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183 ガシタ、A級の実力を見せつける

「とにかく納得できません!」


 スタンビルが長男として、その場を代表した。


「オレはガシタと古馴染だ! 子どもの頃には共に野山を駆けて遊び、一緒に悪戯してはオフクロに叱られて木に吊るされ、一緒におやつを盗み食いしてはオフクロに叱られて頭だけ出して土に埋められたりしてた!」


 壮絶な子ども時代送ってんなあ。


「ううッ、封印していた記憶が甦ってくるっす……!」


 ガシタが悪寒に震えていた。


「だからこそオレは、ガシタのすべてを知っている! ガシタが、そんな簡単にA級に合格できるわけがない!!」


 言い切りおるわ。


「ガシタは冒険者として才能に恵まれているとも思えない! 都会に出て、他の色んな冒険者を見てきたオレだからこそわかる! そしてこんな田舎に引きこもっていたなら、自分を磨く大きなクエストにも遭遇しなかったはずだ!」

「そのガシタさんがA級になれたというなら、それやっぱりダリエル義兄さんによる贔屓ッ!!」

「お願いアタシたちも贔屓して!!」


 兄妹どもが縋ってくる。

 やれやれどうしようもないなコイツら。


「お前たちはガシタのことを相当見くびっているな……!」


 俺は無言でグランバーザ様にアイコンタクトを送る。

 深々と頷き返される。


「自分より上のレベルを実体験しておくことも重要な訓練になるだろう。まして古馴染の同世代が、歩んだ道の違いでどれだけ差をつけているか、をな……」


 グランバーザ様が意地悪い表情をしていた。

 多分俺もそういう表情していると思う。鏡がないから確認できんが。


「そういうことだガシタ。こちらの人々にキミの実力を教えてやってくだしゃんせ」

「えー? オレこれから薬草集めのクエストに出なきゃなんすけどー?」


 A級にもなろうというのに、まだそんな下積みクエストを受注しておるのか。

 初心を忘れないためらしいが、マジで立派なもんだ。


「……ガシタの歳ならベテラン冒険者と言っていいだろうに。それでもまだ薬草集めだと……?」

「その程度のクエストしかこなせないなら、やっぱりガシタ兄ちゃんA級は看板倒れだぜ……!」

「華麗にガシタお兄ちゃんに勝利して、アタシたちの方が有用な手駒であるとアピールするのよ!」


 そして立派でないヤツらがおる。



 そうこうしているうちにガシタvs出奔三兄妹の試合が行われた。


 皆その手に武器をかまえ、充分な臨戦体勢。


 長男スタンビルはハンマー。

 次男リューベケは盾。

 末っ子サリーカは双剣と、A級昇格試験の頃と様相は変わらない。


 まだ試合開始の合図はしていないが、それを待てずに今にも飛びかかっていきそうな雰囲気であった。


「一対三か」


 また不公平な対比だなあ。

 しかし戦う当人であるガシタが了承したのだから、どうしようもない。


「アニキの意図はオレにもわかってるっす。その意図を充分に反映できるように踏ん張るっすよ」


 とのこと。


 そんなガシタが取り出した武器は、一本の矢だった。


「へ?」


 スティング(突)オーラに適性のあるガシタは、弓矢を武器に戦う。

 それは以前から変わりないが今回、矢だけで弓はない。


「なんで?」


 弓矢は揃ってワンセットの武器だろう?

 弓なしでどうやって矢を飛ばすというんだ?


「アニキの意思を反映させるって言ったっしょ? オレがアニキの指導でどんだけ強くなったかを示すために、今日はこの矢一本だけでスタンビルさんたちに勝ってみせるっす」

「なんだと!?」


 言われて当の対戦者、声を荒げて反応する。

 挑発されたと受け取ったか。


「ガシタ! しばらく会わない間に随分偉そうになったな! たった一本の矢でオレたちを倒すだと! 随分見くびられたもんだ!」

「オレたちだってレイハントン街でB級冒険者に登り詰めた! 甘く見てたら怪我するぜ!?」

「そもそも一本って何よ!? 矢なんか数十本と用意しないと戦いの役に立たないでしょう!?」


 非難轟々。

 さて、ガシタが俺の意を本当に汲み取ってくれているなら、圧倒的ハンデをつけながらも圧倒的大差で勝ってくれるはずだ。

 この数年間、俺を慕ってきたガシタなら……。


「……オレはね、ダリエルのアニキが不在の時もずっと研究を続けてきたんだ。自分の得意なスティング(突)オーラについて……」

「う……ッ!?」


 ガシタのオーラが、矢へと伝わっていく。

 放つための弓すらない、たった一本の矢。


 その一本でどうやって精鋭たる三人と渡り合うのか?


「わかったんだ。オーラは、事象のあらゆる運動を強化する。だから一定の強さを持ったオーラを矢に込めれば……。工夫次第で……」


 オーラの力で、矢は……。


「弓で飛ばしたように勢いよく飛ぶ」


 ガシタの手から、飛び出す矢。

 その速さは雷光のごとく。

 まさしく矢で飛ばすのと遜色ない、いやそれ以上の速度で。


「ひうッ!?」


 矢が向かった先はまず、三兄妹の末っ子サリーカちゃん。

 本来ならマリーカが加わって四兄妹となるはずの次女の子だ。


 スラッシュ(斬)オーラに適性があり、即して選択された得物として、双剣はなかなかの脅威だ。

 オーラのお陰で切断力が増しているから片手の取り回しでも充分な凶器。

 おかげで二刀流にしても手数が増えるだけでデメリットがない。


 その忙しなさは俺も、A級昇格試験で体験させられた。


 そんなサリーカの双剣が、迫りくる矢を寸前のところで弾く。


「うふぃッ!? 危なかった……!?」


 どうやらギリギリ反応できたといったところらしい。

 しかしギリギリでも対処成功できたのなら成功だ。


 唯一の得物と宣言した一本の矢が弾かれ、宙を舞う。

 そこからガシタはどう戦いを進めるのか?


「もちろん俺が使うのはあの矢一本だけっす」


 その一矢が阻まれたのに動揺の素振りもない。


「あの矢は、まだ生きてますからね。スティング(突)オーラは、射出物の強化にも適してるっつー特徴を持っている。単に威力や速さだけでなく、狙いの精密さまで補正してくる。それらを行き着くところまで究めれば、どうなると思う?」


 弾かれた矢が、空中でクルクル回る。

 撃ち出された志向性を失って、あとは重力に惹かれて落ちていくのみだろう。

 地面に接したら、あの矢の活動は止まる。


 そう思いきやその前に空中で……。


 ……勢いを回復して、再び飛び走った!?


「はあッ!?」


 驚いたのは標的にされたサリーカだった。

 一度弾き落とした矢が、再び迫ってくる。

 しかも最初に射出した際と変わらぬ猛スピードで。


「うひゃわッ!?」


 再び双剣で弾き落とすことに成功。

 至近距離で不意打ち気味だったのに、よく間に合ったな?


 あれも彼女らがそれなりの水準の強さであるからだが……。


 しかしそれでも終わりじゃなかった。


 再び弾かれても、矢は空中で再び勢いを取り戻して飛翔。

 標的であるサリーカ目掛けて執拗に飛んでくる。


「ぎゃあああああッ!? しつこいわよおおおおおッ!?」


 サリーカの双剣が功を奏し、スラッシュ(斬)オーラの鋭利さ頼みで増やした手数が、よく矢の連撃に付いていっている。


 ただ……、この現象自体がどういうこった?

 そろそろ解説が欲しいんだが?


「オーラの効果っすよ」


 ガシタが解説してくれた。

 やっぱそうなるの?


「スティング(突)オーラの精密性向上を極限まで極めると、随時オーラを介して射出物の軌道を制御することが可能になったっす。平たく言うと、矢を操作できるっすね、離れたところから自由自在に」


 そのようですね。

 だからガシタは弾かれても弾かれてもその都度遠隔操作して、矢をサリーカ目掛けて放っているわけか。


「ぎゃああああッ!? 終わらない!? 無限ループううううッ!?」


 弾いても飛んでくる。弾いても飛んでくる。

 その繰り返しにサリーカは悲鳴を上げる。


「アレって永遠に続くの?」

「まさかあ。矢に込めてるオーラが尽きるまでっすよ。あのやりとりならあと千回は繰り返せますけど」


 ガシタの基礎オーラ量が段違いだった。


 サリーカの双剣が手数を誇るとはいえ、永続的に襲ってくる矢をいつまでも凌ぎ切れるわけがなく。

 集中力を失った彼女は容易く、弾き落とす動作を外してしまうのだった。


「あッ!?」


 失敗したと思った時にはもう遅い。

 双剣の防御をかいくぐった矢は、サリーカの喉笛に突き刺さる寸前で止まった。

 空中に制止した。


 オーラで飛ばした矢を操作できるというガシタ。

 止めることだって当然できるだろう。


 そしてガシタが意図して止めなければ、矢は確実にサリーカの喉を貫いていた。

 よって……。


「サリーカ死亡」


 と判断し、模擬戦の参加資格を剥奪した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 技名はファンネルで良いですか?
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