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182 ガシタ、昇進した

 その後、マリーカの第二子懐妊の報告とかで大いに盛り上がりし……。

 ラクス村に帰ってきた実感が大いに沸いてきたところで……。


 来客があった。


「アニキー、アニキ御在宅っすかー?」


 ガシタであった。


 我がラクス村在住の冒険者。

 村出身村育ちの生え抜きで、ここで冒険者やってた経歴は俺などよりも長い。


 俺がセンターギルドに訪問していた間、村を守ってくれていたのは彼。

 レーディ始めとした勇者パーティも俺と一緒にセンターギルドへ戻っていったため、マジで彼が村防衛を指揮していたと言っても過言ではない。


 いまや村最古参で村最強の冒険者だからな。


 そんなガシタが帰着早々挨拶に来てくれた。

 律儀な子だ。


「アニキー。オレちょっとアニキに聞きたいことがあんすよー。それでちょ……、……あれ?」


 ガシタを迎えたのは自宅前であったが、ちょうどその頃は大騒ぎ。


 グランバーザ様が宣言通りスタンビルたちを直々に鍛えられておられたからだ。

 あの御方の放つ火炎魔法は、個人レベルの冒険者が太刀打ちできる範疇になく、ただ燃やされまいと逃げまどうことしかできない。


「あつあつあつ! 逃げろ焼かれるううううッ!?」

「これマジ訓練になるの!? ただ焼死しないために逃げ惑っているとしかあああッ!?」


 生き残るために必死になってるだけだった。


「うーん? あそこの死に物狂いの連中どっかで顔見たような? ……あ」


 ガシタはブツブツ言ってしかるのちに気づいた。


「スタンビルのアニキじゃねーですかい!? それにリューベケとサリーカ嬢ちゃんも!?」

「そういうお前はガシタ!? 懐かしいなあ久しぶりだなあ!!」


 何これ皆はお知り合い?


 そう意外でもないか。

 皆ラクス村出身だもんな。


 ガシタは生まれも育ちもラクス村。対してスタンビルどもは人生の途中でラクス村を見限って出奔した。

 とはいえ年も近いし、顔見知りだとして何の不思議もない。


「ヘヘッ、そーなんすよアニキ! スタンビルさんとはガキの頃、よく一緒に森の中を探検した仲っすよ!」

「懐かしいなあ! お前まだラクス村にいたんだ!? オレたちみたいに出ていったものかと!」


 皆が自分と同じ選択をすると言わんばかりのスタンビル。


「侮るなよ。ガシタは片時もラクス村から離れることはなかったんだぞ」


 俺が重大な事実を言い添える。


「とは言ってもオレと同世代の連中は皆、村から出てったんすよね。夢を求めて都会に行ったり、あるいは出稼ぎだったり」


 廃れて生活力を失いつつあったラクス村では、そうするしかないからな。


 俺が訪れてすぐの頃、村にはマリーカ、ガシタの二人しか若者がいなかったのは、そういうことだったか。


 しかしガシタは、何故最後まで村に残り続けたのだろう。

 マリーカを例外としたら最後の一人と言っていいぐらいに。


 案外と郷土愛の強い男なのかもしれぬ。


「アニキが村を立て直してくれたおかげで、随分若いヤツらも戻ってきましたよ。もう出稼ぎなんかしなくても村で充分稼げるようになりましたからね!」


 今では村も、若者たちで活気づいている。

 すべてはミスリル鉱山が再開し、流通が興ったお陰。


 やむなく村外へ出稼ぎしに行った者が戻ってきたり、また純粋に仕事を求めて移り住んできた余所者もいるだろう。


 そして、かつて滅びゆく故郷を見捨てた者も……。


「……な、なんだよ? なんだその目は!?」


 俺とガシタの蔑むような視線を、さすがに気づいたのだろう。

 スタンビル他二人は過剰に反応した。


「仕方ないだろ! 村がこんなに復活するなんて思ってもみなかったんだよ!」

「都会まで行かないと結婚相手と出会えないんだもん! 村にはイモ男しかいないんだもん!」


 弟と妹が発言。

 勝手なことを喚きたてやがって。


「もう一本、稽古つけとくか?」


 グランバーザ様が火炎魔法をかざして呼びかけてきた。

 すみませんね。なんかなし崩し的に小休止になっちゃって。


「しかしオレたちは心を入れ替える! 村がこんなにも復興して繁栄を見せている以上、オレたちも村の一員として尽くす所存だ!」


 お前らマジでラクス村に復帰するつもりだったのか?

 お義母さんじゃないが、さすがに虫がよすぎる気が……!?


「もちろん簡単に行くとは思っていない……! オレたちの欠いた義理は、そう簡単に許してもらえるものではない」

「簡単に許されてもいけない……!」

「そこでアタシたちは、落とし前をつけるのよ!」


 物騒な言葉が出て来たな。

 落とし前。

 一体どうする気だ?


「無論、修行する! たくさん訓練して力をつけ、来年のA級昇格試験に再挑戦するんだ!」

「そして今度こそ合格してA級冒険者になる!」

「A級のブランドは絶大! A級冒険者を何人抱えているかで、各町村の冒険者ギルドの格が決まると言っていいわ」


 ほうほう。


「A級が一人所属しているだけで一流ギルドの仲間入りと言っていいぐらいだからな!」

「各街のギルドでは、格を高めようとA級冒険者のヘッドハンティング合戦が行われるぐらいなのよ!」

「あまりに熾烈すぎるからセンターギルドが『一ギルドが所属させるA級冒険者は五人まで』というお達しを出したほどです!」


 へえ……!

 知らんかった。よく勉強しているなキミら。


「A級になったオレたちが戻ると言えば、さすがにオフクロもダメとは言わないはず! オレたちへは鬼のように厳しくても村の利益になることなら拒みはしないのがオレたちのオフクロ!」


 言ってて悲しくならない、それ?


「幸い、何故か今、訓練をつけてくれるおじさんは厳しくて地獄のよう!」


 実際この世に地獄を作り出せるレベルの御人だからねグランバーザ様は。


「この地獄に耐え抜けば、オレたちは来年こそA級冒険者になれるはず! その資格をもってオレたちは故郷に帰ってくるのだ!」

「故郷に錦を飾るっす!」

「凱旋するのよー!」


 夢を膨らませとる三兄妹たち。

 まあ夢を思い描くのは、実際A級昇格試験に合格してからにしとくれ。


「……あ。で、そうそうA級で思い出したっす。オレ、アニキに聞きたいことがあって来たっすよ」


 とガシタ。

 おうおう、そうだった。放置してしまったみたいですまんな。

 あの兄妹たちにすっかり話の腰を折られてしまった。


 で、何を聞きたいのかな?


「なんかオレ、A級冒険者になるそうなんすけど?」

「おう、おめでとう」

「どういうことっすか?」


 おめでとう。

 そういうことだぞ。


「「「なにいいいいいいーーーーーーッッ!?」」」


 三兄妹が聞きつけて迫ってきた。

 寄るな。お前たちが絡むと全然話が進まない。


「A級に昇格!? ガシタお前がA級に!? どういうことだ!? お前A級昇格試験に参加してたのか!?」

「いや、してないっすよ」

「ならなんで昇格してるの!?」

「それがオレにもわからないから聞きにきたんすよー」


 A級冒険者に昇格するには、センターギルドで行われる試験を受けて合格しなければならない。

 その試験はつい最近行われ、俺自身も関わった。テストする試験官側として。

 つい数日前のことだったはずがなんだか遠い思い出のようだ。


 俺の留守を守ってくれたガシタは当然のように受験できなかったが。


「俺が合格させといた」

「「「「えええぇーーーーーッ!?」」」」


 一斉の絶叫。


「どういうことっすか!? アニキの仕業だったんすか!? いきなりA級昇格の告知が来て何のことかと困惑すること山のごとしなんすけど!!」

「向こうでA級昇格者を判別する機会を貰ってな。キミのことを推薦しておいたぞ」

「推薦してなんとかなるもんなんすか!? そういうシステムじゃなかったと思うんすけど!?」


 たしかにガシタの言う通り、試験やってるんだから試験で出た結果を基準に合格者を出さないと試験する意味がないよな。


「でも、審査した相手が軒並みキミより断然弱くてさー。ガシタのこと推薦したくてたまらない状況だったんだよ」


 なんでガシタより弱い連中をガシタより上にもってかなきゃならんのか、と。


「アニキ、センターギルドで何してきたんすか!?」


 本当にな。


「そうですよ! おかしいですよダリエル様!」

「アナタが身内びいきする人だったなんて!」

「だったらなんでアタシたちのこと合格させてくれないんだすか!?」


 三兄妹たちにまで揃って抗議された。


 いや勘違いするな。

 俺は身内びいきなんてまったくしていない。


 ただ試験を受けに来ていた人たちよりもガシタの方が圧倒的に強かった。

 だから推薦したまでのことだ。


 あとキミら身内じゃねえし。


 キミらを身内扱いすると妻と姑が怖いんだよ。

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