181 スタンビル兄妹、里帰りする
ラクス村よ、俺は帰ってきた!
というわけで懐かしのラクス村です。
センターギルドへ観光しに行ってきたここ数日。それを終えての帰還であったのだが、何故だろう?
物凄く懐かしい気がする。
まるで何年かぶりのようだった。
それだけ俺が、この村に住み慣れていたってことかな?
ラクス村は俺の新しい故郷だからな!
……さて。
郷土愛アピールもそこそこにしておいて……。
早速だが帰宅早々事件が起きた。
ごく小さく些細な事件ではあるが。
マリーカの兄スタンビル。あと弟リューベケくんに妹のサリーカちゃん。
センターギルドで偶然にも出会い、運命の数奇さを実感させたあの兄妹が……。
ラクス村へとやってきていた。
元々ラクス村出身の彼らだが、現在はゆえあって別のところで暮らしていた。
長いこと音信不通で、故郷がどんな状態になっていたかも知らなかったらしい。
それがひょんなことから俺と遭遇し、ラクス村の近況を聞く。
それで矢も楯もたまらず帰ってきたということらしいが……。
◆
「「「うわああーーーーッッ!?」」」
叩き出されていた。
ラクス村の前村長夫人。
つまり俺のお義母さんによって。
「よくノコノコと戻ってこられたわねえ?」
お義母さん。
柔和な笑顔の中にも強烈な意志の強さを湛えて言う。
「村を捨てて出ていった恩知らずどもが、どのツラ下げて帰ったのかしら? 本当に節操がない。育てた親の顔が見てみたいわねえ?」
お義母さん!
親は、アナタです!
いやコレわかってて言ってるな?
スタンビル、リューベケ、サリーカの三人は、マリーカの兄妹であるのだから自然彼らもお義母さんの子どもたちである。
みずから腹を痛めて生んだに違いない。
しかしこの仕打ち。
村を捨てた裏切り者には、たとえ息子娘でも容赦せぬと言わんばかりだった。
「ごほほおおお……、待ってくれ母さん。オレたちはけっして村を捨てたわけではなく、いつか都会で成功して故郷に錦を飾ろうと……、ごべッ!?」
「お黙りなさい。取り繕いは通じませんよ」
スタンビルの顎をハタキで打ち抜く。
あれがお義母さんのメインウエポン?
「アナタが村から出て行った時、何と言ったか覚えていますか? 私は覚えていますよ?」
「うぐ!?」
「『こんな田舎で燻っていられるか!』『オレの輝く場所はここじゃない!』『オレは生まれてくる場所を間違った!』『真の故郷を見つけ出す旅に出る!』とかなんとか」
「うぐぅッ!?」
母親から追い込まれ、たじろぐ長男。
「挙句、弟妹たちまで誑かして一緒に出ていくなんて……。アナタの口車に乗せられず一人残ったマリーカだけが本当に私の娘だわ。他は知りません。死ね」
「お母さんッ!?」
お義母さんのマジ容赦ない追撃が兄妹たちにぶつけられるのだった。
そもそも何故こんなにも容赦がないのかというと……。
スタンビルたち兄弟が、故郷を捨ててラクス村から出ていったのが発端らしい。
かつてのラクス村は、自然消滅目前とまで言われるほどの限界集落。
そんな朽ちかけの故郷に、若者は自分の将来を託し難かったのだろう。
立身出世を求めて都会へと旅立っていった。
「本当に変わっている……! オレたちの故郷が、見知らぬ街へと……!」
帰郷の第一声でそんなことを述べておられた。
「何もない田舎村だったのが、どうしてここまで……!? オレたちが子どもの頃駆け回った野原が、住宅地に変わっている……!?」
すみませんね。思い出の風景を思い出だけのものにしてしまって。
俺がやってくる前のラクス村は酷い田舎で、兄妹が今なお抱いていた村のイメージもそんなものだったんだろう。
そもそもラクス村の田舎っぷりが嫌で出ていった連中だ。
「そのくせラクス村が発展して大きくなったら帰ってくるなんて。私の子どもたちにあるまじき節操のなさ。一番辛い時期に逃げ出した者に仲間の資格はありません」
きっぱりと言うお義母さん。
「そんなッ!?」
悲鳴を上げる子息たち。
それを傍から黙って見守る俺。
その隣に並んで立つマリーカ。その胸の中でスヤスヤお昼寝するグラン。
平和である。
「なあエリーカや。それぐらいで許してやってはどうか……!?」
その中で唯一、仲裁しようと必死に割って入るのを試みる人。
お義父さん。
お義母さんの夫でスタンビルどもの父親でもある彼が率先して動くしかなかった。
「なんやかんや言ってもワシらの子どもたちだろう? それが何年かぶりに帰ってきたんだ。温かく迎えてやるのが親という……」
「お黙りなさい」
お義母さん強い。
「家族だからこそ家を捨てて出ていった者を、家に入れるなどできません。特にコイツらはかつて村長であったアナタの子。場合によっては、この子らがアナタの跡を継いで村長になるはずだったのに、それを拒否したのよ? そう簡単に許しては示しがつきません」
「そうかもですが……!?」
正論ど真ん中過ぎて辛い。
「や! ホラでも! ワシだって若い頃はキャンベル街に出稼ぎに行ってたし! そのお陰でお前とも出会えたんでしょう!? この子らだって若い頃には旅を……」
「この子らは『二度と帰ってくるか』といって村を出ていったのです。出稼ぎとは根本的に違います」
「そうっすよね……!」
反論できずに意気消沈してしまうお義父さんだった。
「ダリエルくん助けてくれ……! ワシだけじゃ妻を説得できない……!」
「無理です」
俺が協力したってお義母さんを説得できるとは到底思えない。
さらに俺が参戦すると必然的にマリーカも参戦するから、結局意味ないですよ?
マリーカも兄弟妹絶許勢ですし。
相変わらず実母から蹂躙されて蹴散らされるスタンビル兄妹たちをなすすべなく眺める俺たちだった。
「スタンビルはなあ……! 初めての子どもだけあって本当に可愛くてなあ。ついつい甘やかしてしまって」
「わかります」
俺も初子のグランくん超可愛い。
注意しないとついつい甘やかしてしまいそう。
「そのせいで随分生意気に育ってしまって……! 都会に憧れて出ていったのもそういう部分があると思うんだよ。ワシがなあ。ワシがしっかり育ててればなあ……!」
顔を覆うお義父さんであった。
「わかりますぞ、その気持ち」
おっ、グランバーザ様。
昨日あたりから怪我の療養という名目でラクス村に滞在しているグランバーザ様。
「初めての子はな……、どう育てていいかわからず、ついつい甘やかしてしまう……! 後継ぎだと決まっていたらなおさら……!」
……。
もしかしてグランバーザ様、みずからの実体験を引き合いに出してます?
バシュバーザのケースを持ち出すのは……!?
アイツはアイツで特殊すぎるような……!?
「わかりますか!? そうなんですよ長男は可愛いんですよ! 妻に叱られてもついつい甘やかしてしまうんですよおおおおッ!?」
「わかりますぞ! わかりますぞー!」
義父と養父が意気投合しておる……!?
「どうであろうか? 私がここにいる間、彼らを我が手で鍛えてやりましょう。使い物になるほどに調整すれば貴殿の奥方も納得してくれるのでは?」
「おお! ダリエルくんを一人前に仕立て上げたグランバーザ殿にお任せできるのであれば安心だ! 妻も必ずや満足してくれるでしょう!!」
なんか妙なことが勝手に決まっていた。
いやいや……。
グランバーザ様。アナタご自分の立場にご懸念を。
一応敵陣なんで彼ら。
「すまんなダリエル。本来お前が果たすべき仕事を取ってしまって。真面目なお前は、自分の手足とすべき精鋭を自分の手で育て上げたいだろうが……」
「いいえ!?」
コイツらのことなんか育て上げたいとも思ってないし、手勢にしたいとも思ってませんが?
グランバーザ様、現役の名残で勘違いされてる。
「しかし耄碌した私では、お前の手間を省いてやるぐらいしか支援ができずにな。死ぬまでにもう少しお前の役に立たせてくれ」
しかし、やる気を出している恩人に『やめてくれ』とも言えず、成り行きを見守るしかなかったのだった。
……よかったな兄妹どもよ。
当代最高の英傑が直々にキミたちのこと指導してくれるんだってよ。
敵陣営のだけどさ。






