのヤツも引退したから先々代か? とにかくアランツィルの前の代の勇者だ。私が戦って倒した」


 なんとも衝撃的な事実発覚。

 証言に間違いはないのか、エステリカさん本人は無言で受け止める。


「当時私は四天王ではなく、四天王補佐の席にいた。かつてのダリエルと同じだな」

「それって何十年前ですか!?」


 少なくとも俺が生まれる前ですよね?

 遠い過去に因縁のある、今や顔中にしわが刻まれ老境明らかなグランバーザ様と、若くお色気絶頂のエステリカさん。


 ……実感が伴わねえ。


「あの時は不覚を取りました」


 と語るエステリカさん。

 つまり事実だと認めた!?


「いや、アランツィルもバケモノであったが彼女も恐ろしい相手でな。当時の火の四天王が彼女に秒殺されてしまった。他の四天王も勇者の仲間に抑えられ、このままでは要塞を突破される……、という状況で私が戦うしかなかったのだ」


 当時四天王補佐だったグランバーザ様が。


「油断していましたね。四天王を倒したのだから、その補佐など何程のことがあろうと。その侮りが致命的だった」

「彼女を阻止した功績で、私は正式に四天王に就任、『業火』の称号を戴いた。それ以来彼女を見ることはなかったが……、その姿、イダ様同様ヴァルハラから来たと言うことか?」


 グランバーザ様は息を飲む。


「ということは……!?」

「ご勘違いなさらず。私が死んだのはアナタのせいではありません。別の一件によってです」


 と釘を刺す。


「本来私はヴァルハラに入れるだけの功績はありません。それでも入門が叶ったのはすべてあの御方の恩情から。感謝に堪えません」

「そう言えば魔王様が仰っていたな。彼女は『人が行うにもっとも素晴らしい戦いをした』と。詳しくはえっと……」

「イダ様」


 指すように鋭い視線が飛ぶ。


「究極魔法もいいですが、デリカシーも同じように修得してほしいものですね。そうしたガサツさが現代との齟齬になっているとご助言いたしたはず」

「すみません……!?」


 こうしてイダさんの言葉の続きは封じられた。

 何を言おうとしていたんだろう。


「でも、今でも信じられない……!?」


 そう呟くのはドロイエだった。

 ウチに来て立て続けに衝撃を受けて、色々壊れてしまわないか心配だ。

 彼女は真面目だから。


「魔王様が栄誉あるヴァルハラに、四天王だけでなく勇者まで迎え入れるなんて……!? 勇者は敵ではないですか? 他でもない魔王様の御身を狙う……!?」

「結局あの御方にとって敵も味方も関係ないのかもしれません」


 戸惑う若人に先人は言う。


「魔族も人間族も、あの御方にとっては取るに足らない存在。脅威にもならなければ頼もしい味方にもならない。唯一たしかな使い道があるとすれば、遊具」


 遊具……!?


「地上における勇者と四天王との戦いも、ヴァルハラの狂想も、地獄の亡者の泣き叫びすら、あの方の暇潰しの余興に過ぎないのかもしれません。ヴァルハラに迎えられ世界の真実に近づくほどに、そうとしか思えなくなってきました」


 たしかに。

 魔王様にとっては人間族も魔族も違いないのかもしれない。

 だから功績さえあれば区別なくヴァルハラに迎える。

 いかに勇者が狙ってこようと、本当に魔王様が倒されるようなことは絶対にない。

 戯れに引っ掻いてくる子猫に怒る飼い主などいない。


「そこまでにしろ」


 今度はイダさんが会話を制した。


「魔王様への疑いは不敬だ。ヴァルハラの使徒がすべきことではない」

「申し訳ありません」


 エステリカさんも素直に引いた。


「しかし、そのタブーを躊躇なく侵す者もいます」

「そうだ、それが問題だ」


 傍で聞いてすぐピンときた。

 俺の脳裏で、烈火のように揺らめく赤マントの映像が浮かぶ。


「インフェルノですね」


 ヤツの目的は魔王様を倒すこと。

 アイツ自身がそう言ったのだ。


「なんか大きな遠回りをしてやっと本題に戻ってきた気がする……」

「そうだな。すべての問題の根源はヤツだ」


 だからあらゆる話題の根を辿っていくとアイツに行き着く。


「ヴァルハラが過去の勇者四天王の行き着く場所なら、地獄もまた同じ」

「行き着く理由は真逆ですがね」


 悪逆非道の行いによって強者の誇りを汚した者が、ヴァルハラの真逆、汚辱のどん底、地獄へ行く。


「ヤツは言いました、自分の名はジークフリーゲルだと」

「インフェルノを構成するパーツの一つだな」


 その後、センターギルドで調査し、その名を見つけ出した。


 ジークフリーゲルは公に記録を抹消された、悪党勇者だ。

 強さのみに執着し、敵味方関わりなく数え切れないほど斬殺した。


「ヴァルハラが所属関わりなく英傑を迎え入れるなら、地獄もそうでしょう。罪人なら魔族人間族区別ない」

「いかにもそうだ」


 ここまで説明してくれるんなら、洗いざらい喋ってくれてもいいだろう。


 インフェルノとは何者なのだ?

 あの不気味で、奇怪極まる怪人の正体とは?


 俺はアイツから直接的な被害をこうむったこともある、その対抗措置として断固戦い、一度は滅ぼしたとさえ思った。


「無論、話します」


 エステリカさんが言った。


「そのために私たちは来たのですから。インフェルノは、一度はアナタを標的に定めました。ヤツが再びアナタを脅かさないためにも、アナタはヤツのことを知っておく必要がある」


 それもまた俺を訪問した理由だと。


「既に察しているでしょうが、インフェルノは地獄に落ちた過去の四天王や勇者です。皆地獄に落ちるだけの非道を行い、性根は腐りきっています」

「その者たちが脱走し、魔王様を害するというのなら、その動機はわかりきっているな」


 復讐。

 地獄に落とされた仕返しか。


 言われれば実に単純でしっくりくる。

 ヤツらが苦しむのはヤツらの犯した悪行の自業自得というべきだが、そんな当たり前が通じないから地獄に落ちるのだろう。


「しかしその中で唯一、単純な理屈だけでは通用しない男がいる」


 イダさんが重々しく言った。


「ヤツの魔王様に対する感情は、他より遥かに複雑で不可解だ。誰もヤツの心底を覗ききることはできない。ヤツの戦友であったこの私ですら……」


 イダさんの口調は、抑えきれない慚愧の念に堪え切れないという感じだった。


「ヤツの名はドリスメギアン。インフェルノの中心にして、リーダー格、本体と言ってもいい」


 かつての魔王軍四天王の一人。その中でも一際異色の存在。

 歴代でも間違いなく最強の力を持ち、加えてあまりにも異常だったゆえに記録からも存在を抹消された。


『沙火』のドリスメギアン。

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