184 ガシタ、勝つ
「うお……!?」
「ひええええ……!?」
三対一のこの勝負。
あっという間に一人抜けて二対一になってしまった。
末っ子サリーカが圧倒されている間、他の二人は何をしていたか?
仲間がピンチなんだから助けろよ、と思ったことだろう?
で、実際何をしていたかというと何もしていなかった。
ガシタの壮絶なオーラ操作技術に圧倒され、呆然と立ち尽くしていたようだ。
「……はッ!? いかんサリーカがピンチだ、助けるぞリューベケ!」
「もうやられたよ!」
致命的判断の遅さ。
センターギルドでA級昇格試験を落とされたのもこの辺を鑑みられてだった。
「ボサッとしてちゃダメっすよー」
ガシタ、ピンと立てた指を横に振る。
その動きに呼応するかのように空中に静止していた矢が、大きく旋回して横に飛ぶ。
先ほどまでサリーカを襲い続け、最後には喉笛寸前にまで迫った矢。
本当にあれ一本だけですべてを済ますつもりか!?
「残りは二人。アニキに失望されないようガンガンいくっすよー」
矢は迅雷の速さを見せるが、ガシタ当人は直立したまま。
この静と動のギャップが益々恐ろしさを助長する。
「くッ! 来るぞリューベケ! 備えろ!」
「サリーカがやられる前に聞きたかったなその言葉!?」
ちなみに死亡扱いを受けたサリーカちゃんは戦場離脱し、俺の隣にちょこんと座っています。
死亡席。
「弓矢使いの弱点は、接近戦だ! 懐に入られたら狙いを定める余裕もないし、身を守る術もない!」
正しい。
こうしてたまに的確な判断を下すんだよな。
「リューベケ! あの遠隔操作の矢はお前の盾で防げ! その間に俺が本体を仕留める!」
「あいあいさー!」
彼らの正当なコンビネーションに乗った。
多勢の優位を活かし役割分担して、効率的に敵を倒そうとする。
「こい! オレの盾が何でも防いでやるぜー!」
次男リューベケが自慢の盾をかまえる。
真っ向から飛んでいく矢が、正面から盾にぶち当たる。
「あめーぜガシタにーちゃん! 防御特化したガード(守)オーラで固めた盾に真正面から挑むなんて!!」
これで矢は抑えられてしまった。
その隙にスタンビルがハンマーを振り回し、ガシタ本人へと向かう。
「本丸に攻め込んだりぁ!」
一本の矢以外一切の武器を持ち込まなかったガシタは身を守る術を持たない。
「余裕ぶっこき過ぎたなガシタ! リューベケが抑えている限りお前は丸腰だ! この程度のお粗末な戦術を練るお前にA級は十年早い!」
手加減なしに、ハンマーを振りかぶる。
「この敗北を教訓に一からやり直すんだな! 死ねえええーーーッ!!」
そして振り下ろす。
あのヒット(打)オーラをガン込め鉄槌をくらえばまともな人間が耐えられるとは思えない。
ホントにガシタを殺す気か!? と一瞬慌てたが、結局どうと言うこともなかった。
ガシタがしっかり攻撃を回避したので。
「へッ!?」
よけられたために、目標を外した鎚は代わりに地面をしたたか打って土を撒き散らす。
大きなクレーターが開いた。
「今のをよくよけたな! しかし次で終わりだ! えいこのッ! ……あれッ!?」
またよけられた。
ガシタは見事な体術で身をひるがえし、蝶のごとく空中を跳び回る。
スタンビルはその動きを追いきれないので、自然攻撃を命中させるのも無理。
「オレら弓矢使いは接近戦に弱い。んなこた百も承知っすよ」
回避動作を続けながら言う。
「だから懐に入られた時の対策は、アニキに言われて充分にしてます。レーディさんやセッシャさんと模擬戦して、回避行動の極意をしっかり体に叩きこんだっすよ」
勇者やその仲間とそんな訓練してたのか?
なんて贅沢なヤツだ。
「そして、攻撃面だって甘くしてはないっすよ……?」
その時であった。
『うぎゃはあッ!?』と悲鳴が上がった。同時に硬いものを打ち抜く大きな音も。
見てみると、そこには盾をかまえた次男リューベケの姿が。
彼のかまえる盾に一つ。穴が開いていた。
大きさ的に指一本入る程度の、小さいがしっかりした穴が。
「あの穴ってまさか……?」
オーラ対オーラの戦いは、オーラの強さこそが勝敗のカギを握る。
性質をどう生かすかも重要だが、それでも最後に明暗を分けるのはやっぱり純粋なオーラの強さだ。
強い方が勝つ。弱い方が負ける。
だからたとえ防御に適したガード(守)オーラをまとわせた盾で立ちはだかっても……。
結局それ以上に集中凝縮させた攻撃オーラなら突破することもできる。
「盾を貫通した……、ガシタの矢が……!?」
あの盾に空いた穴は、それを示す動かぬ証明。
ちょうど矢一本が通り過ぎていったのにちょうどいい直径の穴だった。
「ガシタのスティング(突)オーラが、リューベケのガード(守)オーラを大きく凌駕した……!」
その結果が明確な勝敗が表れ、防御が打ち崩された。
盾を貫通した矢はどうなったかというと、リューベケの胸部寸前、触れるか触れないかの距離で空中停止していた。
サリーカちゃんの時と同じだ。
リューベケ当人には傷一つない。
普通盾を貫通されたのなら、その後ろにいる盾使い当人も諸共貫通していて当然のことだろうが。
矢を操るガシタが意図して止めたのだろう。
オーラによる遠隔操作で急停止。
そうせずに走り切っていたら、今頃リューベケの体にもしっかり穴が当ていた。
「リューベケも死亡!」
この状況を鑑みて、俺は弟くんにも戦線脱落を通告する。
これで戦いは純粋に、ガシタとスタンビルの一騎打ち。
でもハンマーは、依然としてガシタを捉えられない。
「くそッ!? どうして! どうして当たらない!?」
「動作が雑すぎるっすよ。大振りが持ち味のハンマーだからって、狙いがテキトーでいいわけないっす」
ガシタから指導される始末だった。
その間も弟くんの息の根を止めた(実際は止めてない)矢は、再始動して大きく旋回している。
次の獲物を見定めるように。
遠隔操作される矢は、さながら空中を縦横無尽に飛ぶスズメバチのよう。
それもガシタの卓越したオーラ操作の精密さと、膨大なオーラ量によってできる技。
「くっそー! こうなったら必殺の『急転落盤崩』でー!」
「オヤジさん譲りの必殺技すね? 現役のオヤジさんが使ってたのを何回も見てますよ」
つまり対処は万全と言うことだ。
「スティング(突)がオーラを点として扱う特性なら、ヒット(打)はオーラを面として扱う特性。広範囲高質量のオーラで制圧するヒット(打)に一点集中のスティング(突)は、多くの場合で力負けする」
「随分理屈っぽい口調だな!? ガキの頃はもっと色々いい加減だったろうお前は!?」
「人は変わるもんすよ。オレは、ダリエルのアニキに変えてもらった」
跳躍するスタンビル。
渾身のハンマー攻撃を、直上から振り下ろすためだろう。
対してガシタは、流麗に指を振る。
その動きに合わせて矢も華麗に旋回。まるでガシタを主人にして忠実な飛翔戦士のように。
その切っ先は真っ直ぐスタンビルに相対している。
「ダリエルのアニキは教えてくれたぜ。何事にも要点を掴むことが大事だとな。面にも線にも。どれだけ広がろうと、その中心にして急所となる点がある」
面には重心がある。
重さ、力、作用の中心となる点が。
「降り注ぐハンマーの作用面にもな。重心を見抜き、正確に射抜くことができれば、スティング(突)がヒット(打)に負けることはない」
駆け走る矢。
振り下ろされるハンマーの頭と真っ向からぶつかり合う。
そのハンマーの、力の中心点にしっかり命中すれば、刺し貫く力はどこにも逸らされることなく最後まで貫徹する。
「ぐわあああああッ!?」
刺し貫かれたハンマーはそのまま粉々になって四散し、スタンビルの攻撃は失敗に終わった。
ガシタは本当にたった一本の矢で三人を圧倒することができたのだった。






