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170 ダリエル、謎る

 こうしてA級昇格試験も無事終わった。

 最初の取り決め通り合格者は三人ほどだが、マリーカのお兄さんたちではない。他のギルド支部から来た受験者たちだった。


 一段落したのでもうラクス村に帰ろうかなと思ったが、まだまだ理事会が紛糾してて落ち着くまで帰らないでと言われた。

 一体何を話し合っているんだ……!?


 しかしこれ以上居座っても特にすることはない。


 ラクス村で生産されるミスリル武器の売り込みでもしようかなあ、と思っていたんだが、事前にサカイくんと相談して『必要ない』と断られた。

 曰く……。


『本当にいいものは売り込みなんかしなくても売れるんです! オレたちの作品は今の時点でも充分に売れています! これ以上生産を上げれば品質に影響がでますので、今のままでいいです!』


 ……とのこと。

 現場からの頼もしい言葉なので従っておくことにした。


 だからいよいよやることがなくてラクス村でも仕事が日一日と溜まっていることだろうから早く帰りたい。


 そこへ……。


「ダリエルよ! 今度こそ! 今度こそ私はやるぞ!」


 アランツィルさんに誘い出された。


「周囲に聞いて絶好の観光スポットを割り出したぞ! グランと嫁さんも連れて一緒に行こう!」

「まだその話あったんですか!?」


 来て最初に空振りした話題じゃないですか!?

 とも頑張ったアランツィルさんの手前言いにくいので、暇も手伝って行くことにした。


「……で、何を見に行くんです?」

「センターギルド中央に立てられている闘神像だ」

「ほー」


 闘神というとアレか。

 冒険者にオーラの力を与えたという戦いの神。昔どっかで聞いた記憶がある。


「オーラで戦う冒険者にとって、オーラを与えた闘神はまさに守護神。センターギルドには闘神を讃えるための巨大な立像がある」

「へー」

「各地にも闘神像はあるが、センターギルドのそれは世界最大。訪れる者が必ず拝んでいくらしい。それを皆で見にいこうではないか!」


 凄い一気に観光っぽくなった。

 でもそんな有名そうなものすら知らないアランツィルさん、本当に浮世離れしてるよなあ。

 これから一緒に見て思い出に刻めばいいか。


 そうして見に行ったら……。



「うわあ……、本当に大きいのねえ……!?」


 マリーカ(妊娠三ヶ月判明)がグランを抱き上げ感嘆の声を漏らした。

 センターギルドご自慢の闘神像はたしかに巨大で、同じく巨大なセンターギルド本部の屋内で、一階から四階までの天井をぶち抜き吹き抜けにしたスペース内に建ててあった。


「よくこんなに大きく作ったわねえ……!?」

「成り立ちからして不可思議な逸話がある像でな。そもそもはセンターギルド本部ができる前からこの土地にあって、建物も像を囲むように造られたらしい」

「へーえ」


 恐らく仕入れたばかりの知識を披露するアランツィルさん。

 その間俺はずっと無言。


「そしてこんな巨大な像を誰が造ったかというと、世界で最初にオーラの力を与えられた原初の勇者だという。彼は闘神に直接会って、その姿をそのまま像に彫りこんだと」

「では、この像はまさに闘神様の似姿というわけなんですね!?」

「そうだな、他にある闘神像もすべてここセンターギルドの巨大像を参考にして作られたというし……!?」


 その間も俺は一言も発せず像を見上げることしかしなかった。

 そのノーリアクションぶりを気にしたのかアランツィルさんが不安そうに……。


「あの、ダリエルよ。……ひょっとして気に入らなかったか?」

「いや、そういうことじゃないです。でも今の話本当なのかなって……!」


 最初の勇者が、直接会った闘神を参考にこの像を作ったってところ。


「ん? さあどうだろうな? 数百年、ヘタをしたら千年以上昔の話だ。それこそ事実は伝説の彼方でたしかめようもない」

「俺は本当だと思いますよ」

「ほう、そうか。ダリエルはロマンに夢馳せるタイプなのだな」


 息子の一面を知り満足そうなアランツィルさんだったが、俺には一つ、言い出せない重大な事実があった。

 誰にも言えない驚愕の事実。

 この闘神像……。


 ……魔王様にそっくり。


 像が作られたのは千年以上とは言うが、この事実に気づきえた者が今までいただろうか?

 俺の前職は魔王軍所属。四天王補佐。

 上司のグランバーザ様にくっついて謁見の場に入って拝したことがある。

 魔王様のご尊顔を!

 だから知ってる!!


 この人族魔族の長い歴史の中で、両者を見比べたことのある人なんて何人いたことだろう。


 人間族で魔王様と対面した者などいるわけがない。

 勇者の最終到達目標だし、勇者が万難を排してもたどり着けない未知の先にあるものを他の人が見られるわけがない。


 魔族側だって、位が高ければ魔王様との謁見の栄誉に浴することもできるだろうが、そんな魔族ほどわざわざ人間族の本拠地まで来る用なんかないだろうし。


「これに気づいたの……、もしや俺が史上最初?」


 っていうか魔王様。

 ここで何してたんですか魔王様!?


 魔王様と闘神の顔形が一緒ということは、即ち闘神と魔王様が同一存在?

 ということは人間族にオーラを与えたのは……!?


 ………………。


 ……考えないようにしよう。

 多分そこから先は踏み込んではいけない気がする。


「ほーらグラン、これが闘神様だよ~。立派だね偉大だね~」


 俺は観光地で家族サービスに励む父親に徹した。


「ダリエルよ……! そこまで闘神を崇めて心から人間に……! もう魔族への未練はないのだな……!」


 それを見てアランツィルさんが感涙しておられた。


「……あ、そうだ。頼んでたことの許可おりました?」


 とアランツィルさんに尋ねた。


「おおあれか? それなら記録部から預かってきたぞ」


 懐から一冊の書物を出すアランツィルさん。


「禁書を無造作に懐に入れて持ち運ぶなッ!」

「しかし妙なことを知りたがるのだな。昔の勇者のことなど調べてどうするのだ?」

「過去を知ることは大事ですよ」


 せっかくセンターギルドに来たのだから、調べておきたいことがあった。

 本当に素朴な疑問で、アテが外れたならそれはそれでいいんだが……。


「一応ラクス村にいた時に歴代勇者のことは調べたんですが、目当ての名前が出てこなかったんでね。センターギルドにくればわかるかと」

「それで抹消人名典か? たしかにこんなもの所蔵しているのはセンターギルドしかないしな」


 アランツィルさんに頼んでセンターギルドの奥深くにある秘密の書庫から貸し出してもらった。

 普通これ禁帯出じゃないのっていうヤバい本。


「この中に、過去の勇者の名前とか事績が載ってるんですよね?」

「ああ、かなりヤバい連中のな」


 それこそ千年に近いギルドの歴史。

 その間に何百人という勇者が輩出され、様々な理由で去っていった。


 そんな勇者たちの事績は文書にまとめられ、ギルドが権威づけするための歴史になる。

 しかし当然、権威づけにならない勇者もいたわけで、そういうのは取り上げないのが望ましい。

 思わしい功績を挙げなかったり、逆に悪行を積み重ねたり。

 とりわけ悪行を持つ勇者はギルドの権威を傷つけかねないので歴史から抹消される。普通の書物には載ってないのではないか。


 そう思っていたのだ。


 魔族側にもそうして歴史から抹消された四天王がいるのを知っていたから。


「やっぱり、どっちの陣営もやることは大して変わらんな……」


 と感想を交えつつ、さっそく抹消人物典をパラパラめくってみる。

 こんな公の場所で見ていいのか? って類の書物だが、これには過去醜行悪行を重ねて存在すらなかったことにされた勇者の名が、密かに記されているはずだった。


 たとえ思い出したくもないゲスの名でもこうして密かに記録してくれている几帳面さに感謝だ。

 ページをめくるたびに出てくる、知られざる勇者の名。


 キトゥンガルド。ベージ。カチュキワ。アボズ。フリーオリゼー。


 意外なほど多くある名の中からついに探し求めた名を見つけた。


 ジークフリーゲル。


 彼の項を精読してみると、今から約二百年ほど前の時代を生きた勇者だったようだ。

 スラッシュ(斬)オーラに適性を持ち、同時代に並ぶ者ない剣の使い手だったが、みずからを高めるためと称し強い敵を求め、度が過ぎた。魔族どころか同族にまで戦いを挑み冒険者ギルドの貴重な戦力を潰した。


 そのために追討対象となり魔王軍、冒険者ギルドの双方から追われ、最後には捕縛され処刑。


 ……この名が気になったのは他でもない。

 インフェルノのヤツが言ったのだ。


『オレ自身の名はジークフリーゲル。興味があれば調べてみることだな』


 ヤツ自身はその場で討ち取ることができたが、やはり気になって調べてみた。

 センターギルドの禁書庫まで漁って出てきた、この名。

 これをどう解釈すべきなのか?


 魔王様と同じ顔の闘神像も併せて、世界は謎に満ち溢れていることよ。

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