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187 ダリエル、ドロイエを元気づける

「ダリエル! このバカ! 薄情者だわ!」


 いきなり罵倒されてなんだと思ったらゼビアンテスの野郎だった。


「ドロイエちゃんがこんなに頑張って頼み込んでいるのに、つれなすぎなのだわ! もうちょっと思い遣り持ってあげてもいいのだわ」

「そうかもしれないが……」


 ……そうかもしれないとしても、だ。


「お前だけにゃ言われたくねーよ! 誰のせいで俺が前職クビになったと思ってるの!?」

「バシュバーザのアホのせいだわ! 断じて! わたくしに責任はなかったと言い張っておくのだわ!」

「お前のせいでもあるんだよ!」


 俺がさっき言った言葉を聞いていなかったのか!?


 俺は聖人じゃないから、理不尽に解雇されたことをそれなりに恨んでおくからな。

 その辺、忘れないようにヨロシク!


「しかし、だからと言ってここまで頑張ってきたドロイエちゃんに辛く当たるのは可哀相なのだわ」

「うっく……ッ!?」


 ゼビアンテスのくせに正論を突きやがって。


 たしかになあ。

 連帯責任とはいえ、バシュバーザが好き勝手した責めを彼女に負わせるのは忍びない。

 無能ばかりの中でただ一人、真摯に頑張ってきた彼女だからなあ。


「……わかったわかった。魔王軍に戻ることはできないが、何か困ったことがあったら来るといい。相談に乗るくらいはしてやる」

「本当かッ!?」


 失意に沈んでいたドロイエの表情が俄かに輝き出した。


 ……ドロイエは真面目ではあるけれど、こういうところ女の子だよな。

 瞬間的な現金さが……ッ!?


「人間側の内情を明かすとかはできんが、一般的な戦術指南なら、いくらしても問題はないだろう。さすがに彼女一人に責任抱え込ませるのも可哀相だし」


 押し潰されて過労死とかにでもなったら寝覚めが悪い。


「それでもいい! 助かる! 私はまさにそういう戦術面サポートを求めていたんだ! お前が相談に乗ってくれるなら、これほど心強いことはない!!」

「はいはいはいはい……ッ!?」


 ドロイエってここまでグイグイ来る人だったっけ!?

 俺が四天王補佐だった時代にはもっとクールな印象だったような……ッ!?


「要塞勤めが長かったせいで精神病んできたみたいなのだわ。時折情緒が不安定になるのだわ」

「やっぱり激務が蝕んできてるじゃねーかッ!?」


 危ない!

 この女、擦り切れる寸前だった!


 今からでも、しっかりとしたケアを心がけていかねば!!


「今さらな話だが、ダリエル、お前という人材の貴重さが失われてやっとわかった。四天王には、軍という集団を的確に運営する能力に欠けている。まったくダメだと言っていい」


 前にもした話を繰り返すのも情緒不安定の表れなのだろうか?

 でも重要なことだから念押しするのもいいか。


「恐らく、そういった能力をすべてダリエルに頼ることを想定した人選だったのだろう。我々はダリエルがいなければ何の役にも立たない世間知らずだったのだ。ダリエルこそが五人目の四天王だったと言っていい……!」

「いえいえ……ッ!?」


 また滅多にないこと言うな。

 それほど思い詰めていたってことか。


「この期に及んでは、出来る限りの教授をお願いしたい。我々四天王に戦いの作法を……!」

「それならわたくしがもう教えてもらったのだわー」

「なにぃーッ!?」


 ゼビアンテスの不用意な発言に、いきり立つドロイエ。


「まさか貴様! ラスパーダ要塞の構造にやたら詳しかったり、効率的な警備態勢を提案してきたのは!? ダリエルから入れ知恵を!?」

「にゃははははははは、バレてしまっては仕方がないのだわ。そう、わたくしはダリエルから教えてもらったことを、あたかも自分の発案であるかのように振る舞っていたのだわ」

「コイツーーーーーッ!?」


 ドロイエがキレるのももっともであった。


「言え! いつからダリエルを発見していた!?」

「昔のことは忘れたのだわー」

「そんな以前から接触していたってことか!? 何故即座に報告しなかった!? 私がダリエルのことを血眼になって探していたことは知ってただろう!?」

「だからこそ、必死の捜索を高みの見物するのは楽しかったのだわ」

「このおおおおおおッ!?」


 ドロイエさん。

 益々同僚に恵まれんな。


 なんか全力で手助けしたくなってきた可哀相で。


「俺にわかることなら何でも答えてあげるから……。差し当たっては人間領に潜伏させている諜報網を、キミにも使えるようにしておく……」


 元々は魔王軍の諜報活動のために構築されたものだが、俺がクビになると共に活動停止に追い込まれてたんだよな。


 先日俺が私費をつぎ込んで復活させた。


 理由としてはラクス村の発展のため、有用な情報を収集するために。


「元々は魔王軍のために構築されたものだし勝手に使うのは心苦しかったんだが、バシュバーザに無理やり資金を断たれたって言うからさ」


 俺の金を注ぐんなら俺の利益(正確にはラクス村の利益)のために使ってもいいかなと思ったのだ。


「でもそもそもの母体は魔王軍なんだし、キミらも使って何の文句もない」


 諜報網を駆使すれば目に見える範囲外も、まるで実際に見るように把握できるし、行動の指針にもなるだろう。


 現場で諜報人員を仕切っているセルメトは現四天王が大嫌いでケンカ上等みたいな感じだったが、俺から上手く説得するか。


「凄い……! それがあれば勇者の動向を知ることも……!?」

「う? うん……!?」


 つい最近までここに勇者がいましたなんて言えない状況。


「聞いてなのだわ! ドロイエのヤツ、いつ勇者が攻めてくるかわからないからって、ずっと要塞にこもってたのだわ! ウケるー!」


 ウケるなよ。


 レーディはここ最近ラクス村で修行に打ち込んでいて要塞を攻める気もなかったのに。

 聞けば聞くほどドロイエが可愛そうになってしまう!!


「……あ、あと、別に俺がいないからって魔王軍には他にも軍事のノウハウを知ってる人が山ほどいるでしょう? そういう人たちに親密になって教えを乞うたりしないの?」

「…………」


 あれ?

 なんか沈黙が返ってきた?


「……現状、魔王軍上層部と四天王の関係は極めて険悪なのだ」


 えー?


「原因はダリエル、アナタを解雇したことだ。あの一件は想像以上に魔王軍全体に衝撃を与えた。主要な暗黒将軍や暗黒騎士長が連名で四天王への非難声明を発表したり……」


 それだけに留まらずバシュバーザが生前やらかしまくった醜行で、魔王軍全体からの四天王評価は地に堕ちているそうな。


 まさに一連のバシュバーザ禍。


 問題のヤツが死んで、ドロイエが必死に奔走してもなかなか信頼回復には繋がらない。

 元来勇者警戒のためにラスパーダ要塞から動けなかったドロイエだ。


「だからー、グランバーザ様に間に立ってもらって仲介してもらえばいいのだわ。偉いオッサンどもが頑固でも、大御所の意見なら聞くのだわ」

「我々の不始末に偉大な先代を煩わせるというのか!? それこそ我らの面目丸潰れと言っているだろうが!!」


 真面目な性格のドロイエは安易な解決法が取れない。


「…………」


 俺は深く濃い溜息を吐いた。

 他人事として横で聞いていてこれなんだからドロイエ当人の心労は推し計りがたい。


 ゼビアンテスももうちょっと心労持って。


「……わかった、俺から何とかしておこう」


 俺自身、魔王軍所属時に懇意にしていた暗黒将軍の方々は何人かいる。


 今はもう除隊して無関係の俺だが、そこまで昔のことじゃないし上層部の顔ぶれはそう変わりないだろう。


 手紙でも書いて説得したならば、心を開くとっかかりになるかもしれない。


「ダリエル……! 恩に着る……!」


 ドロイエは俺に抱きつかんばかりの勢いで縋ってきた。


 今まで頼る者がいなくて、ずっと一人で耐えてきたんだろうなあ。

 その苦労、察するに余りある。


 よく頑張ったと褒めてあげたくなる。


「よく頑張ったのだわー、偉いのだわー」


 相対的にゼビアンテスへの怒りもこみ上げる。


「とにかくこれからは、俺ができる限りは助けてあげるから……!?」


 ドロイエの擦り切れようを見ていたら、そうとしか言えないのだった。


 立場的に問題ないの? と心配もないではないが、まあ上手くやろう。


 どうせゼビアンテスが住み着いてしまった時点で申し開きのしようがない。


「……いや住み着かせてないよ!?」

「いきなりなんなのだわ!?」


 習慣が怖い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大体、100人以上の組織には一人はゼビみたいなのがいますよねぇ。困ったもんです、本当に。
[良い点] ゼビアンテスの明るく反省無しが笑いを注ぐ。(笑)
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